関東大震災の記録をデジタルアーカイブに ~ 東京大学大学院の院生たち

渡邉英徳教授(左から2人目)と関東大震災のデジタルアーカイブ化について話し合う院生たち

 関東大震災から100年になります。東京都台東区の国立科学博物館では、あの日と同じ9月1日から企画展「震災からのあゆみ~未来へつなげる科学技術」が始まります。10万人超が犠牲になった震災の教訓を未来にどう伝えるのか。大学院生の取り組みを取材しました。(早稲田大学 朴珠嬉、写真も)

 

100年前の被災状況を最新技術で実感

 企画展まで二か月を切った7月のある日、東京大学大学院の研究室には、情報デザインが専門の渡邉英徳教授とプロジェクトチーム(PT)の院生4人が集まりました。「火災の広がりを再現するのが難しい」「昔の地図に今の航空写真を重ねるとリアルに伝わる」――パソコン画面を囲んで知恵を出し合います。

 

 PTが目指すのは震災記録のデジタルアーカイブ化です。当時の様子は火災状況を記した地図、写真、市民の手記など、様々な形で残されています。院生の浜津すみれさんは「こうした情報をデジタル技術で1枚の地図に落とし込めば被災状況を実感できる」と考えています。

 

渡邉英徳教授はウクライナのデジタルアーカイブ作成にも取り組んでいる


 震災からの復興にも注目しています。同じく院生の金甫榮さんは「企業の社史からは震災後1年でかなり復興が進んでいることがわかり、参考になる」と言います。

 


 震災記録のデジタルアーカイブ化について渡邉教授は「いつか来る次の震災への備えがより現実的になる。100年前の過去と現在、そして未来をつなげて考えるきっかけになる」と話してくれました。 企画展は11月26日まで開かれています。

 

「地図」や「書籍」~ 歴史上の「点」を現在につなげる

 

 渡邉教授と研究室の院生による関東大震災のデジタルアーカイブ作成は、100年前の過去と現在、そして未来をつなぐ取り組みです。国立科学博物館の企画展「震災からのあゆみ」に向け、どのようなことを重視したのでしょうか。


 渡邉英徳教授「企画展では大型ディスプレイで上映し、ウェブで公開するコンテンツを作ることになりました。私ひとりでは大変なので、院生に声を掛けました。それぞれ異なるテーマに取り組んでいますが、『地図』や『過去』といったものへの関心は共通しています」


 「昔の白黒の地図や書籍などは歴史上の点に過ぎません。私たちが生きている今の時代の地図に重ねたり、カラー化したりすることで、過去と現在のつながりを理解できます」

 

研究室にあるパネルを前にインタビューに答える渡邉英徳教授


 浜津すみれさん「震災当時に書かれた手記がありました。こうした情報を写真などと一緒に地図に落とし込むことで、当時の人たちが見た風景を私たちも見ることができます」


 甫榮さん「手記は貴重な一次資料です。デジタルと融合し、その内容を可視化することに意義があります」


 曹好さん「当時の情報を今の地図に落とし込むと、実際に自分が知っている場所が、どのような被害を受けたのかがわかる。100年前と今との距離感が縮まります」


 浜津さん「火元から船で逃げたら、燃えさかる別の船が近づいてくる。何とか逃げ切ったと安心していると、今度は食べるものに困った。こうした手記を読むと『自分ならどうする』と悩んでしまいます」


 山口温大さん「今いる場所でこんなことが起きたという歴史のつながりを意識してほしい」


 金さん「企業の社史を読むと関東大震災に関する記述があります。被災しても1年後にはかなり復興しています。経済の立て直しが迅速に進んだことも知ってほしい。あれだけの被害を受けても負けない力を感じる。企画展を通じて『震災に負けない』というメッセージを伝えたい」


 渡邉教授「100年前の人たちが震災にどう立ち向かったのかということを振り返っておくと、次に起きた時の処し方の参考になります。アーカイブは昔の出来事を記録するだけでなく、未来の役に立つ。災害の多い国だけに本当に大切なことだと思います。未来につながるだけに、これからの若い人たちに取り組んでほしいと思っています」

 

(2023年8月 9日 11:00)
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