「アナログ」が聞きたくて ~11月3日はレコードの日

再生には専用のプレーヤーが必要。機材にこだわる人も多い

 

 レコード、聴いたことがありますか? 先日、アメリカの2020年上半期レコード売上高が、1980年代以降で初めてCDの売上高を抜いた、という報道がありました。日本でも、レコードの販売金額は6年連続で上昇。じわじわと人気が出てきています。11月3日は「レコードの日」。改めて、レコードの魅力に迫ってみました。

(東洋大学・佐藤道隆)

 

CDとは別物

 「昔は、毎日のように学生がレコードを探しにやってきたんだよ」。渋谷のセンター街近くにある老舗のジャズレコード専門店「discland JARO」 の店主、柴﨑研二さん(74)が話してくれました。

 1973年の創業当初は、新譜と呼ばれる発売されたばかりのレコードを、大学生などの若者が集まる「ジャズ喫茶」に卸す業務が主でした。店舗近くには、青山学院大学や國學院大學もあり、「毎日40人以上は若者が訪れていた。店外に並んで待つ学生もいたよ」と懐かしそうに振り返ります。流行の発信地・渋谷でレコードを探す、という行為そのものが、若者にとってはカッコいいことだったのかもしれません。

 ところが、1980年代に登場したCDが状況を一変させました。「音楽を聴く行為そのものが変わった」と柴﨑さんは分析します。針を落として、曲を順番に聴く、というレコードに対して、CDは選曲も簡単。つまらない曲はすぐに飛ばされてしまいます。A面が終われば裏返してB面の曲を聴く、というレコードは面倒くさいものに映ったのは当然かもしれません。「曲の順序も含めた、アルバムという構成はレコードならではの味わいだったのではないでしょうか」と話します。柴﨑さんの分析は、サブスクリプションサービスの普及で、「好きな曲」を聞くのが当たり前になっている私たち大学生にとっては、新鮮な指摘に感じました。店には常連客に交じって若者も訪れ、レコードを買っていくそうです。

アルバムの魅力を語る柴﨑さん。狭い店内にはレコードがひしめく

 

音楽以外もすべてが魅力

 では、なぜ今、レコードの売り上げが伸びているのでしょうか。

 「好きなアーティストのジャケットを、大きく見たいんです!」。山形大学医学部2年の澤田隆宏さんは話します。「情報量の多さがレコードの魅力」と言います。

 レコードを聴くためには、再生する機械にもこだわりが。アルバイトでお金を貯め、大阪の電気街まで足を運び、納得のいくプレーヤーを購入するほどの入れ込みようです。「作られた時期によって、それぞれ個性もある。ジャケットや解説書、前の所有者の落書きなど、音楽以外も含めた情報も楽しめる」と語ります。

 自分で楽しむだけでなく、ジャズ喫茶やレコードカフェなど、「聴く場所」から得られる情報もレコードの魅力。「出会った人から自分の知らない音楽を学ぶことができる。ジャズ喫茶は僕にとっての学校です」と話してくれました。

渋谷の老舗レコード専門店「discland JARO」店内に入りきれない若者が列を作ったという

 

DJもデジタル時代

 レコードと言われて、まず思い浮かべるのは、DJがクラブでターンテーブルを回す光景かもしれません。残念ながら、そんな風景は少なくなっているようです。現代のDJはパソコンが主流。佐賀大学経済学部4年の吉田茉南さんは、佐賀県のクラブでDJとして活動しています。1万曲以上の楽曲データが入ったパソコンを駆使して、曲と曲を繋げていきます。「武器」は曲のデータを入れたUSBメモリーで済みます。それでも、「レコードを使ったDJは音質・音圧が違う」と吉田さんは話します。「レコードを選ぶ手さばきもカッコいい。社会人になったら、レコードを使ったDJにも挑戦したい」と意気込んでいます。

 11月3日の「レコードの日」に合わせ、様々なイベントが予定されています。また、東京都内でも、文京区の小石川図書館など、館内の視聴ブースでレコードを聴くことができる施設も増えています。どうしてもデジタルで音楽を聴くことに目が行きがちな私たち大学生。たまには、あえて、アナログで聴いてみませんか?

ジャケットも含め、すべてがレコードの魅力だ
(2020年10月31日 07:20)
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