文・理超え 企業巻き込む 中央大学付属高校
考案した小中学生向けの教育プログラムを提案する中央大付属高校の生徒たち(2020年7月4日)
国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs)」の認知度も上がり、授業に取り入れる学校が増えている。新型コロナウイルスの感染拡大で、対面授業は難しく、協力企業との打ち合わせも困難を強いられたが、中央大学付属高校(東京都)では、異色の経歴を持つ教師2人がタッグを組み、文理融合をめざした通年授業を進めている。
(2020年9月2日掲載)
Mission 社会課題に興味
「文系・理系の垣根なく、様々な社会事象に興味を持つ生徒を育てたい」
中央大付属高校の国語担当、北島咲江教諭(44)は、常日頃、そう考えて教壇に立っていた。
中央大学は法学部が看板学部で、その付属高校も文系が強いというイメージがある。だが、同校は、理科・数学教育に力点を置く「スーパーサイエンスハイスクール」(SSH)に指定され、その中で、「文理融合」をSSHの柱のひとつに据えている。
文理の垣根を取り払い、自由な発想の授業をできないだろうかと考えていた頃、SDGsを取り扱う勉強会に参加して思った。
「SDGsは森羅万象を取り扱う。これをテーマに授業をすると、生徒たちは文理にとらわれずに社会課題に対して目を向け、自らの意見を述べるようになるのではないか」。SDGsの目標4「質の高い教育」の実現のため、時間の許す限り、SDGsの勉強会に参加した。
Action 前職経験生かす
勉強会では、講演者や参加者に授業へ協力してもらえないか相談もした。北島教諭は、前職は広告代理店という変わり種。そこで培った交渉力が生かされた。
食品大手「ネスレ」、米国発で急成長するリサイクル企業「テラサイクル」、児童教育などを手掛ける「パソナフォスター」、包装容器の「東罐(とうかん)興業」などが手を差し伸べてくれた。SDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」の実践で、仲間を増やしていった。
授業の相棒として、元調理師で理科(生物)担当の元山敬太教諭(34)を誘った。異業種の経験がある元山教諭も、社会の多様な物の見方を授業に持ちこむ一人だ。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で状況は一変した。保護者も招いて行う予定だったSDGsを学ぶカードゲーム大会は取りやめになり、企業も来校できなくなった。オーストラリアの大学で夏休みに予定していた研究発表も延期になった。
それでも、2年生24人はオンライン授業を活用してSDGsの学びを深め、7月には、動物園について考察した。元山教諭は「動物園は人間が楽しむだけの場所ではない。研究や絶滅が危惧される種の保護など、様々な役割を担っていることを知ってもらいたかった」と、その狙いを語る。
Goal 逆境越える学び
授業では、企業の担当者がオンライン上で様々なアドバイスをしてくれた。そして、7月24日、生徒たちは研究テーマの進捗(しんちょく)報告会を開催した。
研究の進捗状況を報告する生徒たち(7月24日、中央大付属高校で)
宮下悠人君たちのチームは、目標12「つくる責任 つかう責任」の視点から、校内の「ゴミ問題」を取り上げることを報告した。当初は、今秋の文化祭で出るゴミの解決法について考える予定だった。例年の形態での実施が難しくなり、宮下君は「生徒会と協力して、全校生徒がゴミ削減を意識した場合とそうでない場合のゴミの量を明らかにすることで、ゴミ問題に対する生徒の意識が変わるきっかけを作りたい」と軌道修正した。
「SDGsの考え方を知り、行動を起こすことの大切さを学び、失敗にもへこたれない生徒になってほしい」と話す北島教諭。文理融合の自由な発想で、若者たちが難局を乗り切ってくれると信じている。
編集後記
SDGsの授業に教科書はなく、「これ」という正解もない。新型コロナの感染拡大で、授業計画がもろくも崩れ去る――。SDGsの本質とは、理想と現実の違いを知ることでもあると、約半年間追いかけてきた今回の取材で痛感した。文理を分けることの弊害や、学校という空間で、教師と生徒だけで教え、学ぶことの課題にも気づかされた。だが、SDGsの視点を取り入れれば、多様な人々が教室に顔を出してくれ、生徒は社会に飛び出していく。日本の教育にいま必要なものは、SDGsだということも確信した。(教育ネットワーク事務局 小川祐二朗)
◇SDGs エスディージーズと読み、Sustainable Development Goalsという英語の頭文字からとった略称。「持続可能な開発目標」と訳されている。2015年の国連総会で採択され、貧困や飢餓、教育、男女の平等、働きがい、生産消費、生態系の保全など17項目の目標を掲げている。目標の下には、具体策や数値目標などを示した計169のターゲットがある。
ワードラボ 認知度最下位の日本
「世界経済フォーラム」が2019年、28か国を対象に、SDGsについて、〈1〉「とてもよく知っている」〈2〉「よく知っている」〈3〉「知っている」〈4〉「聞いたことがある」〈5〉「聞いたことがない」の5段階に分けて聞く、認知度の調査を行った。
その結果、世界平均では「聞いたことがある」(〈1〉~〈4〉)の合計が74%だったのに対し、日本では49%。また、日本と英国は〈5〉が51%で、世界平均の26%とは大差がついた。特に、〈1〉と〈2〉を合わせて日本は8%で、28か国中最下位だった。