《第67回》文部科学大臣賞作品紹介(2)

 第67回全国小・中学校作文コンクールの中央最終審査会が行われ、各賞が決定しました。応募は3万2302点(小学校低学年4513点、高学年7841点、中学校1万9948点)。文部科学大臣賞3点を要約して紹介します。(敬称略)


 

<小学校高学年>

「ケニアからやってきたケニー」

山形・米沢市立北部小5年 青木誓己(あおき・せな)

 ある日の夕方、母が真剣なまなざしでぼくと妹を前に、「二人に大切な話があるの」と話し始めた。

 「今週末からホームステイでうちにケニア人の男の人が来るって話したよね?彼、ケネディっていうんだけど、『アルビノ』と言って、生まれつき肌だけでなく髪の毛やまつ毛も全部白い人らしいの」

 「ナイス トゥー ミーチュー」。雪のような真っ白い肌と白金色の短く縮れた髪。ケネディは恥ずかしそうに右手を差し出した。

 ケネディのことはケニーと呼ぶことにした。日本語が分からないケニーとは英語だけでコミュニケーションすることになった。ケニアではアーミー、つまり軍隊に所属しており、軍隊学校を卒業したばかりだそうだ。

 部屋に案内すると、ケニーはバッグからノートパソコンを取り出した。「キャン ユー ファインド ミー?」(ぼくを見つけられるかい?)

 画面には、制服を着たたくさんのケニアの軍人が行進する姿が映っていたけれど、ケニーのことはすぐに見つけられた。

 次の日の朝、朝食後すぐにぼくたちは合気道の道場に向かった。昨日の会話の中でケニーが日本の空手や柔道に興味を持っていることが分かり、ぼくの通っている合気道のけい古に急きょケニーも参加することになったからだ。

 ケニーは初心者なので、竹田館長からの指示で古川先生とぼくが付き、他のみんなとは別メニューで練習することになった。
 「アー ゼイ ファイティング?(彼らは戦っているのかい?)」。2人1組になって攻めと受けの練習をしている様子を見て、ケニーはぼくに尋ねた。

 合気道は自分の身を守るための武道なので、空手や柔道のように戦わないことを教えると、ケニーは「ノット ファイト、バット ディフェンド(戦わずに守る)」と感心したようだった。

 帰りの車中、ケニーは、自分からすすんで自分のことやケニアのことを色々話してくれ、スマートフォンから家族の画像を取り出して見せてくれた。家族の中ではケニーだけがアルビノだ。

 ケニアでもアルビノは珍しいのかたずねると、「イエス、バット アイ スィンク アイムノット レア バット ユニーク(そうだね、でもぼくは珍しいというよりユニークなんだと思っているよ)」と答えてくれた。

 ぼくは「アイ スィンク ソー、ユー アー ユニーク エンド スペシャル(ぼくもそう思う。あなたはユニークで特別だよ)」と言った。そして、ぼくたちは2回目の握手をした。

 ケニーがぼくたちと過ごした3日間は本当に短い期間だったけど、ぼくはケニーから「あるがままの自分を受け入れる勇気」を学んだ。

 今度ケニーに会ったとき、一緒に合気道のけい古をするのがぼくは本当に楽しみだ。(指導・後藤航教諭)

 

◆会話に臨場感持たせる

 【講評】ケニーとの交流を通して、外観の違いを個性として受け止めることを学んでいく過程が、自然な文章で綴(つづ)られている。会話を日本語に訳さずそのまま書いているところに臨場感があり、アルビノであることを「レア(珍しい)」ではなく「ユニーク」と語るケニーに作者が共感し、絆を深める場面は特に感動的。(梯久美子)=11月30日の読売新聞に掲載しました=

(2017年12月 1日 10:00)
TOP