2030 SDGsチャレンジ

スペシャリストに聞く

自然の中 遊んで学ぶ 「花の森こども園」(埼玉県秩父市)

園舎近くの林の中で行われた朝の会。この日は町田梨央先生(右)が「うんち」について園児に問いかけた(5月10日、埼玉県秩父市の「花の森こども園」で)=秋山哲也撮影

 

 

 

 就学前の子供が「持続可能な開発目標(SDGs)」を理解し、それを実践する――。一見すると、幼児には難しいと思われるかもしれないが、全国各地にある「森の幼稚園」では、工夫を凝らし、自然と触れ合う中でそうした教育が行われている。そのうちの一つ、埼玉県秩父市にある「花の森こども園」を訪ねてみた。

(2021年7月7日掲載)

 

Mission 賛同者を集めて

 

 東京・池袋から特急電車で約1時間20分。西武秩父駅から車で約30分の新緑まぶしい林内に「花の森こども園」はある。園舎裏手の園庭には、ヤギとウサギなどもいて子供たちの絶好の遊び相手だ。

 

 園庭の木々の間を抜けると、透明度の高い川が流れる。河原に行くには急斜面を下りなければならず、1~2歳の園児も独力で下りていく。河原には大きな石がごろごろしていて、子供たちは頻繁に転ぶがへっちゃらだ。

 

 同園は2008年に開園。秩父市には、現在の葭田(よしだ)昭子園長、その息子3人も通った別の幼稚園があった。そこが、経営者が代わるタイミングで、「遊んで学ぶ」という理念から、英語教育に重点を置く園に変わることが決まった。「自然と学ぶ園の良さを残したい」。葭田さんや卒園児の母親らはそう考え、賛同者を集め、新たにデンマークの森の幼稚園をモデルに運営を始めた。

 

Action 林の中で「朝の会」

 


2歳の男児もヤギの小屋の清掃を手伝う(5月10日)

 

 こうして開園した「花の森こども園」は長年、無認可だった。

 

 政府による「幼保無償化」が19年から始まったが、それまでの園舎は急斜面に立つため、地元自治体の認定を受けられなかった。そこで葭田園長らは寄付を募り、銀行から多額の借金をして、新園舎の建設にこぎ着けた。現在の土地も持ち主が格安での賃貸を快諾してくれ、今年度から認定こども園に移行した。

 

 職員は非常勤を含め15人。園児は21人。1~2歳児も4人いる。園児は保護者が車で送迎し、中には群馬県など遠方から通う子供もいた。

 

 自然と触れ合うことを意識した園の活動はSDGsの実践でもある。登園が始まるのは午前9時頃。年長の園児はヤギの小屋の掃除を始め、敷きわらを替え、すのこを洗い、乾かす。餌と水やりも。土日も年長の親子で当番を回す。

 

 次いで、「朝の会」は林の中で行われた。3年目になる町田梨央先生は「うんち」の話から始めた。年少が「ヤギのうんちがあるじめんにすわりたくない」とごねていたからだ。

 

 うんちの大切さを何度も聞いている他の園児たちは、「うんちでびょうきかどうかわかるよ」と話し始めた。そこへ、町田先生が「どうやってわかる?」と尋ね、やり取りが始まった。「いろやかたちで」「では、ヤギのうんちはどうなる?」「つちになってえいようになるよ」――。

 

 うんちは汚いものではなく、ありがたいものだということを自然に学んでいく。

 

Goal 土にかえるまで

 


昼食を終え、自分が使ったプレートやおわんの汚れは新聞紙で拭き取り、米のとぎ汁で洗う(5月13日)

 

 町田先生は場所を移して話を続けた。園舎の窓に衝突して死んでしまったシジュウカラを前に、「お母さんだったかもしれないね。みんなのお母さんが買い物中に死んだらどうする」と問いかけた。シジュウカラは園の巣箱で子育てをしていたからだ。

 

 職員たちは、鳥の死体がやがて土にかえるまでを子供たちに見てもらい、何かを学んでほしいと考え、そのままにしている。神妙な顔がいくつも並び、何人かの園児はタンポポと梅の実を死体にたむけていた。

 

 話が終わると、あとは自由に遊ぶ。ふだんはそれで一日が終わる。葭田園長は園児を見やりながら語る。「人間も自然。そのつながりの中で生かされている。それを感じられる子供に育ってほしい」

 

編集後記

 

 春には田植え、秋はサツマイモの収穫、新年には収穫した大豆を使ったみそ造りや節分の豆まき......。園には、巡りゆく季節ごとに行事がある。毎週木曜は「同じ釜の飯の日」だ。子供たちが家から野菜などを持ち寄り、包丁で切り、火をつけて昼ご飯をつくる。食後は食器を新聞紙で拭き、米のとぎ汁で下洗いする。取材した日には、5月生まれの園児の母親が招かれ、出産前後の思い出を語る場もあった。SDGsという言葉が知られる前から、こうした取り組みは続けられている。(教育ネットワーク事務局 小川祐二朗)

 

 

 SDGs エスディージーズと読み、Sustainable Development Goalsという英語の頭文字からとった略称。「持続可能な開発目標」と訳されている。2015年の国連総会で採択され、貧困や飢餓、教育、男女の平等、働きがい、生産消費、生態系の保全など17項目の目標を掲げている。目標の下には、具体策や数値目標などを示した計169のターゲットがある。

 

ワード・ラボ 森の幼稚園

 

 

 1950年代、デンマーク人の母親が森の中で保育をしたのが始まりとされる。北欧を中心に広がり、日本でも2007年ごろから急増した。その前から日本でも「野外保育」「青空保育」という名前で行われていた。08年に発足したNPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟に加盟する幼稚園や保育園、こども園などは247団体、個人会員55人(21年5月現在)。同連盟によると、最近では韓国や中国でも増えているという。

(2021年10月18日 11:02)
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