なくせ!海洋プラごみ 高校生×東大大気海洋研究所×読売新聞

昨秋からプラごみ回収船の小型模型を検証してきた柳原さん(左手前)たちのチーム。4月11日、連携して実行委員長を務めた楜澤さん(柳原さんの後ろ)と大森さん(右から3人目)らと現場に集まり、今後の活動を話し合った=東京都立野川公園(調布市、小金井市、三鷹市)で(秋山哲也撮影)

 

 

 

 国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の理念を踏まえ、「学び」に生かしながら、解決策を提示する――。東京大学大気海洋研究所と読売新聞社が特別協力した高校生主催の研究プログラム「海洋プラスチック問題を解決するのは君だ!」では、高校生たちが手探りの中、半年をかけて練り上げた研究成果を国際会議で発表した。その舞台裏を紹介する。(教育ネットワーク事務局 小川祐二朗) ※高校生の肩書はいずれも今年2月時点です。

(2021年5月5日掲載)

 

Mission 協力呼びかけ

 

 「海洋プラスチック問題について、高校生が主催する高校生向けの研究プログラムを支援してくれませんか」。昨春、駒場東邦高3年、楜澤(くるみざわ)哲さんらが読売新聞社に協力を呼びかけるメールを送ってきた。

 

 そこには、考え抜いたアイデアを社会に還元したいという熱意が書かれ、科学や環境、医療をテーマに取材してきた記者も心を打たれた。東大大気海洋研究所特任教授の保坂直紀さん(62)、特任研究員の三島勇さん(62)が海洋プラスチック問題を研究していることを知り、提案について話をすると協力を申し出てくれた。

 

 環境問題に関わる日本自然保護協会OBらにも、このプログラムの指導役(メンター)を依頼し、教育ネットワーク事務局でも高校に参加を呼びかけた。定員100人に対し、300人近くの高校生から応募が寄せられた。

 

Action スポンサー探し

 


プラごみ回収船について発表する清水壮真さん(2月24日、横浜市みなとみらいで)

 

 プログラムへの協力を取り付けた楜澤さんら高校生は、「文系と理系だけではなく、参加者の住む地域や関心分野の垣根も越えたい」と考えた。

 

 こうした理想を実現させるには運営費用なども必要となってくる。そこで、高校生たちは費用を提供してくれる企業を自ら探すことにした。多くの企業に趣旨を説明し、日清食品ほか6社が支援を約束してくれた。同時に、メンターになってくれるよう研究者たちにも協力を呼びかけた。協賛企業となった「ウォータースタンド」(さいたま市)の本多均社長(67)は「高校生たちが企画・運営のほか、協賛企業やメンターまで集める実行力に感心した」と話す。

 

 大学受験を控える楜澤さんに代わり、渋谷教育学園渋谷高1年の大森智加さんに代表を引き継ぐことも決めて、昨年8月、半年間にわたる研究プログラムがスタートした。

 

 全国の高校生約100人が9チームに分かれ、一線の研究者らもメンターとして約50人が参加。コロナ下で、高校生たちは打ち合わせをオンライン会議で行った。各チームには会議用のアカウントも提供し、都合の良い時間にそれぞれが会議でアイデアを出し合い、作戦を練った。

 

 狭山ヶ丘高3年の柳原琢馬さんたちのチームは、約50回、計190時間の会議を重ね、プラごみを自動回収する水車を組み込んだ船を発案した。柳原さんは「各地に住む仲間と意見を出し合い、川で実験も行った」と振り返る。

 

Goal 大学院生に刺激

 

 プログラムでは多くのメンターが、プラごみの現状や科学的考え方、情報収集法などを講義。米ハワイ州や徳島県から浜辺清掃の様子などを中継する「オンライン遠足」も実施した。

 


「コインランドリーに着目し、マイクロファイバー除去を企業に提案した」と発表する山岸あやのさんと阿部さん(左)

発表する櫻井ひろ花さん(左)と半田さん

 

 今年1月の審査で柳原さんのチームなど3チームが国際会議への参加権を得て、翌2月、企業の持続可能な経営を討議する「サステナブル・ブランド国際会議」(横浜市)で3チームが発表し、全日程を終えた。

 

 東大の保坂さんは「大学院生に同じ課題を課しているが、ライバル心に火がつくほどできが良かった」と振り返る。高校生たちのアイデアが社会で活用されるようになるのは、そう遠くはないだろう。

 

編集後記

 

 発表に臨んだ3チームは企業との協業に踏み込んだ点が評価された。玉川学園高等部2年、阿部慶汰さんたちは、洗濯時に出る微細プラスチックをからめ取る特殊なボールに着目。「洗濯機メーカーに掛け合ったが門前払いされた」というが、コインランドリーのチェーン店で使い勝手を試験させてもらっている。鴎友学園女子高2年、半田かのんさんらはプラごみ削減に向け、企業と若者をつなぐフォーラムを4月に開催した。大人ができなかったことを軽々とやってのける高校生に拍手を送りたい。(小川)

 

 

 SDGs エスディージーズと読み、Sustainable Development Goalsという英語の頭文字からとった略称。「持続可能な開発目標」と訳されている。2015年の国連総会で採択され、貧困や飢餓、教育、男女の平等、働きがい、生産消費、生態系の保全など17項目の目標を掲げている。目標の下には、具体策や数値目標などを示した計169のターゲットがある。

 

ワード・ラボ 海洋プラスチック問題

 

 

 世界経済フォーラム(ダボス会議)が2016年に発表した報告書によると、これまでに海に流入したプラスチックは合計で1億5000万トン。年間では800万トンと推定され、1分ごとにごみ収集車1台分のプラスチックが海に投げ入れられていることになる。プラスチック生産量は50年に現在の約4倍となり、「海洋プラスチックごみの量が海にいる魚の総量を上回る」との予測も発表。同年に消費される原油の20%はプラスチック生産に使われるとし、地球温暖化をさらに加速させる恐れも指摘された。

(2021年9月14日 14:53)
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