「おうち時間」は手軽に読書 ~Web小説サイトは活字の入り口

「おうち時間」読書の形はいろいろある

 

 「おうち時間で読書の時間が増えた」。コロナ禍、こんなニュースを耳にしました。一方で同世代からは、外出が減って「本を買うきっかけが減った」という人や、「書店に行っても、どの本が面白いのかがわからない」という声も聞かれます。そんな若者の間で注目を集めているのが、スマホ一つで簡単に楽しめる「Web小説サイト」。その世界を取材しました。(法政大学・芹澤琴音)

 

スマホで気軽に執筆・応募!

 「ボタン一つで手軽に作品を応募できるのが魅力」と話すのは、現在大学3年生の海乃(うみの)くらげさんです。小学3年生の頃から小説を書いていた、という海乃さん。中学1年生の夏に初めての掌編で公募にチャレンジしました。その後も様々な公募を探しては作品を応募していましたが、「原稿を整えたり、作品を郵送したりするのが大変」と感じていました。そんな中、初めて持ったスマートフォンを通じて高校1年生の春に出会ったのが、Web小説サイトの世界でした。サイト上で行われた企画に応募した『制服のリボンをといて、』という作品で、Web小説サイトにデビューしました。

 

 Web小説サイトに小説を投稿する際には審査はありませんが、自分で年齢制限などのタグをつけることが出来ます。

 

 もともと通学時間やバイトの行き帰りを使って作品を書きためていたという海乃さん。現在は、3つのサイトを使い分けながら、30以上の作品を公開しています。作品を発表し続けています。1000人以上のフォロワーを持つ作家もいる小説サイトの世界。海乃さんは多いサイトでもまだ40人程度。それでも、書き始めたばかりの頃は数件程度だったリアクションが、「monogatary」というサイトで5月4日に始めた最新の連載「きみはスカイで、ライトで、ちょっとブルー」には1週間で16件のリアクションがつくなど、手ごたえも感じています。「本を手に取るのが億劫でも、数多くの作品が投稿されているWeb小説サイトには、自分の読みやすい作品があるはず。気軽にのぞいてみてほしい」と話してくれました。

 

ネットだからこそ文字数制限

 「読書へのハードルを下げて、手軽に作品を読める環境を作りたい」。Web小説サイト「Prologue」の運営を担当する釜形勇気さんが話してくれました。今年2月11日にスタートしたサイトには、4月10日までの2か月で約2万2000人が訪れました。「Prologue」の特徴は、あえて上限を2000字に絞っているところ。文字数制限が無いネットの世界、他のサイトでは、10万字を越える長編小説から500文字程度の掌編まで、幅広い作品が投稿されています。活字に親しみがないと言われる若い世代。「本一冊読むのにはかなりの時間がかかる。読書に抵抗を減らしたい」と釜形さんは力を込めます。キーワードは「5分で読める」こと。「投稿しても、字数が多いと読まれない。まずは掌編を通して文体や世界観を見て、好きな書き手を見つけてほしい」。作家を育てるのは「ファン」の存在。あえて文字数制限を設けているのも、「作品との出会い」というきっかけづくりを促すためだそうです。

Web小説サイト「Prologue」。読みやすさを大切にし、あえて文字数を絞っている=Prologue提供

 

ファンと励まし合う

 人とのつながりが少なくなっている「おうち時間」。読者としても、小説家としてもサイトを利用している桜樹璃音(さくらぎりおん)さんは、Web小説サイトの魅力を「他の書き手や読み手と繋がれること」といいます。サイト内のメッセージ機能を使って、他の小説家の作品にコメントを送りあったり、読者とコミュニケーションをとったりしています。コンテストに参加すれば、自分の作品が評価されずに落ち込むこともありますが、ほかの小説家とも励まし合いながら乗り越えています。「受験生のクラスのようなもの」と話してくれました。

 

 私自身は紙の本を買うことの方が多いですが、周囲には全く本を読まない、という大学生も少なくありません。発表の場としてだけではなく、読者と作家の交流の場にもなっているWeb小説サイト。海乃さんは、サイトを使うようになってから、作品を書くスピードが飛躍的に伸びたそうです。「追いかけたい背中が見えると、自然とやる気が湧いてくる」と言います。読者の側も、作家本人から作品の裏話を聞けたり、身近に感じながら、自然と作家を応援する気持ちが湧いてきます。「活字離れ」と言われる私たち大学生。Web小説サイトが、若い世代と活字の世界をつなぐきっかけになってほしいと思います。

 



(2021年5月11日 12:39)
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