プラン練り 学生が会社 担当者に聞く
熊野正樹教授
■大学発ベンチャー 日本は何が足りないか?
神戸大学教授 熊野正樹さん
(2021年11月4日取材)
神戸大でやろうとしていること
小川祐二朗 神戸大学に昨年、教授として着任され、起業家教育に向けた準備をいろいろ進めてらっしゃるそうですね。具体的には何をどうしようとお考えですか。
熊野正樹さん(以下、敬称略) 神戸大学に今年10月、アントレプレーナーシップセンターを作りまして、そのセンター長に私がなりました。神戸大学アントレプレーナーシップセンターは、起業に向けた教育と実践、起業支援を3本柱にする方針です。
アントレプレナー
ゼロから会社や事業を創り出す起業家のこと。アントレプレーナーシップは「起業家精神」と訳されている。
小川 このうち、教育というのは座学をイメージすれば良いでしょうか。
熊野 教育は来年度からですけれど、神戸大学の全学に対してアントレプレーナーシップ教育、つまり起業家教育を実施します。いわゆる単位を出すわけです。正式決定はこれからなのですが、10科目位は提供する予定です。
それらの講義をアントレプレーナーシップセンターのほか、すでに起業家教育を進めている(新しい価値の創造をめざす教育を目的とした)「V(バリュー)スクール」、経営学研究科(MBA)、科学技術イノベーション研究科など学内の各組織と連携しながら、全学の学生を対象にした起業家教育を進めていく予定です。
小川 先ほどの教育と実践と起業支援の3本柱のうち、教育と実践というのは重なり合う部分もあるのでしょうか。
九大起業部の発足式(熊野教授提供)
大学公認の部活動
熊野 もちろん重なり合う部分もあります。端的に言うと、このうち、実践の部分が「起業部」をやるということです。アントレプレーナーシップ教育というのは、(リーダーシップ教育などを含む)広い意味での教育なので、その講義はベンチャー企業(新興企業)を起業したい学生ばかりが受講する訳ではありません。
こうした講義を受ける中で起業したくなった学生に加え、起業したい学生がもともといますので、そういう学生を集めて起業部を作り、実践的な部活動をしていこうと考えています。九州大学でやっていたように、学生時代のうちに起業することをめざした部活動です。
小川 設立は来春ということですね。
熊野 来年5月を予定しています。4月に新入生を迎え入れてからですので、5月発足ですかね。
小川 その入部条件というのは、九大のように「学生時代のうちに起業する意思のある者」を学部生、大学院生を問わず募るのですか。
熊野 基本的にはそうですね。
小川 神戸大でも九大と同じように、大学公認の部活動になる?
熊野 そうです。アントレプレーナーシップセンターが部の管理を行いますので、大学公認ということです。
小川 起業部の顧問は九大の時と同じように熊野先生が務められるということですね。ここに熊野先生以外の神戸大の教官の方の関与はあるのでしょうか。
熊野 起業家教育系の先生にメンターとして参加してもらうことを考えています。
メンター
メンターとは指導者ではなく、対話による気付きを促す同伴者の役割。
熊野教授
学外協力者の組織化と資金調達
小川 メンターとしては、九大や崇城大の時と同じように学外の起業経験者などが協力してくれるのでしょうか。
熊野 起業家のほか、ベンチャーキャピタルの関係者、弁護士、会計士といった方々を組織化していくことになっています。
ベンチャーキャピタル
成長が見込まれる上場前の企業に出資して株式を取得し、その企業が上場する際に株式を売却することで利益獲得をめざす投資会社や投資ファンド。
小川 起業部の運営で、商品やサービスのパイロット版作製費用や各種コンテストへの遠征費用など金銭面はこれまでも課題としてあったと思いますが、神戸大ではどうされるつもりですか。
熊野 九大では社団法人を作って予算を集めていましたが、神戸大学ではある程度の運営予算が用意されているほか、協賛企業もつきます。さらに、神戸大学の100%子会社として、「神戸大学イノベーション」という会社があります。そこに商品の試作品を作ったりする財源があり、そことも連携していこうと。
もっと言うと、神戸大学でベンチャーキャピタルを作りまして、いまお金を集めているところです。おそらく、30億~50億円のファンドを作る予定で、起業部の部員にも投資していくことになると思います。金銭面では大学の起業部としては十分に準備できると思っています。
