2030 SDGsチャレンジ

スペシャリストに聞く

文・理超え 企業巻き込む 担当者に聞く

北島さん(左)と元山さん

 

■文系理系の最強タッグ

 中央大学付属高校教師(国語) 北島咲江さん

 中央大学付属高校教師(生物) 元山敬太さん

(2021年4月4日取材)

 

校内ゴミ2週間で110キロ削減

 

小川祐二朗 紙面に登場していただいたのが2020年9月。その後、どうなりました。何チームかありましたよね。

 

北島咲江 6コースありました。最初は教員が2人いるので担当を分けていたんですが、結果的には一緒に6コースを見ました。全コースとも、いちおうの形にはなったと思います。たとえば、学校のゴミ削減に取り組んだ生徒3人は記事に紹介された後の9月、学校の清掃業者の方にインタビューをしました。校内のゴミ分別がうまくいっていない実情を聞き、生徒たちは「これはまずい」と危機感を覚えたんですね。生徒会との協働キャンペーンが始まりました。

 文化祭は(コロナ禍で)オンラインを中心に20年10月末の2日にわたって開催しまして、その中で彼らは「ゴミ分別キャンペーン」の告知CMを流しました。その翌週から2週間にわたって、「とらっしゅうかん」というキャンペーンを始めたんです。英語の「TRASH(ごみ)」と「週間」をかけたネーミングです。

 本校には、生徒会の活動を支える生徒委員が各クラス1~2人ずつ、高校1~3年まで計28クラスにいます。その生徒委員が2週間毎日、クラスから出るゴミを「可燃ゴミ」「不燃ゴミ」「ペットボトル」に分けて写真撮影し、清掃業者のデータからゴミの量を推計したんです。その結果、キャンペーン前の2週間と比較して、2週間のキャンペーン中に出たゴミ(一般廃棄物)の量は110キロ減りました。この時期、ゴミが減る理由はキャンペーンの実施以外考えられないので、キャンペーンが全校生徒の行動と意識の変容につながったのだと思います。

 

企業とのコラボ奏功

 

小川 他のコースはいかがですか。

 

北島 企業とうまく協働できた例を二つ紹介します。一つ目は子育て支援事業を手がけるパソナフォスターと組んだ例。生徒たちは2回、パソナフォスターが小金井市で運営する課題解決型学習を取り入れるアフタースクール「Miracle Labo」でイベントをやりました。目標は、小金井市のことを地元の小学生にもっと知ってもらうこと。地域に愛着を持ってもらい、活性化につなげることです。

 1回目のイベントでは、小金井市にたくさんある地元野菜を知ってもらうために、アフタースクールのスタッフからアドバイスをもらい「野菜カルタ」をつくって、小学生と遊びました。これが盛況で、2回目のイベントでは、日本では珍しいルバーブという野菜が小金井市の特産物となっていることに注目し、小学生と一緒にルバーブの加工物を商品化することを考えました。パソナフォスターの管理栄養士の監修のもと、ジャムとスコーンを自分たちでつくり、小学生に試食してもらったんです。

 生徒は、小学生と一緒にルバーブを用いた商品開発を行うことを目標に据えていたので、小学生に商品名を考えてもらいました。問題解決型学習に取り組んでいるアフタースクールの小学生は、この取り組みを地域活性への取組みとして捉え、新たな発見もあり、新鮮だったようです。その後、生徒たちは自分たちの判断で地元のパン屋さんに「ルバーブパンを一緒につくってください」って売り込みに行ったそうです。この売り込みについては、私たちはノータッチなんです(笑)。

 


小金井市の地域活性を目指し、地元野菜を小学生と学ぶイベントを開いたグループが、その成果を学外の発表会で報告した」(北島教諭提供)

 

 もう一つは、お菓子の「キットカット」を販売しているネスレ日本との例。ネスレは19年に「キットカット」の大袋パッケージを環境負荷の観点から紙に変えました。こうした取り組みに対して、「キットカット」大袋の主な購買層である40~50代の女性に、高い関心を持ってもらって購買につなげるにはどうすればよいのか?という悩みをお持ちでした。「キットカット」大袋を実際によく買うのは、40~50代の女性ですが、企業の「未来」の持続可能性を意識した取り組みに敏感なのは、若者なんです。

 生徒たちが学校内で「ネスレの環境保護に対する取り組み」についてアンケートを行うと、実に7割近くが「キットカット」のパッケージが紙になっていることを知っていたんです。そこで子供世代の10~20代にもっと「キットカット」の環境保護への取り組みを知ってもらい、さらに親世代の環境負荷軽減意識の変容を目指しながら、環境フレンドリーな商品の購買を促進させるにはどんなことをやっていけば良いか、一緒に考えたんです。

