地域に「おせっかいの輪」を ~ 豊島子どもWAKUWAKUネットワーク

 約3年間に及んだ新型コロナウィルスの流行は、社会に大きなダメージを与えました。中でも困難な状況で子育てを行う世帯や外国人家庭など、行政の支援が届きにくい世帯の生活は厳しさを増したといえます。そんな人たちをサポートする人たちの思いを、私が関わるNPO法人の現場で取材しました。(上智大学・津田凜太郎)

 

生活困窮者を支援

 

 「ありがとう!」「おいしそう」

 

 11月中旬、池袋駅から徒歩15分の公共施設「区民ひろば池袋」。列を作った人たちに、お米やレトルト食品などが次々と手渡されます。年齢も、ルーツも様々な人たちに、少しだけ笑顔が広がります。

 

 東京都豊島区で行われる「としまフードサポートプロジェクト」の現場は、和やかな雰囲気が特徴です。プロジェクトを展開する認定NPO法人 豊島子どもWAKUWAKUネットワークのボランティアと利用者たち。「子どもが高校生なのであっという間にお米がなくなってしまう」「1人で子育てしているので、レトルトがあると便利」。スタッフたちは、会話の中で生活状況をさりげなく聞き取り、困っていることはないか、注意を配ります。

 

 

 「食料を配るだけでなく、子育ての様子なども確認できる。地域の交流につながります」。理事長の栗林知絵子さんが話してくれました。配布されているのは寄付金を基に購入したお米や、趣旨に賛同する企業から寄せられた日用品などです。

 

 新型コロナウィルスが流行した2020年。孤立しがちなひとり親家庭や、外国人家庭の経済的・精神的負担を軽くしようと、食糧支援事業「としまフードサポートプロジェクト」は始まりました。活動を支えるのは150人を超えるボランティアです。2020年3月から始まり、月に約500~600世帯が利用しています。

 

 「外国人の子育て家庭を応援したい」。コロナ禍で、栗林さんの思いは一層強くなりました。豊島区に住む外国人の比率は8.5%で、全国平均の約2%を大きく上回ります。(2020年度)飲食や清掃などのサービス業に従事する人が多く、コロナ禍が生活を直撃しました。豊島区民社会福祉協議会のコミュニティーソーシャルワーカーも参加していて、困りごとを行政につなぐ窓口としても機能しています。

 

社会全体の問題

 

 「一言で言えばおせっかい」。自身の活動を、栗林さんはこう表現します。活動の原点は、2003年に地域の子どもたちの遊び場として誕生した「池袋本町プレーパーク」の運営でした。「焚き火、木登りなど、伸び伸び遊べる」がコンセプトの現場で、「毎日母親に、500円玉ひとつ渡され、夕食はコンビニで済ませている」という中学生に出会いました。夕食に招いたところ、返ってきたのは、「家族みんなで食べるなんて気持ち悪い」という言葉。家族一緒の食事や旅行も難しい子供がいる。「子どもの6人に1人が貧困」という、日本の「相対的貧困」の現実でした。

 

 「家庭環境だけの問題ではなく、社会全体の問題」と考えるようになった栗林さん。「地域で子どもを見守り、育てる」ことを目的に、2012年、「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」を設立しました。子育ては親だけの問題ではない、おせっかいでも、地域の大人みんなで育てようという思いが形になったのです。

 

 

 4か所の「子ども食堂」や「無料学習支援」、ひとり親家庭のための住居探しのサポートなど、WAKUWAKUのサポートは多肢に渡ります。世界的な物価高騰の中で迎える春。高校進学を控える家庭では、制服や教材などでまとまったお金が必要です。そんな家庭には「WAKUWAKU入学応援給付金」を手渡しします。昨年は46人の新高校1年生に配ることができました。「困っている人がいたら、ほっとけないでしょ」と栗林さん。これからも「おせっかい」は続きます。

 


栗林 知絵子 (くりばやし ちえこ)
認定NPO法人 豊島子どもWAKUWAKUネットワーク理事長。2004年、池袋本町プレーパークの運営に携わったことをきっかけに地域活動を始める。2012年、地域の子どもを地域で見守り育てるために、仲間とともに同NPO法人を設立した。「WAKUWAKU」では、給付金の原資となる寄付を受け付けている。詳しくはこちら

 

(2024年1月19日 00:07)
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