映画作りを止めるな!~コロナ禍 つながった全国のサークル

オンラインで行われた他大学との会議

 

 コロナ禍により、異例づくしとなった2020年度がもうすぐ終わろうとしています。せっかく入学した大学にほとんど行くことができなった1年生、就職活動が様々な制約を受けた4年生──。サークル活動も、大打撃を受けました。そんな日々に負けまいと、「映画」を通じて全国の仲間と協力し、一つの作品を作り上げた大学生たちがいます。全国の約100大学の120団体から学生監督180人、スタッフ・キャスト総勢500名以上が参加したオムニバス長編映画「突然失礼致します!」がこのほど完成しました。コロナ禍だって、大学生活を止めることはない。そんな関係者の熱い思いを取材しました。(中央大学・佐藤菜々子)

 

「突然失礼致します!」

 映画を企画したのは、群馬大学4年の熊谷宏彰さん(社会情報学部)。2019年秋に映画部を設立し、部長として作品づくりに取り組もうと準備をしていたところに、コロナ禍が襲いました。授業はオンラインに切り替わり、学内に入ることもできません。「他の大学はどうやって活動しているのだろうか」。2020年4月、SNSで全国の大学で映画作りに取り組む大学生たちに送ったのが、映画のタイトルにもなった「突然失礼致します」というメッセージでした。

 「撮りたくても撮れない」「密を避けるために集まれない」──。北海道から沖縄まで、多くの大学生とSNSやオンラインでつながる中で、様々な思いを知ることができました。全国の団体に呼び掛けて、オムニバス映画を作る、というアイデアが熊谷さんの中で膨らんでいきました。

 「『希望』を共通テーマに、長編オムニバスを作ろう」。総監督として、呼びかけを始めた熊谷さんの思いに、全国の仲間が応えました。制作の条件は、3密を避けた屋内での撮影、1分以内。「スマホでも、気軽に撮影に参加できる」。SFや時代劇、アニメなど、様々なジャンルの作品が120団体から集まりました。

 

あえて稽古しない

 「撮影日に全力を注ぐのもありだと思った」。東京大学のサークル「映画製作スピカ1895」所属で、作中の「明日になって死ね」を手掛けた中畑智さんが話してくれました。キャストに、作品の意図はあらかじめ伝えましたが、あえて稽古は行わず、撮影日のみ具体的な指示を出したと言います。「密」を避けた撮影という条件でも、そのスタイルを貫きました。希望とは反対の「死」を題材にしたのも、危機を逆手に取った「逆転の発想」と言えるのかもしれません。

 「失ったものもあったが、コロナだったからこの映画制作に熱中することができた」。オープニングとエンディングアニメーション制作に携わった山口健人さん(九州大学芸術工学部映像制作サークルBUGPROJECT)も熱く語ります。サークル内にはアニメーション未経験者も多かったそうですが、コロナ禍で簡単には集まれません。自然と山口さんに仕事が集中することになりました。それでも、デザインを分担するなど、力を合わせました。1秒間に最低でも12枚の原画が必要で、シーンによっては24枚を費やすことも。1秒間を作るために6時間をかけたこともあったそうです。「新型コロナには悪い面しかないかもしれないが、ある意味では自然の一部。『神』の存在になぞらえて、一種の尊敬をも表現した」と振り返ります。多くの大学生たちの思いが集まって、一本の大作が完成したのです。

 

クラウドファンディングで上映資金

 作品が完成したのは2020年8月。「ユーチューブ」で公開し、劇場公開に向けた資金をクラウドファンディングで募ったところ、目標の40万円を大幅に上回るおよそ110万円の資金が集まり、今年1月に、広島県や群馬県で特別試写会を行うことができました。3月には東京と広島で試写会が行われる予定です。

 再び緊急事態宣言が出されるなど、まだまだ大学生活は思うようにいきませせん。それでも、危機を逆手に取り、活動を広げる大学生の仲間たち。この作品を見て、少しでも前を向く勇気をもらいたい、と思います。

映画「突然失礼致します!」

「コロナ禍でも創作活動の火を絶やさないとの思い」から、全国の大学生がタッグを組んで制作。作品テーマは「希望」。2020年9月から2か月間限定で行なったWeb公開では、総再生数が2万5000回を突破した。劇場では、180作品の中から厳選された66本を上映する。2021年1月に高崎電気館(群馬県高崎市)で初上映。東京のアテネ・フランセ文化センター(千代田区)、広島県福山市の福山駅前シネマモードで上映される。

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(2021年3月23日 13:27)
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