不登校でも多様な進路を ~ 高校中退経て進学塾

 学校に行っても、行かなくてもいい、多様な選択肢が少しずつ認められるようになってきました。自身も不登校、高校中退の経験者で、不登校の生徒向けの進学塾を運営する渡邉匠さんに、話を聞きました。(法政大学・鈴木さりな、写真は渡邉さん提供)

 

夜中まで勉強しても

 

 「きょうも学校に行けない」。

 

 このままではどうにもならないことは分かっているけれど、どうして良いのか分からない。2017年に入学した山梨県の進学校に通っていた渡邉さんは、「夜中まで勉強しても課題が終わらないような厳しい環境」という毎日で、次第に生活リズムを崩していきました。とうとう、朝起きられず学校に行けなくなったことをきっかけに、退学を決意します。高校1年生のことでした。

 

 「田舎だったこともあって、学校の価値観が全て。絶望しかなかった」と振り返ります。布団から出ることもできず、自室に引きこもる毎日。そんな渡邉さんを救ってくれたのは、中学生時代から通っていた塾や、退学した高校の先生たちでした。

 

 「会いたくない」といっても諦めずに足を運んでくれる姿に、渡邉さんの中に、「ここで終わってはいけない」という気持ちが生まれました。独学での受験勉強を経て、17歳で公立高校に再入学。19歳の時に、京都大学総合人間学部に合格を果たしたのでした。
 

 

「学校に通う意味がわからない」

 

 「ようやく元のレールに戻れた」。大学に通いながら始めた家庭教師のアルバイト。ある日、担当したある生徒の言葉にはっとさせられました。

 

 「学校に通う意味がわからない」。

 かつての渡邉さん自身を思い起こさせるような言葉。「メンタル面の不調で、本来持っているはずの力を発揮できていない生徒が多いのではないか」。自身の経験を積極的にブログでも発信するようになりました。

 

 「先生に出会えて本当に良かった」。

 

 大学に合格した生徒からの感謝の言葉が、不登校の生徒専門の進学塾「re:plus」の原動力になりました。3年生だった2021年に立ち上げた「re:plus」の講師は、渡邉さんのように不登校を経験した大学生たちです。同じ悩みを抱えた経験があるからこそ、生徒たちの心に寄り添い、もう一度目標を立てるためのサポート役になることができるのです。

 

 

 「生徒たちが変わったな、と感じる瞬間にやりがいを感じる」と話す渡邉さん。自身が経験したような「どん底」から、もう一度目標を立てて努力することも人生には必要だと考えています。2023年に大学を卒業し、一度は大手メーカーに就職した渡邉さんでしたが、現在は2025年の医学部への入学を目指して勉強を続けています。「re:plus」で、体調やメンタルが原因で実力を発揮できない生徒たちと関わる中で、「体や心、進路を包括的にサポートしたい」と考えるようになったからです。

 

 「せっかく戻ったレールを、まさか5年後に捨て去るとは」と笑う渡邉さんが目指す未来は、「みんなが安心して不登校になれる世の中」です。「re:plus」のような塾が選択肢の一つになるような、「レールから外れても大丈夫」と感じられるような社会――。私自身、受験生として悩んでいた時に、渡邉さんのブログに励まされた一人です。「意思あるところに道は開ける」。もがき苦しみながらも努力を続け、高校生を支え続ける渡邉さんの姿に、改めて勇気をもらいました。

 

 渡邉匠(わたなべ・たくみ) 京大生の不登校専門進学塾「re:plus」代表。1998年、山梨県生まれ。不登校、高校中退、引きこもりを経験し、高卒認定試験を経て独学で京都大学総合人間学部に合格。卒業後はメーカーに勤務した後、小児科・小児精神科医になるため医学部を目指している。

 

 

(2024年3月26日 09:00)
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