【高円宮杯】大会の魅力と意義を語る 永瀬社長×有村・元女性活躍担当相

 70周年を迎えた高円宮杯全日本中学校英語弁論大会の意義や、その魅力、日本の英語教育の現状について、「東進ハイスクール」などを運営し、今年から同大会の特別協賛企業になったナガセ(本社・東京)の永瀬昭幸社長と、1985年の第37回大会で2位になった有村治子・元女性活躍担当相(自民党参議院議員)に語ってもらいました。

 司会は、中島康雄・読売新聞東京本社事業開発部長。 

>>大会ウェブサイト


 

――高円宮杯全日本中学校英語弁論大会は2018年で70回を迎えました。戦後間もない1949年に「将来の日本を担う国際性豊かな青少年を育てよう」と、故高松宮さまの賛同を得て高松宮杯として創設されました。1999年の第51回大会からは高円宮杯となって現在に至っています。毎年、校内の予選も含めると全国約10万人の中学生が参加しています。中央大会の出場経験がある方には、有村議員のほか、後に国際的に活躍されている方も多くいます。まずは永瀬社長から、この大会の印象をお聞かせください。

 

求められる英語での発信力

永瀬 すばらしい企画だと思います。私は英語を話す人には2つのタイプがあると思っています。単に英語をしゃべれるだけという人と、自分の主張があり、相手の主張も理解しながら考えを発信できる人です。この大会は、自分の考えを英語で主張するという点で極めていい試みです。文部科学省は教育改革を進めていて、2020年度には大学入試を改革します。その中では、論理的な表現力を持つことを重視する方針です。その点から考えても、英語による弁論大会は意義がある取り組みだと思います。

 英語は、正確な発音や話し方も大切です。残念ながら、日本語はイントネーションが平坦な言語です。一方、英語は、どちらかといえば体全体を使って表現し、一つ一つの言葉の抑揚が大きいことが特徴です。だから、ケネディ大統領やキング牧師の演説のように、人を感動させるということについて、極めて適した言語だと思います。日本人が英語を使って人を感激させることができれば、日本の国際的な発信力は高まるでしょう。そうしたことができるリーダーを育成するという意味でも、この大会は重要です。

 

 

――有村議員は1985年の第37回大会に出場して2位になりました。その後、大学時代には学生ボランティアとして、読売新聞社とともに同大会を主催する「日本学生協会(JNSA)基金」でも活躍されております。この大会の魅力についてお聞かせください。

 

有村 高松宮(現・高円宮)杯に出場し、文字通り世界に目を見開くチャンスをいただきました。15歳の時のあの経験がなければ、政治家になることはなかったと思います。私は滋賀県出身です。当時、ネイティブスピーカーの存在が非常に珍しい地域でした。そうした意味でも、視野を広げる最初のきっかけをいただいたと思っています。高円宮杯のすごいところは、中学生を子供扱いしないところです。大会に参画する人たちが、どのような立場であれ「君たちが日本の国際化を担っていくんだよ」という期待を持っています。その思いに触れ、私も「夢を大きく持っていいんだ」という刺激をいただきました。

 大会が始まったのは、終戦から4年後の1949年です。まだ占領下で、「世界の中の日本」ではなく、GHQ(連合国軍総司令部)が世界への窓口となっている時代でした。食糧事情は厳しく、子供たちが皆あばら骨を浮き出させている写真がここにあります。国民皆がまだまだ飢えていたのですね。その時代に、世界に目を見開く国際的な日本人をつくっていこうという決意があり、全国から中学生を集めて英語で弁論大会を開催しようとしたこと自体、すごいことです。出場経験者だからということではなく、政治家としても度肝を抜かれます。

 

 

仲間との交流が深める「将来の夢」

――県予選を突破した生徒が参加する中央大会は、東京で3日間行われます。生徒たちは同じ旅館に泊まり、志を持った仲間と交流します。同世代の子供たちが交流することの意義はなんでしょうか。

 

