2030 SDGsチャレンジ

スペシャリストに聞く

なくせ!海洋プラごみ 担当者に聞く

オンライン会議の風景。左上から時計回りに大森さん、小川、楜澤さん、保坂さん、三島さん

 

■高校生主催のプログラムという大実験

 駒場東邦高3年(取材時) 楜澤哲さん

 渋谷教育学園渋谷高1年(同) 大森智加さん

 東大大気海洋研究所特任教授 保坂直紀さん

 東大大気海洋研究所特任研究員 三島勇さん

 読売新聞記者 小川祐二朗(聞き手)

(2021年3月30日取材)

 

プログラム後の発展性

 

小川祐二朗 ここに集まった5人を中心に、このプログラムの企画・運営を担ってきました。このうち楜澤さんは準備段階におけるプログラムの実行委員長でした。半年間のプログラムが終わり、どう総括しますか。

 

楜澤哲 まず良かった点は、志は同じなのに住む場所が違うために、ふつうなら出会うことのない高校生同士が出会えた点です。オンライン会議システムの活用が功を奏し、このプログラムの基本理念が実現できました。もう一点、僕たちが最初に紙の上で考えていたこととは大きく違って、人間味のある出会いになったことも、(オンライン上ではなく)国際会議で全国各地からの参加者たちと実際に初めて会ったときに実感しました。加えて、メンターの方々とも話をして、こうした研究者がいらっしゃることを知ることができ、逆に高校生と社会人がお互い何をしているか知らなかったことが分かったことも、大きかったです。

 もう一点はプログラムの発展性ということ。始める前は、このプログラムが終わったらどうなるか、皆が想像できなかったじゃないですか。しかし、終わってみると、国際会議で発表できなかったチームを含めて、今後もアイデアを発展させていきたいというチームや、チームでなくても刺激をもらったので個人で活動を続けたいという人がいたことです。このプログラムでの出会いが、そのきっかけになったことも大きいですね。

 


楜澤さん(写真は本人提供)

 

小川 プログラムの研究成果はどう評価していますか。

 

楜澤 最初こそ手探り状態でしたけど、最後の追い上げもあって、国際会議で発表できる研究のレベルにはなったと思います。しかし、内容面ではプログラムの中身をもっと考えておくべきでした。「分野横断」をいうことを掲げていましたが、できていないチームもありました。逆に分野横断はできていても、研究を進めるのにもっともっと調べるべき点があるチームもありました。期間が6か月という制約があったとしても、もうすこし、引き出せるものがあったかとは思います。

 

 

雰囲気づくりに苦闘

 

小川 海外の大学受験が本格化した楜澤さんに代わり、その後の運営を担った大森さんはどう考えていますか。

 

大森智加 私も最初は参加者の成果物がどうなるか予測はまったくできなかったので、参加者と一緒にプログラムを手探りしながら走り抜けてきたというのが実感です。比較するものがないので先入観なしに、これは参加者が頑張った証しだと認めることができ、このプログラムをやってよかったと思っています。

 


大森さん(同)

 

小川 運営は言葉以上に大変だったと思いますが。

 

大森 最初こそ高校生もメンターも、(コロナ禍で学校や大学などが休校中で)やる気と時間があったのですが、秋になって学校や大学などが再開すると、双方が忙しくなりました。その結果、ワークショップを開こうとしても、想定した人数の人が参加しなかったり、「Slack(スラック)」というオンライン上の会話ツールでやり取りした連絡が届いているのかどうかわからなかったりして、大変でした。また、高校生とメンターの間の距離感をどう埋めれば良いのか、打ち解けた雰囲気をどう演出するかなど、いろいろ苦労しました。

 たとえば、「プログラム終了後も活動を続けたい」と言っている参加者は、プログラム中も活発に意見交換していました。その反面、私たちプログラム実行委員が声をかけなくては動けなくなるチームもありました。100人近い参加者と、オンラインに必ずしも慣れていないメンターの方もいらっしゃって、オンラインの難しさも実感しました。こうした気付きを今後の活動にも生かしたいと考えています。

