2030 SDGsチャレンジ

スペシャリストに聞く

チョコで知る世界の課題 記者の目

「imperfect」の店内と東京女子学院を結びオンライン取材に応じる浦野社長(右)と佐伯さん(中央)。左後方に解決すべき3つのテーマを表示した投票箱が設置されている(2021年1月17日、東京都渋谷区神宮前で)=秋山哲也撮影

 

取材は新教科書の先取り

 

 記事で紹介した東京女子学院高校の授業では、記者も少しだけお手伝いした。取材の仕方の伝授である。手元には2019年に、「日本の貧困問題」をテーマに行った早稲田大学と読売新聞の共同研究プロジェクトで、取材の仕方を学生たちに解説した自作のプレゼンテーション用資料(パワーポイント)があるので、手間はかからなかった。

 

 東京女子学院高の生徒代表が授業で報告した「imperfect」(東京・表参道)は、本来なら「生徒たちにぜひ店舗を実際に見てもらいたい」というのが保積教諭の意向だった。お洒落な店舗内にコーヒーやカカオなどの原産国支援への投票ボックスがあり、包装紙も新聞紙と同じ素材の紙で懐かしさや柔らかさを打ち出すなど、いろいろ工夫もあった。なにより、浦野社長やスタッフの佐伯さんがなぜ、このようなお店を持つことになったか、生徒たちに直接、聞き出してほしかったからだ。

 

 22年春から高校生が使う新教科書も、教員の話を一方的に聞く受け身の授業からの脱却をめざす新学習指導要領を基盤にしている。その先取りとして、インタビューという手法は打ってつけだ。インタビューを通じて課題を見つけ、考え、話しあう「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)そのものだからである。

 

 コロナ下では、生徒全員に店舗の見学をさせることは難しい。そこで、代表の生徒にネット経由でインタビューしてもらうことになった。どんな質問をすればよいのか、生徒たちはわからないだろう。一発勝負で沈黙が続くのは困るので、記者が助っ人を買って出たのだ。

 

100個の質問

 


オンラインによる取材で、「imperfect」の店内から東京女子学院の生徒たちの質問に答える佐伯さん(2021年1月17日、東京都渋谷区神宮前で)

 

 まず、取材の目的から。取材は、対象者の発言や動作・行動、見た目や人物像を「言葉」で描写(再現)するために行う。インタビューは実際に会って質問を重ねるのだから、「五感」を使った観察だともいえることを伝えた。換言すると、こういった取材で、これから紡ごうとする物語の構成部品(FACT)を集めることができれば、インタビューは成功と言える。その点が空想で書ける小説などとの違いであることを強調した。

 

 その際、よくいわれる5W1Hは必ず押さえること。さらに、「whom(誰に)」「how many(いくつ)」「how much(いくら)」も、大事だ。たとえば、「imperfect」が毎月仕入れるコーヒーやカカオの量や価格は欠かせないし、どんな顧客向けにどんな商品を作ろうとしているのかも、お店のコンセプトを知るのには重要だろう。

 

 でも、実際のインタビューはどうやってやるのか分からないという人もいるかもしれない。明治大の齋藤孝教授(教育学)の著書に、『質問力 話し上手はここがちがう』(筑摩書房)がある。それによると、質問力の無さを決定付けるのは勉強不足とある。あるいは、「相手の情報が無ければいい質問はできない」とも。つまり、事前準備が差をつけるということだ。

 

 これは私たち新聞記者の感覚にも合致する。インタビューで欠かせないのは、取材相手やその人が取り組んでいる仕事に関して、資料を集め、徹底的に読み込むことだ。昔は取材が決まると、会社のある東京・大手町から神田の本屋街へ行って、関係書籍を買い込んで取材の準備をしていた。インターネット全盛の時代になった今、取材の準備は格段に簡単になった。ネットでは不確かな情報しか得られない場合や取材相手の著書だけ、本を買えばいいからだ。しかし、買うべき本が多いのもまた事実。ネット情報は玉石混交だからだ。

 

 今回、生徒たちには「imperfect」のブログは充実しているから読み込むことを勧めた。そのうえで、「質問を100個考えてね」と伝えた。もちろん、1時間余りの取材で100個の質問などできるわけがない。そのなかから、何が一番大事か、次は何かと考える。そうやって、質問は研ぎ澄まされていく。生徒たちは取材の場で、案の定、質問を用意しすぎて困った様子だったが、最初はそれでいいのだ。

