写真を通じて国際紛争分析 鴎友学園女子中高(上)

 写真を通して国際紛争について調べてみよう――。東京都世田谷区の鴎友学園女子中学高等学校(吉野明校長、生徒数1495人)で2月、読売新聞教育ネットワークの出前授業が行われた。生徒たちは1か月かけて旧ユーゴ紛争を題材に、戦争と報道について学んだ。

(3月5日付け読売新聞朝刊にも掲載)



 中学3年から高校2年の28人が参加したのは、読売新聞の出前授業「写真が語る国際紛争~新聞協会賞記者が見たボスニア・コソボ最前線」。1999年、旧ユーゴ・コソボ紛争に特派された秋元和夫記者らが撮った写真が教材で、民族対立に翻弄される市民たちの姿を学校側と事前に選んだ。

 8グループに分かれた生徒たちは新聞や書籍を使い写真の背景を調べ、それぞれの切り口で発表。発表後には秋元記者と、同時期にジュネーブの国連欧州本部で取材していた佐藤伸記者の講義を受けた。


■国会図書館を活用

 険しい山岳地帯を超え、着の身着のまま隣国アルバニアに逃れる家族、大雨のなか食料配給に並ぶ難民たち――。「コソボ紛争下の民族純化」というテーマの組写真に取り組んだのは鄭那奈さんら高校2年の3人だ。

 歴史と地理、あらゆる側面から調べようと、学校の入試休暇を利用して3人は国立国会図書館を訪れた。半日かけて資料を集め、さらに場所を変えて5時間の勉強会を行った。

 ところが、「理解は深まったけれど、ここには私たちの意見がない」。壁にぶつかった彼女たちが出した結論は、「知識を披露するのではなく、高校生らしい目線で発表しよう」。

 翌日も3人は集まった。議論を進めては何回も振り出しに戻り、「無理かも」と弱音も漏れた。だが、最後には、民族間に生じる激しい敵対心を日常生活に潜む「線引き」として分かりやすく説明するアイデアが見つかった。

 発表では、学年対抗で行われる運動会を例に、「ふだん尊敬する先輩たちに敵対心を抱くのは、目に見えない線を引かれたから」と指摘。この線引きを戦争に置き換えて、「いったん敵、味方に線引きされてしまうと、戦う意志がない人まで紛争に巻き込まれてしまう」と分析した。


準備のようす
発表1週間前に行われたプレゼンテーション練習会で、手作りの地図を準備する生徒たち

■市民にクローズアップ、少女の物語を劇に

 藤井春乃さんら高校2年グループ4人は、複数の図書館に通い、サラエボ包囲網の写真をテーマに、少女の物語を劇に作り上げた。

 「戦禍に巻き込まれた人々をクローズアップしたいという思いが強かった。朗読や詩も考えたけれど、最後は劇で一致しました」とメンバーの新井海聖さん。参考になる本をリサーチしたところ、サラエボ包囲を綴った少女の日記が出版されていることを知った。

 しかし、目当ての本は区外の離れた図書館にしかなく、しかも貸し出し禁止の閉架図書だった。

 「諦めるわけにはいかない」と照井菜々子さんと塩野莉奈さんが所蔵図書館に向かった。日記は照井さん、それ以外の書籍は塩野さんが分担し、重要と思われるページを懸命に写した。4人は最終的には9冊の本を読み込み、台本を練った。

 そんな彼女たちは、多民族間の経済格差や紛争の経緯を織り交ぜながら、少女の心を通じて戦争の理不尽さ、民族対話の必要性を訴えた。


■日本新聞博物館で読み比べ

 「記事データベースで調べよう」。高校2年の金坂美咲さんらは日本新聞博物館(横浜)で、国連コソボ和平決議を調べた。

 テーマとなった写真は、コソボの首都に一番乗りしたロシア軍を歓迎するセルビア系住民や、国連平和維持部隊に歓喜するアルバニア系住民。

 各民族と大国との関係の理解が欠かせないため、4人は決議採択の前後3日間の主要紙の記事を調べ、それぞれの写真の政治的背景を正確に説明した。

 生徒たちの取り組みを見守った村上奈麻子教諭は「教材の写真を配った瞬間から、生徒たちはやる気満々。サポートするつもりだったが、全てを生徒に任すことにした」と明かす。さらに、「点と点を線にできればと期待していたが、線を面にして俯瞰(ふかん)するグループもあった」と驚きを隠さない。



(次回は3月9日に掲載します)

(2015年3月 5日 05:30)
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