高校生向けオンラインセミナー(1)東北大/東京慈恵会医科大
医療現場で奮闘する医師や研究者らが、高校生に現在と未来を伝えるオンラインセミナー「未来の医療を創る君へ」(読売新聞社主催)が、2023年10、11月に計6回行われ、約1250人が参加した。セミナーは東北、東京慈恵会医科、順天堂、大阪、東京医科歯科、藤田医科の6大学がそれぞれ開催。医療、医師とは何かといった本質的なテーマに迫ったほか、放射線診断、ロボット支援手術などの最新の技術や研究、国際社会で活躍できる医師の育成などについて講義が行われ、生徒からの様々な質問にも答えた。
10月7日 地元生招き模擬体験 東北大学
画像で病気を診て、針と管で治療する ~放射線診断医の世界~
■講師 高瀬圭 教授(放射線診断科)/大田英揮 教授(東北大学病院メディカルITセンター、放射線診断科)/森下陽平 助教(放射線診断科)/木下知 特任助手(放射線診断科)
CTやMRIで撮影した画像で病気を診断し、血管に入れる細い管(カテーテル)や針を使った最新の治療技術を解説。地元の高校生を招いた模擬体験も行われた。
高瀬教授は、足の付け根などからカテーテルを入れ、画像で見ながら動脈硬化で詰まった血管を広げたり、腫瘍の出血を止めたりする治療法を説明。「テレビドラマで交通事故などの重傷者を外科医が手術する場面がよくあるが、本来は私たちのような放射線診断医が画像を詳しく見て、カテーテルを使って止血するのか、外科医が手術をするかなどの方針を決める必要がある。放射線技師、看護師らとの連携も大切で、様々な分野の専門家によるチームで医療が成り立っていることを知ってほしい」と訴えた。
CTで見ながら体の奥まで針を刺して行う診断や治療にも触れ、肺などの内臓のしこりから針で組織の断片を取り、病理検査をする事例を紹介した。別の臓器や大動脈を誤って刺さない注意が必要なことや、電流を流す針で腫瘍を焼き切る治療法も説明した。「とても小さな傷だけで、手術と同じように病気を治すことができる」と高瀬教授は強調した。
木下特任助手はカテーテルの操作方法などを説明。カテーテルは、中が空洞のストロー状の構造になっており、薬や造影剤を流したり、採血をしたりすることができる。例えば、肝臓にがんができているとき、カテーテルから抗がん剤を流して治療を行うという。
森下助教は、カテーテル治療の一例として、上あごにできるがんにカテーテルで抗がん剤を注入する事例を解説した。抗がん剤は通常、点滴で時間をかけて投与するが、腫瘍に向かう血管に絞ってカテーテルで大量に入れた方が効果的なケースもあるという。
模擬体験には仙台二高1年の松田志都さんと鹿股陸さんが参加。松田さんは、腹腔動脈の模型にカテーテルを入れる体験をした。スムーズに入れることができ、木下特任助手が「すごく上手でした。以前にもやったことあるのでは」と驚いたほど。松田さんは「カテーテルを少しずつ回して入れていくのが難しかった」と振り返った。鹿股さんは、森下助教の指導で、大動脈に見立てたトマトと腫瘍に見立てたキウイが入った寒天に、針を刺す体験をした。トマトを避けながらキウイの中心に針を刺すことができ、「手技を実際に体験でき、自分の医師になる夢がより現実味を帯びた」と感想を話した。
カテーテルを挿入する模擬体験を行う松田さん(中央、右は高瀬教授、左は木下特任助手)=東北大のオンライン講義から
最後に大田教授が放射線診断の未来について講義した。
医師に占める放射線診断医の割合は少ないが、「正しい治療を行うための画像診断からの提案は、管制官やパイロットのような役割を担っている」という。
「AI(人工知能)の発達で、放射線診断医の仕事はどうなるのか」とよく聞かれるが、「AIに任せられることは任せるが、患者さんに寄り添い、より良い診断や治療を行うのは放射線診断医の役目。そのために私たちは創造的でないといけない。医療機器、診断法、撮影法を開発する創造性を培っていけば、新しい戦略を見いだすことができる」と話した。
10月14日 海外との共同研究紹介 東京慈恵会医科大学
世界を舞台に ~未来の医療イノベーション~
■講師 村山雄一 主任教授(脳神経外科学講座)/結城一郎 准教授(University of California, Irvine. Clinical Professor)/加藤直樹 講師(脳神経外科学講座)/柳澤毅 助教(脳神経外科学講座)
脳神経外科の医師4人が、最新の治療技術や海外での共同研究、留学体験などを語った。
村山主任教授は、米カリフォルニア大ロサンゼルス校に留学中の1990年代後半、脳の動脈にこぶのような膨らみができる「脳動脈瘤」の破裂を防ぐプラチナのコイルを地元の民間企業と開発し、特許をとった。現在は、ステント(金網の筒)などを使った血管内治療も導入しており、これらの治療の様子をアニメーションで紹介しながら説明した。
脳卒中などの治療画像を国内外の医療関係者が共有できるスマホアプリを開発し、緊急手術の時に相談したり、アドバイスを受けたりできる仕組みも作った。アプリを使い、救急車で搬送中の患者の情報を関係者が共有し、最適な治療を行うイメージを動画で紹介。「専門医が非常に少ない国や地域で、遠隔で、最適な治療法を指導することが可能になる」と話し、「これからの医療は、工学系の専門家や企業などと横断的に進める必要がある。東京慈恵会医科大は世界中に協定校があり、多くの若者が海外に出て学んでいる。不可能を可能にするパイオニアになってほしい」と呼びかけた。
加藤講師は学生教育について講義。4年生の実習で、脳神経外科の手術室に入ってもらい、手術の方法や、治療法を学ぶ様子を紹介した。「手術の手順などをイラストで端的に説明できる技術の習得にも力を入れている」という。また、東京理科大の協力で、3Dプリンターで作った臓器の模型を使ったり、仮想空間上で模擬手術を行ったりする指導も学生に行い、「教科書ではわかりにくい病気の構造が容易に理解できる」と強調した。
柳澤助教は、2017年から約5年、米ハーバード大マサチューセッツ総合病院で、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤の研究を行った経験などを紹介。現地には、東京慈恵会医科大の関係者が多数留学しており、同窓のつながりを感じたという。地元の町内会に入り、地域の行事に参加して、医学とは無関係のコネクションを広げることも意識し、「人とのつながり、縁を大事にすることで、海外の扉も開いてくる」と話した。
結城准教授は、東京慈恵会医科大、米カリフォルニア大ロサンゼルス校留学などを経て、現在は米カリフォルニア大アーバイン校に勤務する。講義は、約16時間の時差がある現地から中継した。共同研究を重視し、アイデアを実証して特許を取り、民間企業と開発を進める米国の医療について説明。結城准教授自身も血管障害がある患者の治療をしながら、医療機器開発の研究を続けていると紹介した。大学には企業支援部門があり、投資家を集めて研究者が発表する場を設けたり、特許の専門家が配置されアドバイスを受けられたりするという。資金を得るためには起業が必要で、その支援も大学が行う。結城准教授も起業し、国から6000万円の支援を受けることができたという。
「日本でも質のいい研究はできるが、製品開発までの道のりは少し違う。一歩一歩前進するために支援が得られるところが米国のユニークなところ」と話した。
東京慈恵会医科大のセミナーを学校の図書館で視聴する高校生ら(千葉県・麗澤高校提供)
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