高校生がドイツの事例をもとに地域へ提言

提言を発表する高校生たち

 東京五輪・パラリンピックの参加国・地域と国内のホストタウン自治体の交流活動を報告する「ホストタウンサミット2021」(政府主催)が2月20日と21日、オンライン形式で開かれ、約100の自治体が参加した。この中で、ドイツのホストタウンになった五つの自治体の高校生が、ドイツの関係者へのインタビューをもとにまとめた提言を発表し、スポーツを通じた「共生社会の実現」「地域活性化」を訴えた。

 

自宅や学校から「出演」

 提言したのは、山形県鶴岡市、同県東根市、岡山県真庭市、長崎県島原市、宮崎県延岡市の各市で選ばれた高校生12人。慶応大学法学部の三瓶(さんべ)慎一教授とドイツ語インテンシブコースの学生7人のサポートを受けながら、3か月にわたって関係者に取材したり、資料を集めたりして、自分たちの住む地域に向けてアピールする内容をまとめた。

 5市の高校生の発表は、サイトでライブ中継された。高校生は、テーマとして設定した「共生社会の実現」と「地域活性化」の2班に分かれて、自宅や学校からパソコンを通じて発表した。それぞれの地元の市役所では、市長や担当者たちがオンライン会議システムで発表を見守った。

 「共生社会」をテーマに選んだ班は、「障がい者や外国人など社会的マイノリティーが主体的に地域活動に参加する機会が不足している」などと分析。学校で使う副教材の発行や、応対する専用スタッフの育成、学校の部活動と連携した地域スポーツコミュニティーの整備といった具体策を提示した。

>>「共生社会の実現」発表用スライド(PDF)

 

 「地域活性化」の班は、地方から都市部への若者の流出が止まらない現状について、「郷土愛が低下している」と指摘。世代間交流が生まれる施設の整備や、子供を対象に家族で楽しめる地域イベントの開催、高校生とスポーツ団体の相互交流などを推進するよう求めた。

>>「地域活性化」発表用スライド(PDF)

スライドを提示しながら交代で発表する高校生

 

市長ら「実践に向けて動きたい」

提言について感想を語る勝野統括官

 提言を受けた市長や教育長、総務部長からは、「ドイツの実例がわかりやすく、参考になる」「市民や市議会に報告する」「実践に向けて動きたい」などと感想が寄せられた。

 視聴していた在日ドイツ大使館のホーボルト・幸夫広報文化専門官は、「好きな日本語は『縁がある』。コロナが終わった後、ぜひともドイツに行って、自分の目で見てほしい」と話しかけた。

 ライブ中継の配信会場で視聴した内閣官房オリンピック・パラリンピック推進本部事務局の勝野美江企画・推進統括官は、「ドイツでいいなと思ったことを地域の中でそしゃくして提言していただき、本当に論理的だった。ぜひ、皆さん、実践につなげてほしい。各市の首長も、高校生の提言を生かしてほしい」と話した。

 

オンラインで連絡、取材、提言作成

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、高校生ら総勢20人が同じ場所に集まることはできない。このため、提言発表までの連絡、打ち合わせ、取材の大半がオンラインやメールで行われた。

 昨年12月11日、パソコンの画面越しに初顔合わせした高校生と大学生は、「好きな食べ物はラーメンです」などと自己紹介し合った。三瓶教授は、ドイツの地理、気候、歴史を解説し、「一緒に頑張りましょう」と呼びかけた。

 高校生は、「共生社会の実現」と「地域活性化」のテーマ別に6人ずつ2班に分かれた。それぞれ地元の市役所、国際交流団体、スポーツクラブなどの担当者から話を聞いた。

 年明けの1月からは、国内外の関係者にオンラインで共同インタビューを重ねた。

 取材に応じてくれたサッカーの林晃大(こうだい)選手は、聴覚障がい者の国際スポーツ大会「デフリンピック」に日本代表として出場し、ドイツのクラブチームでプレーした経験をもつ。

 林さんは、日本でプレーしていた時、「耳の障がいがチームに不利になるから、試合に出られない」と通告されたことがあった。

 ところが、ドイツに行くと、チームの人は障がいに関心を示さず、「それよりも、あなたのサッカーの技術を見たい」と話し、林さんは何のわだかまりもなく、健常者と一緒にサッカーを楽しむことができた。試合中、笛を鳴らしても気づかずにプレーする林さんを見て、審判は、旗を持って振り、林さんにもわかるように試合を進行した。こんな体験を重ね、林さんは「とてもうれしかった」と手話で語った。

 新町スポーツクラブ(群馬県高崎市)の小出利一理事長は、日本の青少年をドイツに派遣したり、ドイツから日本に受け入れたりして、交流活動を続けている。小出さんは、ドイツの「フェライン」を大いに参考にするべきだと強調した。「フェライン」とは、ドイツ各地にあるスポーツクラブ。幅広い世代が複数の種目を体験できる。ドイツは、日本の学校の部活動にあたるものがあまりなく、若い世代もフェラインでスポーツを楽しんでいるという。

 高校生たちの関心は、このフェラインに集まった。ただ、小出さんは「ドイツをうらやむだけでなく、胸を張って自分の地域を紹介できるよう国際交流をしてほしい」とも付け加えた。

三瓶教授が行ったオンラインレクチャー

 

パソコン画面通じてドイツの冬景色

 ドイツの取材先は、行政、障がい者団体、フェラインなど多岐にわたった。インタビューが終わった後、パソコンのカメラを窓の外に向け、現地の冬景色を見せてもらうこともあった。

 市役所の担当者は、行政のサイトやパンフレットについて、障がい者や移民向けにイラストやわかりやすい言葉を使った特別版を作成していると説明した。段差解消などバリアフリー化の補助金も整備している。ただ、街の景観や歴史的建造物の保護に熱心なドイツでは、「建物の改修が却下されることもある」と話した。

 大量の取材メモが集まった後、高校生たちは1、2週間で、三瓶教授やチューター役の大学生に相談し、アドバイスを受けながら、スライドに発表内容をまとめた。ホストタウンサミットの本番直前まで、スライドの体裁や文書を書き直した。

 オンラインを使ったプロジェクトは、試行錯誤の連続だった。しかし、日独で育まれた「絆」は未来につながる交流を生んだといえる。

ドイツ側の担当者へのオンライン取材

 ホストタウンに登録されている自治体は517、相手国・地域は183(1月29日現在)。政府と各自治体は、東京五輪・パラリンピック終了後も続く末永い交流を目指している。

 読売新聞社は、政府から「ホストタウンアドバイザー」を委嘱され、交流活動を支援している。日本を元気にする「元気、ニッポン!」プロジェクトにも位置づけている。

>>「Light up HOST TOWN Project」ホストタウン専用サイトはこちら

(2021年2月24日 15:06)
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