神戸大学イノベーション
技術移転や外部資金調達、ベンチャー企業の創出・支援を目的として20年に設立された。
日本の大学の失われた20年
小川 私が大学発ベンチャーの取材を始めたのが約20年前。分子生物学の進展を起爆剤として生命科学・医学系のベンチャーが米国で次々とできたころで、国内では国立大学の独立法人化についての議論が始まった前後でした。その際、政府がモデルにしたのが、大学発ベンチャーで稼いだ資金を大学の教育・研究に当て成功していたハーバード大学やマサチューセッツ工科大学,スタンフォード大学などの米国の大学でした。政府予算に頼らず、大学が自ら稼ぎ、資金を獲得していくモデルです。
ところが、その仕組みを直輸入したはずの日本では国立大学の独法化(04年)後も、大学発ベンチャーの創出はぽつりぽつりという感じ。さらには、研究自体も学術論文の国際ランキングでみると、質量ともに低下していっているのが現状です。何が原因で、こうした体たらくになったのでしょう。
熊野 個人的意見ですが、国内の大学発ベンチャー創出で図抜けているのは(300社以上を誕生させている)東大。いってみれば、東大の一人勝ちなんです。東大が独立法人化の時に、産学官連携本部とTLO(技術移転機関)、ベンチャーキャピタルを作りました。この三つが連携して15年くらい経ち、今一定の成果を出していると言えるでしょう。東大はいまなお先頭に立ち、新しいことにどんどんチャレンジして加速して行っている。
なぜこれが東大しかできないのかというのが、僕からしたら逆に疑問です。どこの大学も同じようにやれたはずなんですけど、東大はできて、他大学はできないのはなぜなのかということです。東大のやり方がうまくて、まあ、大変優秀な人材が集まって運営されている、メンバーが良いということに尽きるのかもしれませんが......。前向きな言い方をすると、我々は東大の良いところをもっと見習わなければならない。
小川 東大のどこが優れているんでしょう。
熊野 やるべきことをきちんとやっていますよね。ベンチャーキャピタルをいち早く作ったのをはじめ、起業支援など、ヒト・モノ・カネの面でベンチャー企業が生まれ育つ環境(エコシステム)の整備をしっかりやられているということだと思います。
エコシステム
本来、生物学で使われる「生態系」の意味で、さまざまな生物が相互依存しながら生存している状態を指す。この言葉はビジネス界にも転用され、サービスや商品を複数の企業が協業して作ったり、起業のために起業家やベンチャーキャピタル、研究者、弁護士などが協力し合ったりする環境を意味する。
貧弱な大学の起業支援体制
小川 逆の側面から伺います。東大以外の国立大、私立大などだって、やるべきことはわかっていたはずです。それなのになぜ、できないのでしょう。米国の大学はふつうにやっているわけですから、外部から見ているとなんとも不思議な話です。文部科学省も経済産業省もあれだけ旗を振っているのに、大学側が動かないのはなぜなのでしょう。
熊野 「やらなくてはいけない」と、関係者皆が言っているけれど、それができていないですよね。
小川 それは口先だけだということ? どこに問題があるのでしょう。
熊野 理由はいろんなことがあるのですが、まず、大学発ベンチャーを作り出す仕組みを大学内に作っていないですよね。作っていると言っていても、マンパワーの点で1人か2人でやっているとか、いろんなことと兼務でやっているとか、大きな大学の数多くいる研究者の起業支援をするような十分な体制が学内でとられていないわけです。
九大でもベンチャーを大学として本格的に支援する「ベンチャー創出推進グループ」という組織がようやくできたのが2016年のこと。神戸大学に至っては、本格的に起業支援をやっていくことが決まったのが、アントレプレーナーシップセンターをつくった今年10月です。さきほど触れた「神戸大学イノベーション」という100%子会社を作ったのが20年。いずれにしても、ここ1~2年の話なんですよね。
旧帝国大でも、東大が先行していて、京大・阪大が続いていますけれども、ほかの大学はどこも同じような状況です。地方の国立大などで本格的な体制でやっているのは正直、少ないと思うんです。一応、大学なのでホームページなどには「起業相談」なんて書いてあると思いますが、実際はどうか。担当者は1人程度で、他の何かと兼務でやっているのが実情なのではないでしょうか。その点、東大は15~20年前からやってきていて、国内の他大学は真似すればいいのになぜか真似できないんですよ。
