[7]世界一の担任
「私はトレーニングが好きで、腹筋はちゃんと割れています」
着任式の挨拶で、ウブカタ先生はさらりと話した。長い髪、文学をいきいきと語る笑顔、弾むような声。「学級委員をいつもやってくれるしっかり者の女子」のように見えるウブカタ先生だが、じつは毎朝、出勤するとすぐにトレーニングウェアに着替えてランニングを続けているアスリートだ。
そんなウブカタ先生が担任をつとめているのが、進路室に近い3年5組。
選択古典の授業で5組に行くと、クラスの連絡小黒板に、生徒たちのメッセージが書いてある。受験期には、友を励ますような言葉が並ぶ。Nくんの「今日のつぶやき」コーナーには「誇れるものを一つ持とう。自分を見失わないために」など、心のささえになる力強いメッセージが書いてある。また、パッと見ただけであたたかい気持ちになるマンガや、ちょっと笑ってしまうギャグも書いてある。
生徒たちがいきいきとしている。それもそのはず。5組は、文化祭の出し物(お笑いライブ)で全校1位に輝いた、超にぎやかクラスなのだ。
2月、大学入試のため3年生は自由登校期間となる。大掃除を終えた5組は、きれいだけれど静かすぎて、なんだかここが学校じゃないように見える。
冷え冷えと机に椅子は載せられて卒業前の三年校舎
小島なお『乱反射』
卒業式の3日前、ウブカタ先生が「できあがりました」と『3年5組卒業記念文集』を見せてくれた。これだったのか! 冬休みの前あたりから、5組の子たちが「書けました」と言ってはウブカタ先生に何やら渡していたのは!
一人ひとりの作文、修学旅行やバレーボール大会の写真、あのにぎやかだった小黒板の写真、みんなが登場する未来年表。そして、最後はウブカタ先生から一人ひとりへの詩とメッセージ。最後まで諦めずに努力していたね、君のチャレンジ精神は最高、キュートな笑顔をありがとう......。
「『世界一担任業の好きな教員』と自己紹介するとたいていの人は笑うけれど、それをあながち大袈裟とも思っていない。生徒たちと向き合う日々は、孤独を感じがちな私に、生きる意味や歓びを与えてくれた」「またいつの日か、『笑い声大盛りで』会いましょう。さようなら、そしてありがとう、愛する5組の生徒たち」
生方千尋先生の編集後記の一節だ。
3月に入るとすぐに卒業式。にぎやかクラスの晴れ姿を目に焼きつけたい。
卒業式いたづらほどの髭生やしそれぞれの人生のまへに並ぶも
米川千嘉子『衝立の絵の乙女』
千葉 聡 @CHIBASATO
1968年生まれ。横浜市立桜丘高校教諭。歌人。第41回短歌研究新人賞を受賞。生徒たちから「ちばさと」と呼ばれている。著書に『飛び跳ねる教室』『短歌は最強アイテム』など。
2月も下旬になると、受験を終えた3年生たちが報告に来てくれます。「久しぶり」「元気だった?」という声が飛び交う進路室です。
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