チョコで知る世界の課題 東京女子学院高校×明治×imperfect
明治の山下さん(上の画面)のオンライン指導のもと、割ったカカオの匂いをかぐ生徒たち。左奥は生徒の様子を中継する保積教諭(2021年2月3日、東京女子学院高校で)=秋山哲也撮影
国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」に本腰を入れる企業が国内でも増えてきている。ビジネスとしての活動を通して、同時に社会課題も解決していこうという動きの一環だ。こうした最先端、かつ、実務に即したプロの視点を知ってもらおうと学校、企業、小売店が協力した授業が展開された。
(2021年3月3日掲載)
Mission 多様に「食」学習
「誰しも関わっていく『食』を通して、人と向き合い、世界と向き合う。そこから、人生のベースを学んでほしいと思っています」
2019年に普通科でありながら、食に関する教科に力点を置く「フードカルチャーコース」を設けた東京女子学院高校(東京都練馬区)。家庭科の保積栄理教諭(43)はその狙いを説明する。
同コースでは、生徒たちに世界との関わりを意識してもらおうと、チョコレートを題材にしている。1年時にはバレンタインに合わせてチョコを作り、2年時には原材料のカカオを取り巻く環境破壊や労働問題といった課題を学ぶ――。近年、企業は投資家などを意識し、経営戦略にSDGsのゴールと理念が共通する「ESG」を取り入れる動きがあり、そうした視点も養ってもらおうと考えた。
だが、今年度は新型コロナウイルスの感染拡大で調理の実技が中止に。困っていたところ、チョコ製造大手の明治が手を差し伸べてくれた。
Action カカオに触れる
2月3日、1年生にオンラインで特別授業をしてくれたのは明治の山下舞子さん(44)。持続的な経営を進める部署の企画グループ長だ。
「日本人が1年間に食べるチョコの量は?」。山下さんは生徒たちの反応を見ながら、軟らかいテーマも織り交ぜて授業を進めていく。正解は2キロで、板チョコで換算すると月3~4枚。消費量トップのドイツの11.7キロなど欧州各国と比べるとまだ少ないことなどを紹介した。
次に山下さんは、小ぶりのラグビーボールほどの大きさのカカオの実を取り出した。事前に同校に届けていたカカオの実も同時に生徒たちの手に渡り、山下さんの指導のもと、包丁が入れられると、チョコの原材料となる種が現れ、生徒からは歓声が上がった。
生徒が割ったカカオ(左)。右側は発酵させたカカオ豆
カカオは赤道を挟んだ南北20度の熱帯地方で作られ、一帯をカカオベルトと呼ぶ。山下さんは「農家がカカオの栽培に関する知識がないことで、買いたたかれないよう、明治は社員を現地に派遣している。生産者を支援し、発酵方法などの技術力も向上した」と、企業としての責任ある取り組みも紹介。06年からは、「メイジ・カカオサポート」の一環で、現地に学校備品を配ったり、絵画教室を開いたりして教育の質向上に尽力しているという。
授業ではチョコ作りの実演やカカオの産地ごとのチョコの食べ比べなども盛り込まれ、最後には「チョコ作りで大切にしていることは?」「明治で働くには?」など、多くの質問が飛び交った。
Goal カフェにも取材
授業に関連し、同コースの生徒25人のうち4人は、東京・表参道でスイーツ販売も手がけるカフェ「imperfect」に取材も試みた。
imperfectでの取材成果を発表する生徒たち。佐伯さん(右)の考えなども紹介した
このカフェは、コーヒーやカカオなどの輸入に長年携わってきた浦野正義社長(46)が「貧困、搾取、肥満など、食と農を取り巻く環境は不完全。でも、その課題を不完全な形であっても解決したい」と考え、仲間6人で19年にオープンした。
商品の購入者に手渡される投票チップ
山下さんの特別授業の後、取材を担当した生徒たちが、浦野さんたちの思いを資料にまとめ、「現在、企業やカフェも環境問題を考えて取り組んでいる」と現状を報告した。同コースの生徒たちは、食を通した社会課題の解決へのやりがいとともに、裾野の広さを肝に銘じた。
編集後記
カフェ「imperfect」は内装もおしゃれ。周辺は一流ブランド店が並び、若者が行き交う。その理念の発信にはぴったりの街だ。明治とも協業しており、商品を買うと売り上げの一部を、原産国の〈1〉環境〈2〉教育〈3〉女性、の課題解決に充てるプロジェクトに参加できる。生徒の取材に応じた佐伯美紗子さん(35)は米国で見聞きした貧困問題が頭から離れず、「長続きしない寄付ではなく、ビジネスで社会課題を解決したい」と入社した。2社が見越した未来はすぐそこまで来ている。(教育ネットワーク事務局 小川祐二朗)
SDGs エスディージーズと読み、Sustainable Development Goalsという英語の頭文字からとった略称。「持続可能な開発目標」と訳されている。2015年の国連総会で採択され、貧困や飢餓、教育、男女の平等、働きがい、生産消費、生態系の保全など17項目の目標を掲げている。目標の下には、具体策や数値目標などを示した計169のターゲットがある。
ワード・ラボ ESG
国連が2006年、投資家に環境や人権などに配慮する投資を求める「責任投資原則」を掲げ、企業の価値を測る基準として重視されるようになった。環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の英語の頭文字を取った。経済広報センターの意識調査によると、「聞いたことがある」を含め、半数以上がESGを認知していた。