第70回全国小・中学校作文コンクールの中央審査で各賞が決定しました。文部科学大臣賞3点を要約して紹介します。作品の全文は、要約の下の「全文を読む」をクリックしてご覧いただけます。(敬称略)
<小学校低学年>
「ふつうになりたい」
盛岡市立桜城小1年 山田永菜(やまだ・えな)
わたしには、にがてなことがたくさんあります。はったつしょうがいがあって、かんかくかびんがあるからです。
うちあげはなびは、ばくだんのおとみたいです。おねえちゃんたちのうんどうかいも、よーいどんのピストルのおとがこわくて、いっぱいおうえんできません。においもにがてです。レストランでは、ハンバーグやカレーのにおいがまざってきもちわるくなり、はいてしまいます。
がっこうにはいっていちばんのしんぱいはきゅうしょくでした。きょうしつでぐあいがわるくなったらせんせいもこまるし、みんなのきゅうしょくもおそくなります。わたしはさいしょ、しゅうかいしつでたべました。すこししてからみんなといっしょにたべたい、とそうだんしました。
しがつのさいごに、はじめてきょうしつできゅうしょくをたべました。くすりをつくえのうえにおいて、かんしょくしました。きゅうしょくとうばんにもちょうせんし、ともだちとふたりでぎゅうにゅうをはこびました。じしんがついてきたようなきがして、うれしくなりました。
こころがモヤモヤして、おとがたくさんきこえてきて、たんにんのまりせんせいのこえがきこえないときは、せんせいがつくってくれたハートのカードをつかいます。ほけんしつでやすみたい、のカードです。ほけんしつでおはなしするとつぎのじかんにはきょうしつにもどれます。
ねんちょうぐみのとき、おかあさんが、えなにははったつしょうがいがあるんだよ、とおしえてくれました。
でも、なんでわたしだけみんなとおなじようにできないの、そとでごはんがたべられないの、とイライラします。
わたしだけ。わたしばっかり。わたしは、ふつうになりたいです。テストでひゃくてんがとれなくても、かけっこでいちばんになれなくてもいい。みんなとおなじことが、ふつうにできるようになりたい。ヘッドホンをつかわないではなびをみたい、くすりをのまずにレストランでごはんをいっぱいたべたいです。
イライラしたときは、おかあさんが「えなのせいじゃない。びょうきのせいよ」といってくれたことをおもいだす。すると、イライラがなくなります。おかあさんがおしえてくれたから、じぶんがわるくないっておもえました。
はなしたいことがいっぱいうかんで、なにからはなしたらいいかわからなくてだまってしまうときは、おねえちゃんとおかあさんがつくってくれたきもちのカードで、かなしいとかこまってるとかをゆびでつたえます。おかあさんは、きもちはもじでかくといいよといってくれました。
しょうがいだからあきらめるんじゃなくて、しょうがいだからがんばります。だって、らいねんはおとうとがにゅうがくします。おとうとのステキなせんぱいになりたいです。だからせんせいと、おかあさんとかぞくとこれからもがんばりたいです。(指導・高橋真理教諭)
わたしはみんなよりにがてなことがたくさんあります。
しがつようか。わたしはいちねんせいになりました。いちねんいちくみです。たんにんは、まりせんせいです。めがねをかけていて、とってもやさしいおんなのせんせいです。
にゅうがくしきのふつかまえに、わたしはみんなよりさきに、いちくみになったこともたんにんがまりせんせいだっていうこともしっていました。まりせんせいとてをつないでにゅうがくしきのかいじょうをみたり、きょうしつにいってじぶんのせきにすわったりせんせいと、にしひろばをみました。さくらとチューリップがもうすこしでさきそうでした。