 

「図抜けた発想が欲しかった」

 


三島さん(同)

 

小川 特別協力という形で、手弁当で高校生の企画の相談に乗ったり、メンターも務めていただいたりと、支えてくださったのが東大のおふたりです。それぞれどういうふうにプログラムを見ていましたか。

 

三島勇 国際会議の発表者に選ばれた3チームはすごいなと思ったね。ビデオの作り方やプレゼンの仕方も、「さすが今の子だな」と。かっこいいし、自分が高校生の時はたぶんできなかっただろうね。でも、そのあと、よくよく考えてみたのだけど、思い至ったのは、もうちょっと飛び抜けたアイデアがほしかったということ。自分たちの考えの延長でしかないという感じがしたよね。例えば、コインランドリーのマイクロファイバー除去の話はすでにある技術で、それを企業とつなげた「アッセンブリー(組み立て)」に過ぎないという言い方もできるよね。(水車をゴミ収集船に組み込んでプラスチックを回収する)「スイシャケ号」も、自動運転という新しい要素は加味されているけれど、プラスチックを回収する船自体はすでにある話だし。

 私は俳句をやるんだけど、「秋が深まってきて、山がきれいでいいね」といった単なる説明ではつまらない。宇宙を感じさせたり、内面に翻ってきたりする俳句の方が感銘するし、記憶にも残る。今回の研究にも、実現できるかどうかは抜きにして、そうした図抜けたものがほしかった。(基調講演をした)東大の岩田忠久先生が「手を叩くと、30分で分解するプラスチックのような研究をめざしてほしい」と参加者に言っていたことと同じだよね。

 

楜澤 僕もそう思います。このプログラムは、従来の研究は脇に置き、実現できなくても構わないから、高校生にアイデアを出してほしいということで始めました。なぜ、メンターがいるのかというと、そのアイデアを少しでも実現させるためでした。ただ、高校生から出てきたアイデアは最初から現実味を帯びたもの、最後にまとめられるものが多かった。応募してくる参加者はすでにこの種の課題を手がけているから、しょうがない点ではあるのですが。

 

アイデア力より行動力

 


保坂さん(同)と保坂さんの著書『海洋プラスチック 永遠のごみのゆくえ』(角川新書)

 

小川 これは内輪の座談会だから、すべてをわかりつつ、きびしい意見を出してくれているのだなと思いますが、保坂さんの見方はどうですか。

 

保坂直紀 これは難しい話だよね(笑)。図抜けたアイデアといっても、たとえば魔法の粉を我々に振りかけると、ミクロの大きさになって、映画「ミクロの決死圏」のように部隊を組んで海中のプラゴミを回収して回るなんてアイデアでは、あまりにもしんどすぎるから。メンターが「魔法の粉なんて当分できないよ」とあらかじめアドバイスすることは望ましい姿ではないけれど、参加した高校生がある程度現実を見ることも仕方ないよね。

 それより、私らからすると君たち高校生は自分の子よりずいぶん若いのだけど、孫というわけでもない。1.5世代くらい離れた関係だけど、今回素晴らしいなあと思ったのは、高校生がやっていることを見て、「なるほどな」「面白いな」と自分が納得できたこと。世代を越えられたことだよね。似たようなプログラムを東大の大学院生にやらせているのだけど、それに比べると、今回参加した高校生たちはハチャメチャすぎるよ(笑)。協業をメーカーに断られても別のメーカーと交渉する突撃隊のようなことはふつうやらないよね。大人になってくると、やらなくなっていくわけ。それを3チームのメンバーはやっているわけで、「こういうのありなんだ」と気づかせてくれたね。

 いちばん印象的だったのは、アイデア力というより、そういう行動力。人間って行動しながら、時に失敗しつつ、社会を変えていくもの。そういう意味で面白いものを見せてもらったね。しかも、オンラインだけで、ここまでやっちゃうんだから。

 

