ファッション小売の「OIOI(マルイ)」などで私たち大学生にもなじみの深い「丸井グループ」。ステークホルダーの一つとして子どもたちや未来の世代を意味する「将来世代」を掲げ、大学生とコラボした新規事業創出プログラムなども展開しています。これから社会に出る大学生として、SDGs達成のためにどのような働き方ができるのか、取材しました。(法政大学・市川拓樹、淑徳大学・丹野美緒)
丸井グループ
首都圏を中心にファッションビル業態の商業施設を運営する「小売」と、エポスカードやつみたて投資などの「フィンテック」の一体運営を行っている。2016年に「インクルージョン(包摂)」視点で4つの重点テーマを定め、サステナブル(持続可能)な事業展開を図っている。
多様性を尊重
----丸井グループの重点テーマを教えてください。
お客さま・社員・環境・すべてのステークホルダーに対する4つのインクルージョン(多様性の尊重)です。
一つ目は、「お客さまのダイバーシティ&インクルージョン」です。年齢・性別・身体的特徴を超えて喜んでいただける商品・サービス・店舗のあり方を追求しています。車いすでもストレスの少ないユニバーサルデザインを取り入れた店づくり(博多マルイなど)のほか、商品では、サイズ展開の拡大により、これまで対応できなかった足サイズのお客さまのニーズもかなえた「ラクチンきれいシューズ」の開発など、インクルーシブなモノづくりを推進しています。
二つ目は、「ワーキング・インクルージョン」です。「お客さまのために進化し続ける」「人の成長=企業の成長」という考えのもと、一人ひとりにとっての活躍の場を提供していきます。
三つ目は、「エコロジカル・インクルージョン」です。自然と環境の調和を図るライフスタイルを提案しています。先ほど挙げた「ラクチンきれいシューズ」の体験ストアを、マルイ店舗がない地域の商業施設で短期出店しました。サンプルを自由に試していただくという、「体験」に特化したショップで、購入の場合は、店頭の専用タブレット端末やアプリで注文し、商品をご自宅へ無料配送するシステムとしました。実際に試着をしていただくことによって返品率が減少し、利便性と環境負荷低減を両立したサービスにできました。
四つ目は、「共創経営のガバナンス」です。丸井グループは、企業価値を「すべてのステークホルダーの利益としあわせの調和と拡大」であると考えています。2050年を見据えた長期ビジョンを定めるにあたり、これまでの5つのステークホルダー(お客さま、お取引先さま、株主・投資家、社員、地域社会)の輪の中に「将来世代」を加え、6つのステークホルダーとしました。将来世代との共創では、社会課題を解決できる人材の輩出に力を入れている小学校の生徒さんと丸井グループの社員が対話して、将来世代のアイディアを聞く機会をつくるなど、将来世代との共創を進めています。
将来世代もステークホルダー
----サステナビリティに関する方針を社員の方に浸透させるため、どのような工夫をしていますか。
統合報告書である「共創経営レポート」や、「共創サステナビリティレポート」というグループが取り組むサステナビリティを取り上げた冊子を、全社員に配布しています。全員が共通の意識を持つ上でも欠かせないものですし、外部にも公開しています。
----「ワーキング・インクルージョン」で、どのような変化がありましたか。
「手挙げ」と「グループ間職種変更異動」の取り組みを行っています。「手挙げ」文化によって、かつてはマネジャーだけが参加していた会議に新入社員でも参加できるようになりました。若い社員の意見が増え、ダイバーシティやインクルージョンの促進につながっています。丸井グループには、「小売」の商業施設や物流、「フィンテック」のエポスカードなど、様々な業種・職種があります。「グループ間での異動」(職変率)は2022年3月時点で70%超です。異動によって「成長した」と実感している社員は80%にも上ります。一人ひとりが多様な事業を経験することで、変化への対応力を高めれば、イノベーションの創出にもつながります。
----サステナビリティの実現に向けて、ステークホルダーの理解を得るためにどういったことを心掛けていますか。
丸井グループには6つのステークホルダー(お客さま、お取引先さま、株主・投資家、社員、地域社会、将来世代)がいます。
お客さまとは、来店やご利用を通じてグループの取り組みを知っていただいたり、共感していただくきっかけづくりを目指しています。お取引先さまに対しては、コロナ下でのテナント料の減免など、パートナーシップを強化する取り組みを行いました。また、投資家とも定期的に対話の機会をつくり、理解を得られるよう取り組んできました。
また、将来世代をステークホルダーに入れているのが丸井グループの特徴です。将来世代が自ら参加できる「Future Accelerator Gateway」(将来世代のアイディアを活用した新規事業創出)では、参加した学生の皆さんと丸井グループ社員が一緒に未来に向けた新規事業を創り上げています。
ステークホルダーに対して、グループが掲げるミッションやビジョン、将来世代とともに課題解決に取り組みたいという意思を積極的に開示しています。共感していただいた方と力を合わせるそのためにも、「情報開示」が重要だと考えています。
----将来世代に伝えたいことは何でしょうか。
一緒に社会課題の解決を進めていきたいと思っています。「やらされる」のではなく、理念に共感して、「自らやっていく」ことを広めていきたいと思います。トライ&エラーも重要です。将来世代の意見を聞きつつ、仮説をもってトライをして、違っていたら改善していく、というサイクルを繰り返すことで、幅広い事業につなげていきたいと考えています。
【取材を終えて】
サステナブルな社会の実現を目指して多くのことを取り組んでいる点が魅力的でした。グループの活動方針に共感する就活生が多いという話にもうなずかされます。そんな社会でサステナビリティを目指すフロントランナーとしての思いを強く感じました。(市川)
消費者がサステナブルな事業を行っている企業のサービスを選択することで、サステナブルな循環が生まれるのだと感じました。「顧客」や「将来世代」として、丸井グループの事業を共創し、よい循環に関わっていきたいと思いました。(丹野)
小泉昭夫(こいずみ・あきお)株式会社丸井グループ サステナビリティ部 サステナビリティ担当 チーフリーダー。1998年入社。店舗での販売を始め、雑貨などのバイヤーを歴任し、2019年、丸井グループサステナビリティ部に配属。ファッションアイテムの下取り・リユース事業のほかダイバーシティ&インクルージョンを担当