わたしは、はじめてのことがにがてです。しんぞうのドキドキがとまりません。ちゃんとできなかったらどうしよう。ドキドキと、こころがもやもやです。そのうちきもちがわるくなってはいてしまいます。ほいくえんのうんどうかいも、えんそくも、おゆうぎかいもいつもはきます。おくすりをのんで、あさごはんはたべません。だからおかあさんがずっとまえからがっこうのせんせいとそうだんして、わたしはみんなよりさきにまりせんせいとあうことになりました。ちょっとしんぱいでした。みんなは、わたしがみんなよりさきに、クラスもせんせいもしっていたら、ずるいっていうかもしれません。わたしがみんなだったら、ずるいっておもいます。でもみんなわたしに、ずるいとはいいませんでした。
わたしには、はったつしょうがいがあります。はじめてのことがにがてなのは、かんかくかびんのしょうじょうです。
おおきなおとがにがてです。うちあげはなびは、ばくだんのおとみたいです。バスのブレーキのおとは、あたまがキーンといたくなります。まいとしある、にほんいちのさんさおどりも、たいこのおとがこわくていちどもみたことがありません。おねえちゃんたちのうんどうかいも、よーいどんのピストルのおとがこわくて、おうえんのたいこのおともこわくて、いっぱいおうえんしたくてもできません。
においがにがてです。レストランにいくとハンバーグやカレーのいいにおいがします。でもわたしはぜんぶがまざったにおいがしてきもちがわるくなってはいてしまいます。かぞくでりょこうにいっても、あさごはんがたべられません。かぞくでレストランでたべたことはほとんどありません。ほいくえんのおわかれきゅうしょくのときもはいてしまいました。みんな
「むりしなくていい。」
といいます。むりなんかしていません。わたしだってたべたいのに。
がっこうにはいっていちばんのしんぱいはきゅうしょくでした。きょうしつでぐあいがわるくなったらせんせいもこまるし、みんなのきゅうしょくもおそくなります。おかあさんとせんせいとでそうだんして、わたしはさいしょ、しゅうかいしつできゅうしょくをたべることになりました。まりせんせいは、いちくみにいるのでやまぐちせんせいとたべました。すこししてから、みんなといっしょにきゅうしょくをたべたいです、とまりせんせいにそうだんをしました。
しがつのさいごに、わたしはいちくみのきょうしつではじめてきゅうしょくをたべました。おかあさんがもってきてくれたくすりをつくえのうえにおいてたべました。ほいくえんのきゅうしょくとあじがちがうけど、かんしょくしました。だいせいこうです。
つぎに、きゅうしょくとうばんにちょうせんです。ごはんやおかずはにおいがつよいから、デザートとぎゅうにゅうからちょうせんしました。ぎゅうにゅうのおとうばんだったおともだちに、
「いっしょにやらせて。」
といったら、
「いいよ。」
といってくれました。ふたりではこびました。きゅうしょくとうばんも、だいせいこうです。じしんがついてきたようなきがして、うれしくなりました。
でも、がっこうにはいってわすれものがおおくなりました。おかあさんに、しゅくだいをかたづけてといわれて、しゅくだいをランドセルにいれました。そしたら、どうしてふでばこがでているの、ふでばこもかたづけてといわれました。そしたらつぎのひ、わたしのふでばこにはえんぴつもけしごむもはいってませんでした。ふでばこはちゃんとかたづけたのに。おかあさんに、
「ごめんね。おかあさんのせつめいがわるかったんだ。」
といわれたけど。おねえちゃんに、
「ふでばこをかたづけてっていわれたら、えんぴつとけしごむをしまってかたづけるんでしょ!」
とおこられました。でもわたしは、えんぴつとけしごむをふでばこにいれてから、とはいわれていません。びょういんにいったときに、あたらしいおくすりがでました。
どうしても、こころがモヤモヤするときがあります。おとがたくさんきこえて、にくみとにねんせいのせんせいのじゅぎょうのこえがきこえて、まりせんせいのこえがきこえません。なんのじゅぎょうかわからなくなって、いまやっているもんだいがわからなくなります。そういうときは、まりせんせいがつくってくれたハートのカードをつかいます。ほけんしつでやすみたいです、のカードです。
ほけんしつには、とちないせんせいがいます。いつもピンクのエプロンをつけていて、やさしくて、がっこうのおかあさんみたいです。
