探究学習の先にSDGsのゴール(東京・私立武蔵野東中学校)
2022年度から高校の新学習指導要領で必修科目となった「総合的な探究の時間」。東京都小金井市の武蔵野東中学校では、15年前から自分たちで調べ考える探究学習を取り入れている。「信号のない横断歩道で車は一時停止するか」「泥から発電できないか」――。SDGsの課題解決に向け、中学生たちは、様々な問いに取り組んでいる。
自ら問いを立て、フィールドワーク
「みんなが調べた結果をグラフにしてみよう。円グラフかな? 棒グラフかな?」
菊地武王教諭が語りかけると、生徒たちはそれぞれに端末を開き、データの入力を始めた。1、2年生が毎週水曜日に取り組む授業「探究科」のひとこまだ。
1年生は五つの「ゼミ」に分かれ、テーマごとに問いを立て、実践を通じて探究を深める。菊地教諭が担当するゼミのテーマは「信号のない横断歩道で、一時停止率を上げる方法を探る」こと。車の種類、歩行者は男性か女性か、年齢層は――。生徒たちは自宅近くの横断歩道で夏休みに調べた結果を打ち込んでいく。
菊地教諭のゼミが取り組む横断歩道の調査は、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」を意識したものだ。「どこかに答えがあることをまとめる、というだけでは探究にならない」と菊地教諭。実験やフィールドワークを通して検証し、オリジナルの答えにたどり着くことを目指す。他のゼミにも「"直感"を検証しよう」「物語の流行とコロナ禍」など、ユニークなテーマが並ぶ。
東京都小金井市にある私立中学校。高校を併設せず、行事や部活動も充実した、密度の濃い3年間の教育を行っている。全生徒数は約300名、教科の枠を越えて本質的な学びを追究する探究科やコラボ授業(教科横断型授業)、自主性と自律を重んじる生徒会活動などを特色とする。
自分の学びが誰かの学びに
探究科の原型となる「研究活動」の授業がスタートしたのは2007年。「00年代に入り、社会の閉塞(へいそく)感を強く感じるようになった。世の中を変えてくれるような子供を育てたかった」。当時、教頭としてプロジェクトを推進した菊地知恵子校長が振り返る。17年度からは探究科として、週1回の正式科目になった。同中の特徴の一つは、健常児と自閉症児がともに学ぶ「インクルーシブ教育」。それぞれに刺激し合う環境が、探究心を高める。
21年からは、生徒会有志によるイベントに田中孝宏・読売新聞教育ネットワークアドバイザーを講師として招き、SDGsを「じぶんごと」にするヒントも学んでいる。
「59着の服をリサイクルした」「一日84リットルの水を節約した」などの活動が、読売新聞の展開する「くらしにSDGsプロジェクト」に寄せられた。
探究科では、1年生の11月から個人のテーマを立て、2年生の11月まで1年間かけて研究を深めていく。この春卒業した井内煌惺さんのテーマは、「リサイクルに特化した傘」の作製。ごみとして捨てられているビニール傘が多いことに注目し、水に強い「ユポ紙」を活用した傘を考案。全国学芸サイエンスコンクール(旺文社)で、理科自由研究部門の審査委員特別奨励賞に輝いた。
後に続く後輩たち。吉田奏さん(3年)は、2年生の夏休みに20件を超える子ども食堂に取材し、リポートにまとめた。「貧困を何とかしたいという人はたくさんいると思う。地域の活動をサポートするきっかけにしてほしい」と訴える。
大野慶さん(3年)のテーマは、泥の中にすむ微生物を使った発電。科学雑誌の記事から着想を得て実験に取り組んだ。「発電量が少なく、実用化は難しい」という結論だったが、下水処理の汚泥が活用できることを知った。「将来は日本のエネルギー問題を解決したい」と目を輝かせる。
「自分の学びが、誰かの学びにつながると信じ、探究を続けてほしい」と菊地教諭。それぞれの探究が、SDGsのゴールにつながっていくはずだ。
インクルーシブ教育
障害の有無にかかわらず、ともに学ぶことができる教育を指す。武蔵野東中学校のインクルーシブ教育は、運営する学校法人「武蔵野東学園」が、1965年に開園した幼稚園に自閉症児を受け入れたのがきっかけ。同中は、全校生徒約300人のうち、100人ほどが自閉傾向のある生徒。入試やカリキュラムは、健常な生徒のクラスとは異なるが、学校生活全般を「混合教育」の場として、学校行事や清掃、お互いのクラスを行き来する形の交流給食などで、互いに理解し合う機会を多く持っている。