 

 取材相手からすれば、取材者のことを「これは勉強してきているな」と見直し、身を乗り出してくるものだ。もう一点、大事なことは、自分が納得するまで質問を重ねていくこと。新聞記者も新米君だと、一回の質問に相手が答えると、次の質問に行こうとする。それではだめだ。「あなたが仰りたいことは、私の理解ではカクカクシカジカということですが、これでよろしいですね」というダメ押しの質問をして完成だということも伝えた。

 

 素人としての質問も大事で、恥ずかしがらないで率直に聞こう。取材慣れしていない大学の研究者などが専門用語を並べて、同僚に向かって話すように質問に答えることが私の取材でもたびたびある。特に分子生物学や先端医療などは、勉強していても分からないことがある。そこは「素人質問で恐縮ですが、どういう意味があるのですか」と聞こう。そういわれると、研究者もはっとして、中学生の息子にでも話すように丁寧にわかりやすく話してくれることが多い。

 

 もちろん、ふだんから関心あるテーマは専門書や定期刊行物を購読することをお勧めしたい。関心のないテーマも薄く広く知っておこう。情報の海をこれから泳ぐ学生たちには、その方法をぜひ身につけてほしい。

 

 特にSDGs関連の授業は森羅万象を扱う。その基礎体力をつけるに、お勧めなのが新聞だ。新聞には貧困から気候変動、生物多様性保全まで、SDGsがめざす17の目標(課題)の現状分析が網羅的に掲載されている。我田引水になっているのは承知しながらも、課題発見の道具として、新聞を手に取って読んでみてほしい。

 

 それから、「伝わる文書」を書くには、「情報を選別するリテラシー」も欠かせない。フェイクニュース氾濫の今こそ重要な能力だ。特に、出自が不明の"未確認ネタ"は要注意だ。

 

取材依頼の仕方

 

 取材をしたい人に依頼するのは、教員の方でも最初は敷居が高いかもしれない。今回のように高校生などの学生が企業や研究者にお願いする場合は、相手も忙しいことが多いので、記者が依頼するより大変だろう。それでも、その人が専門にしたり、注力したりしていることを知りたいと言われれば、教えてあげたいというのが人間だ。誠心誠意、思いを伝えれば、たいていのことはかなう。断られたら、違う人に依頼すればいいだけの話だ。

 

 取材依頼は、「電話か?メールか?」という質問を受けることがある。双方、それぞれ難しいのだが、いったんどちらかの方法で連絡してみて、相手が望む方で取材の狙いの詳細を伝えればいい。その際、肝心なことは「取材の狙いをわかりやすく、端的に伝える」ということ。この件に関して「いかに関心を持っているか」について、自己紹介を兼ねて伝えよう。

 

 取材の日時と場所は先方の都合に合わせる。新聞記者の場合、筆記用具としてのペンとノート(若い記者はPCが多い)、録音機(レコーダー)、カメラは持参する。取材場所に着いたら、あいさつと簡単な説明を改めてしよう。録音の許可を取り、ダメな場合はあきらめる(必死にメモする)。また、プライバシーは守る旨、伝えよう。質問と回答は、あとで読める字でノートをとる。録音も忘れずに(電池切れはNGだ)。写真撮影は私の場合、インタビュー後の和やかな雰囲気になってからするようにしている。

 

 強調したいのが、その人の住所、氏名、生年月日、職業・肩書は必ず聞くことだ。苗字だけ書いた文書をよくみるが、フルネームで聞こう。住所の番地までは記事には書かないものの、取材した記事が掲載された新聞をお礼に郵送する際に欠かせない。お礼はメールでもいいが、新聞にお礼の手紙を添えてというのが、記者としては礼儀だと考えている。学生たちにもお礼の手紙を送ることをお勧めする。

 

 締めくくりとして、記者が所属する読売新聞教育ネットワークの宣伝をさせてほしい。学校の教員は企業や大学との接点は少ないだろう。その両者を取り結ぶのが、当ネットワークの役割だ。国語・算数(数学)・英語などの各教科や総合的な学習、防災、キャリア教育など、企業や大学の専門家が行う出前授業のメニューが学齢ごとに一覧できる。会員登録(無料)になれば、依頼できる。授業プランに困った場合は、まず、サイトの「出前授業」の閲覧と活用をお勧めする。

(小川祐二朗)

(2021年8月19日 11:49)
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