[5]テストの前で小さくならない!
センター試験が終わった。
国語を教えている身としては、「古典、結構できましたよ」と言われると嬉しいが、「思ったより難しかったです」と言われると落ち込む。「もっとあれもこれも、ちゃんと授業で教えておくべきだった」と反省、また反省。その一方で、「勉強とは、単なる詰め込み、教え込みじゃいけないんだよなぁ」とつぶやいたりする。
テストは苦しい。若者たちを点数化しなくてはいけない。そしてその点数は、紛れもなく受験者一人ひとりの学力(の一部)を表している。自分を点数として示されることは、たとえそれがどんなにいい数字であっても、どことなく違和感があり、悲しい。
それでも、3年生たちは、日々こつこつと勉強している。授業にも熱が入る。休み時間に教室の後ろの黒板に問題を書いては教え合ったり、元気がない友だちを励ましたりしている。
心まで響くチャイムを聞きながらシャープペンシル静かに置いた
柴田瞳『月は燃え出しそうなオレンジ』
1月が終わると3年生は自由登校期間に入る。3年生の最後の授業は、選択古典だった。これから私立大の入試や、国公立の二次試験を控えている生徒たちに、何か励ましの言葉をおくりたかった。でも、思いがあふれるばかりで言葉は上手に出てこない。「テストで点数をとることが目的じゃない。本当の目的、本当にやりたいことは、その先にある」とだけ話して授業を終えた。
生徒一人ひとりは、みんなそれぞれ良くなろうとしている。将来に向けて、何か強い願いをいだいている。そしてよく努力している。だから、みんな、進路希望をかなえてほしい。
これから入試に挑むみんな、どうかテストの前で小さくならないで! テストは人を選別するために、わざと作られた「些細なことで差が生まれるようにしたクイズ集」です。テストの点数は、あなたの力の、ほんの一部を判定するだけ。あなたの人間的な魅力とはあまり関係ないんだよ。
今はみんな若いからテストを受ける側だけれど、5年、10年もたてば、あなたが問題を作ったり、ある分野で人々を導いたりするようになっているはず。「テストなんかより、自分のほうが偉い」という気持ちで入試に挑んでほしい。
最後の授業でちゃんと話せなかったことを、ここに書きました。
制服がすこし重いよ真っ白な冬芽になりたい土に坐れば
藤本玲未『オーロラのお針子』
千葉 聡 @CHIBASATO
1968年生まれ。横浜市立桜丘高校教諭。歌人。生徒たちから「ちばさと」と呼ばれている。著書に『飛び跳ねる教室』『短歌は最強アイテム』など。
横浜の冬は、晴れの日続き。空は青のグラデーションです。暦の上では、そろそろ春。すべての受験生にエールをおくります。
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