「読解力向上フォーラム」70人が参加(動画あり)

 読売新聞が記事を基に作成している教材「よむYOMUワークシート」の活用例を紹介する「読解力向上フォーラム」が8月18日、東京・大手町の読売新聞東京本社で開かれた。オンライン視聴も含め、全国の教育委員会や学校関係者約70人が参加し、子どもの読む力や書く力を伸ばす方法を探った。

 

■事例発表

全校での実践と成果

宅石 忍 岩手県野田村立野田中学校 国語科教諭

 2020年度秋の試行期間から、全校生徒に導入している。本校で効果的だったのは、週末課題よりも授業の冒頭数分を使った実施方法だった。

 現在の中3はこの教材に中1の秋から取り組んできた。入学当初、情報の取り出しを苦手としていたほか「無回答」が多いなどの課題を抱えていたが、今年度の全国学力・学習状況調査で、国語の平均正答率で全国を上回るなど顕著な成果をあげた。「時間が余った」「ちょうどよかった」と答える生徒が多数を占めた。

 また、美術や音楽の鑑賞文、道徳の時間の記述の文章量と質が向上し、さまざまな発表場面等で自分の考えを表出できるようになったと実感している。

 

 

読解力向上に向けた一手をどう打つか

藤岡宏章 前盛岡市立中学校長

 新聞は、読解力をつけるための最も身近なテキストだが、購読していない家庭が多い。学校で新聞を使っていくことを考えると、コンパクトなよむYOMUワークシートは最適だ。

 自分が生きている社会がどうなっているかを自分事として捉え、リアリティーのある学びも実現できる。そうした学びを積み重ねることで、10年後、20年後の自分の将来をイメージすることにもつながり、進路学習という点でも適したテキストと言える。

 すでに確立した学習体制の中に導入するのは難しい面もあるが、読解力についての課題意識を共有できれば、導入の合意はできる。学習効果を上げるには、取り組むことでどんな成果が期待できるのか、あらかじめ生徒や児童に伝えておくことも大事だ。

 

 

CBT化に向けた実践

武田浩明 埼玉県坂戸市教育委員会指導主事

 2021年度後半から、市内の小中学校全校(小学校12校、中学校7校)でよむYOMUワークシートに取り組んでいる。教育委員会がダウンロードして各校は印刷するだけにし、必要な用紙は教育委員会で手配する。

 坂戸市はグーグルのクラスルームを使用しており、児童生徒が学習用端末でシートを見られるようにもしている。PDFファイルに図を挿入し、文字の書き込みができるようにした。選択肢から選ぶこともできる。ただし、自動採点はできないので、電子黒板で一斉に答え合わせをしたり、教員が採点をしたりしている。

 今年度の全国学力・学習状況調査の国語、特に「読むこと」の伸びが顕著だった。教員への質問紙調査の結果、読解力向上に効果があると解答した教員は96%に上った。

 

 

講評

田中孝宏 読売新聞教育ネットワークアドバイザー

 宅石先生や藤岡先生の発表では、実際の学校現場での活用方法が紹介された。どの教科、あるいは時間枠で取り組むかや、課題解決学習への活用などについての報告から、具体的な活用のイメージを抱くことができたのではないか。

 また坂戸市のデジタル画面上の活用事例は、よむYOMUワークシート活用の工夫の広がりを感じた。シートが新しい次元に入っていけるのではないかと感じた。

 野田中学校の生徒からあがった「ちょっと難しいけれどおもしろい」「わかるようになって達成感があってうれしい」という声は、我々が一番聞きたかったものだ。意欲、興味関心を喚起できる学習内容でないと今後の教育はうまくいかないのではないか。

 

質疑応答

 

 

解説

よむYOMUワークシートと学習指導要領との対応

冨山哲也 十文字学園女子大学 教育人文学部 児童教育学科 教授

とみやま・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官(国語)などとして、学習指導要領の改定や全国学力・学習状況調査などに関わった。

 教材の特色はいくつもあるが、グラフや図表と文章との関連、書き手の意図を考えさせる設問の多さは、新聞を基にした教材ならではと言え、良問ぞろいだ。

 各設問が国語の学習指導要領のどの部分と対応しているかを説明したい。例にするのは、2022年5月に配信したシート。小中とも各1回分ずつ、実際に問題を見ながら考える。

 

 

講演

よむYOMUワークシートで語彙力を伸ばす

森山卓郎 早稲田大文学学術院教授

もりやま・たくろう 日本語学の観点から国語教育を研究。国語科教科書の編集や全国学力・学習状況調査に関わる。文化審議会国語分科会委員。京都教育大学名誉教授。

 言葉は、実際に使われる文脈の中で出会わなければ身につかない。実社会で使われる熟語や慣用句が頻出する新聞は、語彙力をつけるのに適した素材だ。

 よむYOMUワークシートは記事の「書き方」「表現の工夫」に着目し、様々な設問で「なぜか」を考えさせる。「ノーベル賞受賞者の幼い頃のエピソードを紹介することで、読者に何を伝えようとしているのか」を問う設問などがこれに当たる。

 文章を味わい、それぞれの感想を大切にする学習も大切だ。しかし、実社会では、誰もが同じように解釈しなければならない読み方も存在する。よむYOMUワークシートは学習内容を補完し、そうした読解力を育む教材だと評価している。

 

 

(2022年11月28日 12:50)
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