「あなたのいばしょ」つくりたい〜24時間相談チャット~

「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さん

 今、あなたは何かに悩んでいたり、困っていたりはしていませんか----?

「自分だけの悩み」は親しい人にもなかなか話せず、自分の中で抱えきれなくなってしまうこともある。「あなたのいばしょ 相談チャット」は、24時間365日、誰でも匿名かつ無料でチャット相談ができる、というサービスだ。事業を手がける特定非営利活動法人(NPO)「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さんに話を聞いた。(慶応義塾大学・吉野彩夏)

 

広がる「望まない孤独」

 

 自身も複雑な家庭環境で育ったという大空さん。NPOを立ち上げたのは大学在学時の2020年3月のことだった。「あなたのいばしょ」が目指すのは、「社会的孤独」をなくすこと。コロナ下、話したくても話せない、頼りたくても頼れないといった「望まない孤独」が広がっている。

 

 大空さんによると、家族やコミュニティとほとんど接点がない「社会的孤立」は客観的な状態。それに対して、「望まない孤独」は、ふだん接している相手にも本音が言えない、といったように、本人が孤独感を感じている「主観的」な状態を差すという。周囲の人からみても分かりづらいことから、様々な問題が生じている。大空さんは、「周囲からは相談できるはず、と思われているので、問題が複雑化する」と指摘する。

 

 DV被害者の約半数は「どこにも相談しなかった」と回答しているという調査があるほか、自殺は全世代で減少傾向にある中、10代は増加しているという調査もある。電話相談ダイヤルなどの既存のサービスもあるが、「知らない人と電話で話す」という行為は、若者の生活習慣からは遠くなってしまっているのも事実だ。「若者が相談できず、悩みを抱え続けてしまっている」と大空さんは訴える。

 

マンパワーに課題

 

 「気軽に相談できるように」と始めたチャット相談サービス。2022年3月までに寄せられた相談は約28万件にのぼる。25カ国・約600人のボランティアが対応し、緊急性の高いものは専門資格を持つ職員が対応しているが、運営にも難点があるという。

 

 まず、相談窓口が逼迫していること。チャットに寄せられる相談は1日約1000件にものぼるが、対応できる人員が足りないのが実情だ。相談員を希望する人も少しずつ増えているが、採用や育成にもマンパワーがかかる。ボランティアとはいえ、質の維持のためには厳しい研修も必要で、育成に時間がかかる。上記にあてる資金の安定的な確保も課題だという。

 

 「相談を受ける側にも心の余裕が大切。そうして初めて他者に手を差し伸べることができる」と大空さん。周囲に助けを求めていたり、思い詰めていたりする人がいたら、「自分が持つ心の余裕分だけでいいので、アクションを起こしてほしい」という。その1人1人の行動が、社会を変えていく力になる。

 

 みんなの居場所に少しずつ余裕ができれば、悩んでいる「あなた」の居場所もできるはず。ウィズコロナの生き辛い日常を変えるのは、そんな我々の行動にかかっている。

 

(2022年10月30日 10:00)
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