卵が先か鶏が先かという悪循環
小川 へ? それはなぜなのでしょうか。
熊野 まず、人材の問題があります。ベンチャー企業創出の支援ができる教職員が圧倒的に少ないのです。で、できる人を連れてこようとすれば、お金がかかるんですよ。優秀な人はそれなりにお金かかりますから。でも、その財源が大学にはないんですよね。国立大学においては運営費交付金がどんどん減らされて行って、教員の数もどんどん減らされてきている。その辺がなかなか難しくて、卵が先か鶏が先かという問題になっています。
大学への運営費交付金が減らされていく中、研究の質も量も減る悪循環に陥っています。だからこそ、大学発ベンチャーで稼がなければならないんですよ。
小川 そうですよね。
熊野 それでは稼ぐにはどうすればいいのか。大学発ベンチャーを支援しても、それは支援だけであって、リターンがない。それではボランティアに過ぎません。大学が稼ぐにはどうすれば良いかというと、大学が大学発ベンチャーに出資して株を持たなくちゃいけないんですね。つまり、大学がベンチャーキャピタルの役割をしなければいけないんです。
小川 この件は法律が未整備という話ではなかったですか。
熊野 ベンチャーキャピタルを作ることは、どこの大学でも大学の子会社を通じてできるようになりました。ただ、大学本体からベンチャー企業に出資することは東大や京大、阪大など一部の指定国立大学しかできないんです。神戸大などは指定されておらず、できません。
そうやって大学が大学発ベンチャーに投資をして株式を自らが持てるから、そのベンチャーが株式公開をしたり、M&A(合併・買収)でどこかの会社に売却したりした時に、キャピタルゲインとして利益が大学に入るわけです。ハーバードやスタンフォードは、ここで儲けているんですよね。米国の大学は特許のライセンス料で儲けているというより、こうしたキャピタルゲインで儲けているんです。
そうした大学発ベンチャーの創業者も莫大な利益を得ていますので、その一部を大学に寄付したりして、大学の利益がさらに膨らむ図式です。米国の大学はそれをあらたなベンチャー企業に投資するという、うまい循環ができています。そういうのが日本ではほぼ皆無です。
こうした中、東北大と東大、京大、阪大に対しては数年前、文部科学省が数年前に1000億円用意して、ベンチャーキャピタルを作りましたので、起業の数は増えては来ました。それでも、その他の大学は置いてきぼりの状況になってしまっているのが現状です。
小川 これは課題山積ですね。
熊野 そう。僕が大学にいて思うのは、これはトップ、学長や総長の意向がかなり大きい。トップがこの点をいかに理解して、実行していくかどうかにかかっています。でないと、大学の中は動きませんので。ビジネスに関心のない研究者はいっぱいいますし。
大学経営という面でも、大学トップや経営陣の力やリーダーシップが大きい。大学の命運は、トップが大学発ベンチャーの存在価値に気づいてケアできるかどうかにかかっているんです。トップ次第で自体が一変する実例で、福岡でなぜここまで起業が盛んなのかというと、高島(宗一郎)福岡市長がことあるごとにスタートアップ、二言目にはスタートアップと言っているからなんですね。
九大で起業部が出来たのも総長の理解があってこそですし、神戸大学にアントレプレナーシップセンターが新たに設立されたのも、学長や理事のリーダーシップの賜物です。
スタートアップ
ベンチャー企業の別呼称。
小川 私は米国の大学の人たちができて、日本の大学の人たちにはできないというのがすごく不思議です。ベスト&ブライテストの人たちのはずなのに。
熊野 ひとつは、米国の研究者の周りには、ビジネスに関心があるのが当たり前とまでは言いませんけれど、そういうロールモデルがたくさんいるということなんでしょうね。大学の起業に対する支援体制もしっかりしているんですよ。起業に関する周りのエコシステムも機能しているということなのでしょうね。
研究者がCEO(最高経営責任者)になるケースは少ないと思いますが、経営人材もたくさんいますし、ベンチャーキャピタルも潤沢な資金があります。日本は、そのエコシステムをどうやってつくっていくかということで、ここ10年~15年やってきたということなんですがね。
熊野教授
大学人のストライキ?
