第12回 日本語大賞 文部科学大臣賞 受賞作品(全文)

 NPO法人・日本語検定委員会による第12回「日本語大賞」(読売新聞社など協賛)の入選作のうち、小学生、中学生、高校生、一般各部の文部科学大臣賞受賞作品の全文を紹介します。今回のテーマは、小学生の部、中学生の部が「心にひびいた言葉」、高校生の部、一般の部が「私を動かした言葉」です。※敬称略

 

■小学生の部

おとうさんにもらったやさしいうそ

佐藤 亘紀(さとう・こうき)

茨城県古河市立古河第二小学校一年

 ぼくのこころにひびいたことばは、「おとうさんはちょっととおいところでしごとをすることになったから、おかあさんとげんきにすごしてね。」です。そのときぼくは二さいでした。とても小さかったのでちょくせついわれたのはおぼえていませんが、いってくれたときのどうががおかあさんのスマホにいまでものこっているので、すきなときにきくことができます。


 

■中学生の部

今日を頑張る

鈴木 司(すずき・つかさ)

東京都立小石川中等教育学校二年

 私はあることに悩んでいた。それは自分がなぜ、頑張っているのかということだった。このことを周りの大人、友達に聞いてみたが、答えは様々でどれも腑に落ちなかった。ある一人の友達は夢のためだと答えてくれた。しかし、それでは夢のない人が頑張る理由にはならない。おそらく、多くの人はお金や夢などの見えるものに向かって頑張っていると思っているのだろうが、もっと本質的な何かがあるのだと思っていた。しかし、私はそれが何か分からず、スッキリしないまま学校生活を送っていた。


 

■高校生の部

込められた思い

武田 悠世(たけだ・ゆうせい)

東京都立三鷹中等教育学校四年

 「地獄は、あの世ではなくこの世にある」

 これは、私が小学生の時に、既に九十歳を越えていた曽祖母が口にした言葉である。曾祖母が若かった頃、日本は戦時中であった。当時、静岡市内に住んでいた曽祖母は、空襲に遭い、市内に火災が広がる中、二人の幼い子供の手をひいて必死で逃げ回った。その時に通りかかった橋のたもとから、ふと川を見下ろした時の恐ろしい光景が、目に焼き付いて離れないという。川の中には性別すらわからない数多くの死体が、折り重なっていた。中には、こちらに顔を向けているものもあった。その虚ろな目と、偶然にも目が合った時、「地獄は、あの世ではなくこの世にあると感じた」と曽祖母は語った。


 

■一般の部

妻の否定

森 惇(もり・あつし)

(千葉県)

 気がつけば、どこを漂流しているのだろう。十年......、心身の長い闘病を続けていくうちに、ほとんど寝たきり状態の日々。天井を眺めていると、健康だった昔の自分が映し出されてくる。現実を未だに受け入れられないのだろうか、過去にばかり思いを馳せてしまう。


 

(2021年2月25日 21:30)
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