 具体案として、「SDGsに取り組む"キットカット"」についてのキャッチフレーズを本校の中高生から募集しました。さらに、そこから選ばれた作品の最終選考を、「キットカット」公式SNSを通じて行いました。また、4月22日の「アースデー」に向けたネスレ日本「キットカット」のイベントでは、SDGsに積極的に取り組むZ世代の長谷川ミラさんやルーク伊達さんと本校の生徒が鼎談する様子をYouTubeで配信していただくというアウトプットもできました。堂々と自分のSDGs観を披露する生徒にはびっくりしました。とても高い意識をもって自分たちの未来について意見を述べていたんです。生徒たちにとって、本気でSDGsに取り組む大人たちとの協働は、世界の見方を変えるような有意義な経験になったと思います。

 

動物園は何のためにあるのか

 

小川 元山先生の方はいかがでした。

 

元山敬太 多摩動物公園と協働した生徒たちは「サステイナブルな(持続可能な)檻」の開発を考えました。動物園には本来、種の保存、調査・研究、教育・環境教育、レクリエーションの四つの役割がありますが、日本の動物園ではどうしてもレクリエーションがメインになってしまうという問題意識が生徒たちにはありました。そこで、多摩動物公園の動物相談員の方へインタビューしたり、動物心理学専門の大学の先生からアドバイスを頂いたりしながら、繁殖と研究・調査の重要性を学びました。具体的には、動物を展示しながら、繁殖させるにはどうすれば良いのか。チンパンジーを例に考えてみたんです。

 とはいえ、都市にある動物園は敷地面積に制約があって、檻と飼育舎それぞれに十分なスペースを確保するのはなかなか難しい。そこで生徒たちは檻を2階建て構造にし、2階部分に展示スペース、1階部分にバックヤード、つまりチンパンジーの飼育舎とする案をデザインしました。そうすれば、広くスペースを使えるからです。展示スペースの周りはアクリル板で覆い、中にはチンパンジーが暮らす「自然」に近い形で植物を植える。多摩動物公園ですでに行っているチンパンジーの行動展示のための人工蟻塚も設置しました。そのレイアウトを美術部に所属する本コースの生徒が3次元の絵に仕上げました(=イラスト参照、授業を受講した美術部の伊藤遥馬さん作画)。

 

 

北島 1階の天井には採光用の窓があり、太陽と月の両方の光が差し込む構造にすることで、自然のリズムの中でチンパンジーは生活できます。これは、動物相談員の方へのインタビューの中でヒントを得て考えたものです。これを、先の大学の先生にご覧頂いたら、「土地の有効活用ができている」とお褒めの言葉を頂きました。これには生徒も大喜びでした。

 

小川 21年度はどうなりますか。

 

北島 20年度は24人が受講しましたが、21年度は50人の生徒が応募してくれました。定員にしたがって、最終的には各自の志望理由書をもとにした選抜を行い、今年度のコース選択者は34名となりました。テーマは6コースとも継続し、さらに、生徒からの発案で水族館やアパレル、介助犬等のテーマを追加することになっています。

 

小川 水族館はなぜ取り上げるのですか。

 

元山 日本の場合、森林の生物というより海洋生物に対する危機意識が高いからですね。

 

小川 アパレルは途上国での低賃金などの問題がありますが。

 

北島 そうですね。ファストファッションの過剰な生産が、有害物質を生み出したり、水を過剰に使うことにつながったり、低賃金での雇用の連鎖を生み出したりしています。今年度は、生徒から、こうした社会課題をもっと探究したいという声があがりました。

 

大切なのは課題解決の中身と方法

 

小川 おふたりの授業を私が取材しようと思ったのは、文系と理系の先生がタッグを組んでやってらっしゃったからです。こうした課題探求型の授業を終えてみて、どんな感想をお持ちですか。

 

元山 私は、研究などは「自分でどんどん進めてほしい」と思うタイプで、生徒の活動にあまり口を挟みません。テーマは生徒自身が探してきて、自分がやると言ったことを責任持ってやってほしいという思いがあります。2020年度は、現場に行く機会にもなかなか恵まれず、テーマや内容の精査をしにくかった状況に置かれていたと思います。その中でも、私たちが想定していたより、自主的に活動・研究を進めていけた生徒が多かったように感じます。もしかすると、限られた環境の中でこそ試行錯誤を繰り返すことが大切なのではないかと、改めて認識させられました。

 

北島 最初のうち、生徒は、企業へのメールの書き方がわかりませんでしたし、オンラインミーティングで企業の方に質問することにも躊躇していました。こうした社会への〈手続き〉については、1学期のうちに教員が手取り足取り教えました。生徒には、〈課題解決の中身と方法〉を探究することに時間を費やしてほしかったからです。社会への〈手続き〉を各自が身につけたことで、2学期には、中身の濃いオンラインミーティングができるようになりました。学外の方々と協働してプロジェクトを進めていくためには、企業、NPO、大学の協力を取りつけるための礼儀正しさや謙虚さが必要です。

 こうしたスキルを身につけた上で、先ほどの美術部の生徒のように、彼らなりの力で「こういうふうに見せれば相手の大人も納得するんじゃないか」などと考え始めるようになるとしめたものです。社会への〈手続き〉が身についている生徒は、学外の人とも自信をもって意見交換できるようになります。ルバーブパンを地元のパン屋に売り込みにいった生徒がよい例です。各自の課題探究を他者の協力を得ながらできるようになる、これはSDGsを達成するための重要なスキルです。1年間の授業を終えて、授業がこうした力の醸成につながったことをうれしく思っています。