小川 それは米国の大学をモデルにした20年前から分かっていたこと。文科省も経産省も、大学の独法化を機会に稼げる大学になるべく旗を振り、大学の運営費交付金を減らす代わりに競争的資金を増やすというスクラップ&ビルドをやって来たのではありませんか。その構図は明確なのにできないなんて、大学の研究者たちは政府に対してストライキをやっているようにさえ見えます。
ここ10年ほど、日本は2流国、3流国になってしまって、経済面では(米国の巨大IT企業群)GAFAにはやられっぱなし。医学の面でも新型コロナワクチンさえ作れない国になったことに、憤慨を通り越して悲しい思いです。もちろん大学の役割は教育や純粋な研究の側面があることは認識していますが、技術革新のふ卵器の役割もある。こうした左前の状況の中、神戸大学の起業部で日本の何を変えたいのか、お聞きできますか。
運営費交付金
運営費交付金は国立大の収入の柱で、大半は教員数などに応じて機械的に決まる。2021年度は、86の国立大学などに計1兆790億円を拠出。一部に論文数や若手研究者の比率などに応じて配分する枠に加え、新たに社会貢献の程度に応じて配分する枠を設けるという。一方、競争的資金は、研究者が応募した中から特に優れた研究に配分する研究費のこと。
熊野 それは今できていないこと、やらなくてはいけないことはおおむね決まっている訳です。それを愚直にやるということですかね。
小川 愚直にですか(笑)。ただ、熊野先生が始めた起業部という手法は日本において起業をめざす候補生のすそ野を広げるという意味で、たいへん意味があると思いますね。
熊野 結果的にそういう面もあるのですが、日本の起業家教育というのは「起業家精神」なるものを授業で教えて、「起業したい気持ちをマインドセットする」とか言っている。ですが、僕はそうではないと思っているんですね。すでに起業したいというマインドセットできている学生がいっぱいいる。特に最近は起業家教育の授業を受けていなくても、起業したい、起業に関心があるという学生はいっぱいいるんです。ところが、そういう学生に対して、大学は何かしているかというと、何もしていないんですよ。
日本の起業支援体制はまだまだかもしれませんが、20年前と比べるとはるかによくなってきました。20年前、日本ではなぜベンチャーが誕生しないかという話になり、起業支援の体制は整備されてきました。その結果、どうなったかというと、起業支援する人ばっかりになった訳です。肝心の起業家がいないんですね。
小川 それはこれまでの話と食い違っていませんか。
熊野 つまり、起業支援に対する行政や民間の体制は充実してきたけれど、大学の体制ができていないという話です。起業支援体制はできてきたし、起業したい学生が今は増えてきています。行政も場所によって違いますけれど、福岡市は熱心だし、神戸市もそう。スタートアップの拠点都市は力を入れています。民間はほぼ東京の話になってしまいますが、力が入っています。しかし、地方に行くと全然できていないところが多く、地方の大学もできていません。だから、格差が広がっていくばっかりなんですね。
小川 なるほど。事はかなり深刻です。20年かけて、こういう状況だと、立て直しのためにどこから手を付けてよいかわかりません。直輸入したモデルが機能しないことを学んだのだから、次のステップに行かないと、だめですね。
熊野 そういう意味では大学発ベンチャーもそうですが、まずは大学経営をしっかりしないと。大学がしっかり稼ぐということをやらないといけない。そういう意味では、東大が研究費の捻出のため、「大学債」を(200億円分)発行するそうです。国債のようなものですね。このように東大はいろんな工夫・チャレンジをしています。他の多くの大学が変わらないのは、東大のようにやるべきことをやっていないことが大きいのではないでしょうか。大学にはまだまだできることはあると思います。