永瀬 志を持った人たちが、同じ宿舎で寝食を共にすれば、いろいろな話をするでしょう。お互いに交流することで自分を高めることができると思います。

 私たちは小中高生を対象に全国統一テストというものを年に2回実施しています。毎回約40万人が受験しています。その中で、小学校4年生の成績優秀者30人を選んで、10日間のアメリカ研修に招待しています。ニューヨーク、ボストン、ワシントンを回って一流大学などを訪れ、見聞きしたことをもとに、「自分はこう生きます。こういう目標を持って、こういう人間になりたい」という夢を発表してもらいます。そういう子たちは、ものすごく人の心を打つようなことを言います。それは、いろいろな体験に加えて、友達と夢を語り合ったからなんです。最初は漠然と「お医者さんになりたい」というような夢を持っていた子供が、「再生医療を使って、今まで不可能とされていた治療をやりたい」など、どんどんと夢を深めていきます。同世代で、しかも同じような志向性を持つ子供が交流するというのは、非常にすばらしいことなんです。

 

――有村議員は、大会に出場した経験が今に活かされていると思うことはありますか。

 

有村 本当に刺激的な体験でした。いつもの学校の教室での関係ではなく、社会に出て他流試合をするんです。参加者はライバルではなく、自身の夢や日本各地の「お国柄」を、互いに違う方言で語り合います。そうした仲間と寝食を共にすることが、かけがえのない財産になっています。その時の友達は30年以上経た今でも親友です。

 先生方も、親御さんも、JNSAも、スポンサーの皆さんも、皇室から宮杯をいただいているということについて、誇りと愛着、敬意を抱いています。私たちが日本の中学校における英語教育を担っていくのだ、という自負を持っていることは、参加した当事者にとっても大変幸せなことだと思います。

 

大切なのは「何を発信するか」

――英語教育について、永瀬社長の理念をお聞かせください。

 

永瀬 先ほども言いましたが、「何を発信するか」というものがなければ、いくら英語が流ちょうに話せても中身のない人間ということになります。一番肝心なのは、その人の見識であり、それをどのようにまとめて話せるかということです。極端な話、少しなまったような英語を話しても、内容がしっかりしていればネイティブの人はそれなりに耳を傾けてくれます。そうは言っても、キングスイングリッシュ(イギリスの標準英語)の方が、その人の知識や教養の高さを示すことになります。例えば、スイスで開かれるダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)に行き、そうした話し方で自分の見識を語った時、周囲の人は「ああ、この人はただ者ではない」ということになり、肩書きなどとは関係なく、いろいろな意見を聞いてもらえるようになるでしょう。

 

――ナガセは、2013年から米国大学留学生支援制度を始めています。その狙いはなんでしょうか。

 

永瀬 残念ながら、留学する日本人は年々減っています。例えば、ハーバード大学のように、未来の大統領を輩出するような大学に留学する日本人はわずかしかいません。今では中国、韓国からの留学生のほうが格段に多いですね。

 例えば、留学先の同級生の誰かが将来、アメリカ大統領になったと仮定します。高校から大学に入ったくらいの年齢の学生は、利害得失で友人にはなりません。利害関係抜きでウマがあって深い人間関係ができるわけです。もし、日本からの留学生がそうした人物と関係を作ることができたら、彼らの個人的な人間関係が、日本にとっても貴重な人間関係になる可能性があります。

 そのために私ができるのは、ハーバードやイェール、スタンフォードなど、一流といわれるアメリカの大学を選び、そこに留学する学生に4年間で約3000万円給付するということです。お金を返していただく必要はなく、当社に対する義務も課していません。ぜひ、中学生諸君も、この制度を知っていただきたい。

 

 

言葉は人とわたり合うための手段

――有村議員は、今のお話を聞いていかがですか。

 

有村 本当に刺激を受ける仲間のところに飛び込むチャレンジ精神をどう涵養(かんよう)するかということは、日本にとって非常に重要な課題です。

 英語教育においては、文法とか単語をどれだけ知っているかということだけでなく、「聞き、話す」という、まさに人とわたり合う手段としての言語を学んでいるのだと意識することが大切です。「聞き、話す」ことは、文章を読んだり書いたりするのと違い、そこにいる相手と、リアルタイムで進めないといけない。言語を「知の格闘技」「知の手段」と位置づけ、相手と手を結ぶのか、けんかをするのか、共存共栄を目指すのかなど、距離のとり方も含めて生き抜く技を戦略的に学ぶことが大切です。パワーランゲージ(言葉を駆使し、説得力を高めるコミュニケーションの展開)が流れを創り、世界を変えていきます。