 もうひとつ、授業に対する生徒たちのモチベーションや理解力には当然ですが差があります。この差がある状態でスタートしても、それぞれのモチベーションやスキルが社会との関わりの中で「伸びた」「成長した」と生徒が実感できる機会を作ることが、この授業の目標の一つです。さらに、この授業では、文系だから、理系だからという視点を極力持たないことで自由な発想を確保しイノベーションにつなげることを目指していますから、教員同士も文系・理系という視点はあまり持たないようにしています。

 

文理融合作戦はヒント満載

 

小川 文系理系で今回タッグを組んだのは作戦成功ということでしょうか。つまり、SDGsは医療から先端技術、格差、ジェンダーといった森羅万象を扱います。1人の先生では手が回るわけがないと思っていて、今回の「文理融合作戦」は他校の先生のヒントにもなるのかなと思っているのですが。

 

元山 僕は学ぶことが多かったですね。言葉の使い方や表現方法、プレゼンテーションの方法など、それを僕も生徒も学べたのは良かったです。

 

北島 私は元山先生をお誘いして、授業に多様な視点が生まれたと思います。理科と国語という教科の違いは大きいですが、失敗する過程の中で新たな発見をして学んでいく点は同じです。企業とのネットワークづくりは私が行い、実験や研究の道筋を立てるのは元山先生という感じで役割分担してきました。生徒たちにとって、そういう2人がいることのメリットは大きかったと思います。

 

「起業家精神」育成の大切さ

 

小川 SDGsの授業の評価は非常に難しいと思います。どんなアクションが課題解決のための最適解なのか、だれもわからないわけですから。これは北島先生もメンター(伴走者)として参加してくださった高校生の海洋プラスチック問題解決プログラムでも、そうとう話し合いを重ねました。

 

北島 学校の授業として生徒がSDGsに取り組み、それを点数化して評価することに難しさを感じることがあります。今年度であれば、企業や機関の方々と協働する中で、生徒はみんな一生懸命に活動していたので、私としては全員に満点をあげたかったのですが、そうもいきませんでした。評価しなければならない点がジレンマです。

 

 本校のように1年間をSDGsに費やす授業は珍しいと思いますが、SDGsを授業や課題学習に部分的に導入する機会は、新しい教科書にSDGsが掲載されたこともあって、増えていると思います。しかし、17のテーマのうち興味あるものを見つけて、それに関係ある身近なテーマを探すといった学びには意義があると思う一方で、物足りなさを感じます。 私は、SDGsが教育現場で扱われるとき、それは、「アントレプレナーシップ」(起業家精神)を育てる取り組みになるといいと思っています。30年までに化石燃料の使用を激減させてCO2排出量を減らさないと、地球がもたない時代です。これからも地球に住み続けるためには気温上昇を食い止める必要があります。同時に、自分の属する社会の中で広がり続ける様々な格差に何らかの手を打ち、男女平等の実現を目指し、貧困問題や廃プラ問題、そして汚染水問題など山積する問題への対策を講じていく必要があります。生徒は、こうした問題を解決していくことが、自分たちが幸せに生活していくこととつながっていることを知る必要があると考えています。

 

 SDGsの理念を理解することで、社会を変えるには自分が行動する必要があることを知り、経済面も含めて豊かになるには自分が何をすればよいのかを考えてほしいと思っています。さらに、ESG投資(従来の財務情報だけでなく、環境=Environment・社会=Social・ガバナンス=Governance要素も考慮した投資)が盛んになっているこの時代に、本コースの生徒は、SDGsに意識が高い企業と協働するわけで、SDGsは世界のビジネスをけん引していることを実感できる貴重な機会を得ているわけです。

 文部科学省が「生きる力」という言葉を出して10年以上経ちましたが、22年度の高校の教科書で完成する新学習指導要領で注力しているのも、「生きる力」です。環境面でも経済面でも先の見えない時代に「生きる力」を育むため、地域や保護者、企業、NPOなどと学校がもっと連携して、教育を学校の外に開いて、生徒の学びの場・活躍の場を増やすことが必要です。そこにSDGsの授業はうまく合致すると思います。

 

小川 文科省の動きを先取りしたという感じなんでしょうね。

 

北島 奇しくも、新学習指導要領の目指すところに合致したのだと思います。SDGsというキーワードで社会とつながり、社会と自分が一つの循環の輪の中にいることを生徒が実感することは大切です。SDGsは、そうした学びの一助になり、先の見えない時代と社会を生き抜くアントレプレナーシップを育むことにつながると感じます。ここで言うアントレプレナーシップとは、世界や社会をなんとか持続可能なものにして、幸福に生き抜く力です。これからを生きる高校生にはこの力がほんとうに大事だと思います。

(2021年7月28日 16:04)
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