小川 私も保坂さんと同意見で、たとえば楜澤さんがスポンサーやメンターを依頼するのに二百何十通ものメールを送るなんて、高校生時代の私にはできない。ネット環境があるとはいえ、それを簡単にやっちゃうのはすごいなあと。僕らの目が行き届かないということが逆に奏功した面もありましたけどね(苦笑)。

 

保坂 確かに、世代が変わったという感じだね。私らも特別協力という立場からすると、彼らをほったらかしにしておくのは正直辛かったんだけど、最後の発表を聞いてかっこいいなあと素直に思えたね。

 

コンテスト形式の功罪

 


オンライン会議システムで開催したプロジェクトの様子

 

小川 運営面ではどうですか。

 

楜澤 正直、運営メンバーが少なかったことと、経験がなかったですね。つまり、1年目っぽい運営だったですね(苦笑)。

 

小川 採点基準をだいぶ後に発表したのも、あるメンターに言わせれば、教育の現場ではまったく考えられないことだったそうです。最初にシラバスのように示すべきだと。

 

三島 そもそも、高校生たちはコンテストにはしたくなかったんだよね。

 


大森さん(同)

 

大森 そうです。コンテストに最後まで反対していたのは私。アイデアは本来ならば優劣をつけるものではないし、他人と比べようとする時点でつまらなくなるので。国際会議でも3チームの発表ではなく、ポスター展示などによる全チームの活動の紹介といった手法もありえたはずです。結果的に選ばれた3チームもあくまでも私たちがつくった採点基準に合致したチームだっただけで、選ばれてないチームがだめだとは誰も言えないことだと思っています。

 

小川 コンテスト形式はお互い切磋琢磨する道具と考えればいいじゃないかな。

 

楜澤 おおまかな採点基準は始まった段階で示していましたけどね。やっぱり1年目だったことに帰結しそうですね。参加者からすれば、「ちゃんとしろよ」ということでしょうけど。

 

保坂 最初に採点基準を作るというのは、従来の採点基準でモノを採点するということにどうしてもなる。悩ましいのは、それをどう超えればよいのか1年目だからわからないということ。学校の教員は最初に目標と採点基準を決めないと、教育とは呼べないと考えがちだよね。でも、やってみないとわかんないのだから、走りながら考えるということで、いいんじゃないのかな。

 

楜澤 僕もメンターや運営側の高校生が上から何かを言うのではなく、伴走していっしょに考えるものだと思っています。最初にかっちりした採点基準があると、メンターと高校生の関係性が固定してしまう懸念もあります。

 

保坂 メンターも(解決策を)わかっている訳ではないからね。最初に採点基準を定めると、メンター側も「採点基準に則ると、君たちの評価は低いですよ」とどうしても言いたくなるし。

 

三島 社会は評価することでできているから、その世界からなかなか出られないよね。でも最近、工学系などで何かを作るという目的より、その過程を大事にしていこうという発想でモノづくりをするところも出てきているみたいだよ。海洋プラスチックの問題でも、プラゴミを採取して分析していく過程をしっかりやっていこうと。「結果はダメかもしれない」というアイデアこそ、大事にしていこうという学問の流れがあるらしい。まったく新しいことを生み出すには、そうするしかないだろうからね。

 

神様しか知らない採点基準


三島さん(同)

 

小川 それはどこかの大学の話ですか。

 

三島 東大の生産技術研究所だね。海洋プラスチックを集める装置や観測装置などの開発を市民参加でやっていて、その成果を全部オープンにしているんだよ。市民の人に「使ってください。改良してください」と言っている。

 

保坂 「OMNI(Ocean Monitoring Network Initiative)」という取り組みですよね。

 

三島 そう。「こういうものをつくりましょう」と言っている訳ではなく、「使ってみて、何でもいいからアイデアください」という研究手法がなかなかおもしろいなと。

 


保坂さん(同)

 