小川 そういう大学関係者に言っておきたいことは何でしょう。
熊野 大学は稼がないと、今後やっていけないのは間違いない。そのためには大学発ベンチャーが必要だし、ベンチャーキャピタルを作らないといけない。そのためには、それができる人材を呼ばないといけないが、それにはお金がかかる。鶏が先か卵が先かの話になるんですが、運営費交付金をあてにしていても減る一方なのです。大学人は自分で稼ぐにはどうするかを今一度認識しなくてはいけません。民間では当たり前の話です。
若い世代に期待すること
小川 では、起業したい学生や若い研究者向けにおっしゃりたいことは何でしょう。
熊野 ここまで起業支援する体制は充実してきましたので、彼らにとって今はチャンスだと思うんですよね。大学にはたくさんの技術とか研究成果が眠っているので、そういうものを活用した大学発ベンチャーや起業家をぜひ目指してほしいですね。
小川 理工系はビジネスより研究志向が強いかもしれません。その点、経営学や法学部などの文系の学生がやってくれそうな感じもします。
熊野 理工系の学生もみんながみんな研究者になるわけではなく、その研究をどうやって社会に実装していくか、社会に貢献していくかなので、やっぱりビジネスなんですよね。研究者になるのもいいですが、多くの学生がビジネスの世界で生きていくわけですから、そういうことを意識しながら学生時代を過ごしてくれるといいですね。
小川 最近の若者たち、Z世代などと言われる人たちが我々の世代とだいぶ価値観が違う感じがしています。物を所有しないとか、地球環境の行く末をほんとうに心配しているとかいった点です。最後の質問として、彼ら若い世代に向けた期待を聞かせてもらえませんか。
熊野 確かに彼らの価値観は私たちとは違っていて、世の中を良くしたいと思っている学生が多いと思うんですよ。僕らの世代だと、誤解を恐れずに言うと金持ちになりたいとか良い車に乗りたいとかいった若者たちが起業を目指していたかと思うんですが、今の学生はそうではなくて、純粋に世の中を良くしたいとか、社会の課題を解決したいとか考えているんですね。
彼らは僕たちが言うから教科書的にそういうことを言っている訳ではなく、本当にそう考えている。そこが原動力になって、そのためにどうするかを考えた結果、起業ということになる。起業部の部員はそういうタイプが多いので、純粋にがんばってほしいと思っています。
ただ、気持ちだけでは起業はできないので、知識や企業の手法を学んでほしい。そういうことを教える意味でも、起業部をやっているんですけどね。大学には「起業は目的ではなく手段だ」という教官がいるんです。そんなことは百も承知で、それなら、その手段を教えてくださいという話なのですよ。でも、その手段を彼らは教えられないんですよね。
小川 起業する手段を教えられる経験や資質のある教官が少ないということでしょう。
熊野 まあ、そういうことです。結局、大学の中でこういうことをやるには非常勤の教員だと限界がある。新しいことを大学で始めるには、大学内部に入り込むことが必要だからです。入り込むには博士号が必要です。大学教員はアカデミック(研究職)での基準での採用だからです。そうなると、現役でそういう人はなかなかいない。しかも、そういう現役バリバリの人の給料からすると、国立大学の教員の給料なんて安いもんですから、そういう人は来ないんですよね。
ではどうするかというと、大企業の引退した人が次の候補なんですが、大企業でのマネジメントは抜群でも、2~3人のお金のないスタートアップ支援では、使う筋肉が違うと思うんです。この問題は簡単なようで難しいのは、そういう訳なんです。
小川 やり方はあるはずなのに、そこにたどりつけないもどかしさがあります。ただ、このままでよい訳はない。そこをなんとか突破して、大学発ベンチャーの起爆力で日本社会を革新して行っていただきたいですね。