「稲城の梨」の魅力 クラウドファンディングで発信(東京・稲城市立南山小学校)
東京都では最大の梨の産地として知られる稲城市の小学生たちが、地元の梨を使った総合学習に取り組んでいる。自分たちで作る「模擬会社」を中心に、クラウドファンディングも活用しながら、地域の魅力を発信している。
東京都稲城市立南山(みなみやま)小学校の6年生による、稲城市の魅力を広めるためのプロジェクト。模擬会社を作り、特産品の梨や、美しい自然や景色などを返礼品のデザインやリーフレット等で紹介することにより、稲城市の魅力を知ってもらうことを目標に活動している。
受粉や袋かけ 農家の苦労知る
「簡単に取れるね」「うわ、結構重いよ」
9月12日、市役所にほど近い梨農園に、児童たちの元気な声が響く。少し背伸びをしながら次々に梨を収穫していくのは、市立南山小学校の3年生だ。
「おいしい梨を食べて終わり。ではなく、地元の農家の思いを感じ取ってほしい」。作業を見守った農園主の加藤明さん(68)が目を細める。児童たちは、春から梨の受粉や袋かけなどの作業を続けてきた。
約300年前に始まったともいわれる同市の梨栽培。ブランドとして定着する一方、後継者不足や自然災害の頻発などで、農家を取り巻く状況は厳しさを増している。作業を体験した清水日菜さんは、「大変な作業を毎日やっていることに驚いた。たくさんの人に稲城の梨を知ってもらいたい」と話した。
「起業家教育」でクラウドファンディングに挑戦
6年生になると、起業家教育の一環として「模擬会社」を設立し、梨のPRや消費の促進に向け地元の商店や農家などとコラボした活動に取り組む。きっかけは2019年、当時の6年生が宿泊体験で長野県野沢温泉村を訪れたことだった。特産の野沢菜に愛着を持っている村の人たち。自分たちはどれだけ地域のことを知っているだろうか――。
そんな児童たちの問題意識が「特産の梨の魅力をもっと知ってもらいたい」という活動につながった。起業家教育の視点から、税理士らによる授業も行い「会社」への理解を深めた。19年度には地元の梨を使った洋菓子を販売するケーキ店と協力し、自分たちがパッケージをデザインした商品を市役所などで販売した。
新型コロナウイルスが拡大した翌年からは、梨農家を応援するためのクラウドファンディング(CF)を展開している。返礼品として20年度は手作りの新聞とカレンダー、21年度は梨の絵があしらわれたハンドタオルなどを作り、それぞれ約46万円、約62万円を集めた。収益は、梨農家の支援などにあてられた。
CF3回目となる22年度。模擬会社「南山組Rose」を設立した児童たちは、広報、デザイン、経理、販売の4部門に分かれ計画を進めている。返礼品の目玉は、稲城市をPRするエコバッグだ。
「それではデザイン部から報告してください」
6年生の授業で、社長の田辺翔也さんを中心に行われた模擬会社の会議。「バッグのデザインは?」「リーフレットの内容は?」。児童たちはタブレットを使いながら、意見を述べ合った。「自分ならどんな商品が欲しいか、消費者の立場で考えましょう」。副社長の石塚葵紗さんが続ける。
年内のクラウドファンディング開始に向け、準備も大詰めだ。先輩たちの実績を参考にし、「材料費も上がるし、毎日計算しています」と経理担当副社長の塩崎由弥さんが表情を引き締める。「稲城の人たちのために、という思いを忘れずに、頑張っていきたい」と熱い気持ちを胸に田辺社長らは11日、保護者や学校運営協議会への説明会も控える。
山根まどか校長は、「自ら考え、生活や社会に生かす子の育成」を目指し、「将来の自己実現につながる取り組み」を求めている。地域を愛し、さらなる発展のため、大人を巻き込み活動する南山小の児童たちは、SDGs活動の立派な主役だ。
稲城市の農家戸数と65歳以上の従事者の割合
稲城市では宅地開発が進んでおり、2020年1月現在の人口は9万1540人と年々増加している。一方で、農家の数は1990年の381戸から20年には222戸にまで減少。後継者不足も課題で、農業人口に占める65歳以上の割合は、1995年の39.7%から2020年には59.4%に上昇している。同市では、小学校での体験型の農業学習や、市民と農家の交流を増やす取り組みなどを進めている。