ぐあいがわるくないのに、けがもしてないのにほけんしつにいくのはいけないことをしているきもちになります。でも、ほけんしつはちょっとくらくてしずかで、とちないせんせいとおはなしするとつぎのじかんにはきょうしつにもどれます。
わたしがねんちょうぐみのとき、おかあさんがわたしに、えなははったつしょうがいがあるんだよ、とおしえてくれました。
「あたまのなかがかぜをひいているから、びょういんにいっておくすりをもらいます。あたまのなかがかぜをひいているからみんなよりにがてなことがおおいけど、それは、えなががんばってないからじゃなくて、びょうきだからしかたないの。だからこまったら、やんべせんせいにおはなししようね。」
やんべせんせいは、わたしのびょういんのせんせいです。
まわりのおとなのひとたちが、わたしにびょうきの、はなしをするのははやいといいました。わたしがはったつしょうがいだとまわりのひとにいうのも、そういうふうにみられるからかわいそうだよともいわれました。
でも、わたしはなんでわたしだけみんなとおなじようにできないのとか、そとでごはんがたべられないのとか、なんでわたしだけがふつうのことができないの、とイライラします。
わたしだけ。わたしばっかり。
わたしは、ふつうになりたいです。
わたしのふつうは、みんなとおなじことがおなじようにできることです。テストでひゃくてんがとれなくても、かけっこでいちばんになれなくてもいいです。みんながしてることとおなじことが、ふつうにできるようになりたいです。ヘッドホンをつかわないで、はなびをみてみたい、さんさおどりにいってみたい、おくすりをのまなくてもレストランでごはんをいっぱいたべてみたいです。
そうおもってできなくてイライラしたとき、おかあさんが、
「えなのせいじゃないよ。びょうきのせいなんだよ。」
といってくれたことをおもいだす。そうすると、イライラがなくなります。おかあさんがわたしにおしえてくれたから、じぶんがわるくないっておもえました。
わたしはじぶんのきもちをことばではなすことがにがてです。はなしたいことはいっぱいうかぶけど、なにからはなしたらいいかわからなくて、だまってしまいます。いちばんうえのおねえちゃんとおかあさんが、きもちのカードをつくってくれました。ないているかおとか、おこってる、こまってる、たくさんあってことばでいえないときは、せんせいにカードのかおでかなしいとか、こまってるをゆびでつたえます。そしたらおかあさんがことばがにがてなら、かみにもじできもちをかくといいよといってくれました。
わたしのにばんめのおねえちゃんは、あたまがよくてさくぶんがとくいです。にほんいちにもにかいもなりました。おねえちゃんみたいになりたいとおもって、ノートにたくさんおもったことをかきました。
ろくがつに、なつやすみのくらしのひょうごをみんなでかきました。しちがつ、せんせいが、
「はっぴょうがあります。えなさんのひょうごがしょうにえらばれました。」
とはっぴょうしてくれました。たくさんはくしゅをもらって、とってもうれしかったです。
わたしは、ふつうになりたいです。
みんなとおなじことがおなじようにできるようになりたいです。だから、にがてなことばはもじにしてみます。おとやにおいはむずかしいけど、わすれものはおかあさんとかくにんをします。しょうがいだからあきらめるんじゃなくて、しょうがいだからがんばります。みんなよりがんばります。だって、らいねんはおとうとがいちねんせいになってにゅうがくします。できないこともあるけれど、おとうとのステキなせんぱいになりたいです。だからせんせいと、おかあさんとかぞくとこれからもがんばりたいです。
◆何が大変かていねいにつづる
【講評】小学校入学はだれでも緊張するもの。他人からはわかりにくい障害を持っていればなおさらです。でも山田さんは何がつらくて大変かをていねいに綴りました。心の不安も冷静に、希望と決意は力強く記しました。どうすれば人はわかりあえるかのヒントを、この作文から学びました。(石崎洋司)
(2020年12月14日 16:00)