 単に「英会話ができればいい」「あいさつができればいい」では日本は伍していけません。AI(人工知能)で同時通訳ができるような時代なのですから、何のために英語を学ぶのか、英語で何をしたいのか、という動機を明確にしておくことも学習意欲の維持の点から大事ですね。

 99年にお名前を冠したトロフィーをお作り下さいました高円宮さまは、当初、大会では英語でごあいさつをされていらっしゃいました。本当に流暢な、まさに日本のプリンスここにあられる、という国際人のお姿でした。しかし、数年後には日本語でお話しになられるようになりました。「中学生に伝わってこそ。みんなに伝わって共感を得てこそ」とお考えになられたのでしょう。そのお姿を拝見し、やはり言語はいかに流暢に話すかというよりも、伝わり、共感を得て、心を動かして初めて意味を成すのだと気付かされます。

 英語を学んで初めて気がついたのですが、他の言語を学んだからこそ、日本文化や日本語の特徴を再認識する楽しみもあります。例えば、英語で「ブラザー」「シスター」と言った場合、年上なのか年下なのかというのはあまり気にしていません。一方、日本語では、年上のお兄さんなのか、年下の弟なのかで、敬語を使うかどうか、上座下座と座るポジションまで規範が出てきます。年功序列が極めて大事な社会秩序なのかどうかという特徴を、他の言語を学ぶことで深く理解することができます。

 

永瀬 言語というのは文化の象徴だと思うんですね。だから、英語を学ぶのであれば、英語を母国語としている国から学んだほうがいい。そこにある文化をしっかり知ることが言語を学ぶということ、それこそ「ブラザー」という概念と「きょうだい」という概念の成り立ちの違いを学ぶことになります。

 また、日本人は何かをしゃべることにある種の恥じらいを持っている人が多いですけど、これからはそういうわけにもいかない。私は常々、何をしゃべったかじゃなくて、どれだけ人の心を動かしたか、動かしたことで相手の行動がどう変わったかが大切だと思っています。選挙だったら投票する。私たちの会社であれば、入学手続きをしてしっかりと勉強する。このようなことにつながらなければ、仕事をしたことにならないわけです。そこまで心を動かせるのが言葉の力です。英語を使えば、日本人の心を動かす以上に、世界中の人の心を動かすことができます。その点でも、英語を話すことが国際社会への第一歩だと思いますね。

 

 

意欲のある子供たちを応援

――最後になりますが、永瀬社長から、この英語弁論大会の将来について、アドバイスがありましたらお聞かせください。

 

永瀬 今の時代なりの発展があってもいいかもしれません。出場者を中学生に限る必要はないと思います。英語は小学生から学ぶ時代になっています。早い方がいいということは間違いなく言えますね。小学生は小学生なりの表現をするでしょう。小学校の弁論大会があり、中学校、高校の大会があればいいと思います。

 空手で言えば、型と組み手とかあるじゃないですか。あのように種目を複数化するというのはどうでしょうか。例えば、ディベート(討論)を行うという新たな種目を作ることもいいかもしれません。日本の学生はディベートについて教育を受けておらず、極めて弱いと感じています。さまざまな問題に明確な答えがない現実の世界では、限りなく正解に近いものを、論理的な方法で考え、解決策を見つけていくことが重要になります。ディベートは、どこにどういう問題点があるのかということを考えるという点で、頭の訓練になります。そういう意味で、弁論大会でディベートを行うことは意義のあることかもしれません。

 

有村 子供たちを均質的にレベルアップさせることは大事な国家戦略だと思いますが、突き抜ける力や意欲のある人たちをどう応援するかという戦略は、日本が引き続き先進国でいるためには必要です。「出る杭は打たれる」ではなく、「突き抜ければみんなで応援しよう」という風土も重要です。

 この点、人生を切り拓き、世界でわたり合っていく力としての言語をどうモノにするのか、私たちは今まで以上に考え、行動しなければなりません。私は関西人なので「伝わってなんぼ」と言いますが、やはり言葉は、心を動かし、伝わってこそ。英語だけではなく、母国語である日本語についても、一言一句を大事に紡ぐ毎日でありたいと存じます。

 

――本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

(対談は2018年11月15日、東京都新宿区のナガセオフィスで行われました)

 

(2018年12月14日 12:00)
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