保坂 今回の海洋プラスチックプログラムはもともと矛盾をはらんでいるんだよ(笑)。あの国際会議で発表するから何チームかに絞らなくてはならなくて、採点表というか評価軸をつくったんだけど、それがあるべき評価軸かどうか分からないままに当てはめたわけだよね。この問題は誰も正解が分からないわけで、そうした中で優劣をつけるには何らかの価値観や物差しで点数つけるわけないわけで。神様からすれば、「あいつらなにトンチンカンなことやっているんだ」ということだよね。

 

楜澤 僕たちは新しいことをやろうとしているわけだから、今の社会が求めている価値基準で選ばれるのは僕たちの考えにはそぐわない。その一方で、アイデアを社会に提案しようと言っている訳で、そこで折り合いをつけなくてはいけません。今の社会の中でできる最大限の理想実現が、今回の採点基準の作り方だったんじゃないでしょうか。

 

 

動かなければ社会変革はない

 

保坂 今回の我々の取り組みが本当に客観的に評価できたかどうかは別にして、こういう「葛藤の仕方」があるんだなということがわかって、そこには大きな価値があるんじゃないかな。扱うテーマはプラゴミだけじゃないと最初に言っていたよね。世界には解決しなくてはいけない課題がまだあるわけで、今回の葛藤の仕方は今後の教訓になるのでは。

 


楜澤さん(同)

 

楜澤 そういう意味で多世代がかかわったことは大きいですよね。誰が言ったのかは忘れましたけど、(革新的なアイデアによって時代を変える)「パラダイムシフト」というのは何かが起きているのではなくて、世代が変わっただけという説明がありました。

 

保坂 それはシビアだなあ(一同爆笑)。

 

小川 老兵は去れと!(苦笑)

 

楜澤 いや、そういう意味ではなくて(苦笑)、過程を重視するとか、異分野を融合するということをいろんな世代で共有できたことに意味があるのでは、ということです。

 

保坂 確かに、若い世代は我々の世代に良いメッセージを今回送ったね。それは、考えるということも大事だけれども、それよりもまず行動することがさらに大事だということ。いつの時代にも解決すべき様々な問題がある訳だけど、とくかく動いてみるという価値を忘れがちな上の世代に今回、そのことを気づかせてくれたよね。

 動いてみるということは、自分の立ち位置を変えること。つまり、これまでやったことのない事をあえてやらないと、社会を変えることにはならないんだね。高校生たちの試みは未熟なのかもしれないけれど、社会を変革するため、「知識」を「知恵」へと変える試みだったような気がするね。

 

小川 今回のプログラムのキャッチフレーズとして、異分野融合という言葉がありました。それだけ日本は文理の垣根が高いと実感していますが、保坂さんは「異分野融合の必要性は昔から言われていて、できた試しがない」ということを仰ってましたね。

 

保坂 異分野融合という言葉で本当は何を言いたいのか、私にはわからないんだよね。問題を解決するには、それぞれの人が知恵を出し合うのは当たり前のこと。それを異分野融合と言ってるわけで、それって不思議な話だよね。この言葉の前提として、すでに研究の分野・テリトリーがあって、外とは交わらないということがある。それがあるから、異分野融合なんて言葉が必要で、それがまずなくなる必要があるよね。だけど、一方で、それはなかなかなくならないとも思う。

 その点、高校生たちは自分が文系、理系と思っていなくて、好き勝手に述べあって結論を導いたわけでしょ。それが、本当の意味で異分野融合なんだと思うよ。大人の社会では、「私は物理系」「私は社会科学系」で自己規定する訳。だから、今回やったようなことが、そのまま大人の社会に広がっていけば、異分野融合なんて言う必要はなくなるんだろうね。

 

三島 文系・理系って分けていること自体が異常だよね。特に理系は細かく分かれていて、隣の研究室が何をやっているかもわからない場合もある。僕は、やりたいことをやればいいと思う。今回の高校生は文系理系ということを飛び越えて自由闊達に議論し、プレゼンもスマート。皆がスティーブ・ジョブスになれるわけではないけど、その片鱗は観た感じがする。こういう生き方をこれからも続けていってほしいな。

(2021年9月14日 14:57)
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