「英語は嫌だ」「英語は難しい」。アルバイトをしている学習塾で、そんな子どもたちの声をよく耳にします。近年、日本の英語教育では、読解や文法を中心としたカリキュラムから、「読む」「話す」「聞く」「書く」の「4技能」の網羅的な学習への移行が進められてきました。この、「4技能重視」の流れは本当に子どもたちのためになっているのか、英語学習に関する著書があり、私の大学でも英語を教えている北村一真・杏林大学准教授に話を聞きました。(中央大学・大関亮太)
北村一真(きたむら・かずま)
1982年、兵庫県生まれ。慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得満期退学。学生時代に大学受験塾にて英語講座を担当。滋賀大学などの非常勤講師を経て杏林大学外国語学部助教。 2015年より同大学准教授、中央大学法学部兼任講師。「英文解体新書」「英文解体新書2」(研究社)、「英語の読み方」(中公新書)、「知識と文脈で深める 上級英単語ロゴフィリア」(アスク出版)など、英語学習に関する著書多数。
進む「二極化」
――現在の子供たちの英語力に格差は感じますか?
そうですね。私は小中高で英語を教えているわけではないですが、周りの先生方の声を聞いていると、できる子とできない子が二極化してきているように感じます。
――格差の拡大にある背景は何であるとお考えですか?
我々の時代と違って、今の子たちは小学生から英語を学ぶようになり、本人の努力次第では、簡単な英文も小学校から読めるようになっています。一方、あまり英語の勉強をしてこなかった、あるいは苦手意識を持ってしまった子は伸び悩んでいるのではないでしょうか。英語学習の早期化によって、子どもの学習環境による差がつきやすくなっているのだと思います。
――「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能すべてバランスよく使いこなせる人材を育てよう、という現在の教育方針について、どうお考えですか。
この流れ自体を否定する気はない、と前置きした上で話しますが、文法や長文読解の問題を中心に勉強してきた上の世代は、しっかりとした「読む力」が土台になっていたと思います。文法だけしか学んでこなかったため、簡単な日常会話も話せないというような例はあったにしても、読むことを重視した教育を否定するのではなく、「読むこと」を武器に、「聞く」「話す」「書く」の3技能を伸ばしていく方が、日本の教育には合っているのではないでしょうか。
子どもたちのため、改革を急がないで
――「読む力」は、日本語を学ぶ上でも大切になってきますよね。
文法や読解を中心としながら英語に触れることによって、日本語という言葉を反芻し、俯瞰できたという利点もありました。英語学習が、母語である日本語の能力を補完する側面もあったと言えます。英語と日本語は文の構造が大きく異なります。レポートや論文、会社の報告書等、論理的で具体的な文章を書くには英語の構造の方が向いている部分もあります。国語が出来なければ、英語はもちろんですが、数学や理科などの他教科の勉強にも支障が出ます。そういった点を踏まえても、「読む力」を決して軽視することはできないでしょう。
――では、英語教育の改革は時期尚早であったと?
先程も言った通り、この方針がダメだとは思いません。しかし、改革をあまり急ぎ過ぎず、何より子どもたちの声に耳を傾けながら、少しずつ進めていくことが必要なのではないでしょうか。
ありがとうございました。
「知識と文脈で深める 上級英単語ロゴフィリア」(アスク出版)
~「受験英語」の一つ上に~ 北村さんと八島純・専修大学准教授との共著「知識と文脈で深める 上級英単語ロゴフィリア」が2022年4月に出版されました。大学受験レベルの語彙力では、海外メディアの情報を直接収集するのにかなり苦戦を強いられます。受験よりさらにもう一つ上のレベルを目指している人にとってピッタリです。また、最新の話題に関する記事や作品が中心なので、「生」の英語を肌で感じることが出来ました。