高校生向けオンラインセミナー(2)順天堂大/大阪大
医療現場で奮闘する医師や研究者らが、高校生に現在と未来を伝えるオンラインセミナー「未来の医療を創る君へ」(読売新聞社主催)が、2023年10、11月に計6回行われ、約1250人が参加した。セミナーは東北、東京慈恵会医科、順天堂、大阪、東京医科歯科、藤田医科の6大学がそれぞれ開催。医療、医師とは何かといった本質的なテーマに迫ったほか、放射線診断、ロボット支援手術などの最新の技術や研究、国際社会で活躍できる医師の育成などについて講義が行われ、生徒からの様々な質問にも答えた。
10月22日 医師を目指す心構え 順天堂大学
高校生に伝えたい
■講師 天野篤 特任教授(心臓血管外科)/中西啓介 准教授(心臓血管外科)/猪俣武範 准教授(眼科)/掛水真帆 助手(麻酔科)/石山明日香 助教(小児外科)
5人の医師がそれぞれの専門分野、医師としての経験から「高校生に伝えたい」ことを話した。
「人の役に立つ努力を惜しまない覚悟がなければ医師を目指すべきではない」「努力は結果が伴った時のみ評価される。あきらめたら解決は遠のく」
天野特任教授は、医療界の現状や医師を目指す人の心構えなどについて講義した。
「これから向き合う医療」として日本の少子高齢化や生活習慣病の対策に加え、新興国の感染症、先進国での高難度の新しい医療を挙げた。
冠動脈バイパス手術の権威で、2012年に上皇さまの手術を執刀した医師として知られるが、「私自身にも1例目があった。3000例くらいやらないと医療がきちんと提供されている気にならない」とし、心臓手術のスライドも示しながら「こだわりを排除して自己啓発に努めること」が責務だと話した。
質疑応答で、患者と接する時の姿勢を問われると「不安や痛みを取り除き、病気の本質を見つけることが大切だ」と指摘。短時間での判断が重要なことにも触れ、限られた時間内に問題を解く受験勉強も「医者には無駄にならない訓練になることを覚えておいてほしい」と付け加えた。
中西准教授は、子どもの心臓手術の動画を見せながら、「手術にかかわるのは、外科医や看護師だけではない。臨床工学技師や、麻酔科の先生など、この手術一つでも10人ぐらいのチームを組んで1人の患者さんのために治療している」と話した。
小児心臓外科の担い手は不足しているが、「手術をしなければ存在しなかった子どもたちの未来が見られる。家族を含めて笑顔にできるところは非常にやりがいがある」と強調。ただ、手術をしても、亡くなる患者もいるといい、「そのときは、決して逃げない。なぜ、そうなったのか、とことん追求する。僕の肩には、今まで亡くなった患者さんが全員で乗っている」と語った。
掛水助手は、外科手術での麻酔医の重要性について説明。医療従事者をめぐる環境については「子どもが生まれても、家族の介護が必要になっても、患者の治療に携わることができる国のシステムが出来ていることに感謝している」と述べた。
そのうえで、「他のことに使う時間を削ってでも、興味を持ったことに突き進んでほしい時期がある。受験勉強もそうだし、医療従事者になったとしても、忙しかったり、眠る時間があまりなかったりすることがあるかもしれない。でも、そうした時間も宝物になるので大切にしてほしい」と医療従事者を目指す高校生にメッセージを送った。
石山助教は、食道閉鎖や消化管閉鎖など、生まれたときから子どもが持つ疾患や、あとから確認された悪性腫瘍などの疾患の手術を担当する。頸部、肺、消化器、泌尿器など手術する部位は多岐にわたり、移植が必要になることもある。「やりがいや使命感はあるけれど、幅広い知識が必要」と話した。
夫の留学を機に、自身も米ジョンズ・ホプキンス大の小児外科で2年間、基礎研究をする機会を得た。「優れた研究をしながら子育てをする女性も多く、刺激をもらえた」という。「皆さんも負けずにやってください」と呼びかけた。
猪俣准教授は、米ハーバード大での研究留学中に、ボストン大のビジネススクールでMBA(経営学修士)を取得した「変わり種」だと自己紹介した。順天堂大では眼科に勤務するが、病院の経営や大学発スタートアップ(新興企業)を創業するなど様々な仕事にかかわっている。
ハーバード大時代には角膜移植やドライアイと関わる免疫や炎症の研究もした。現在は医療経営学の授業も担当している。さらに、医療分野で未解決の問題をデジタルヘルスによって解決を目指す研究室を主催。大学発スタートアップでは、医療のDX(デジタルトランスフォーメーション)にも取り組み、ドライアイや花粉症の診断や治療に関わるスマホアプリを開発中だ。
「目の前の試験など短期的な目標はあると思うが、キャリアの向上、目標を見失わないでほしい。取り組むジャンルを増やすことも大切で、その時々、やれることを精一杯頑張ってほしい」とアドバイスした。
順天堂大のセミナーで天野特任教授の話に聞き入る千葉県・市川高校の生徒たち(多田貫司撮影)
10月28日 心臓移植は命のリレー 大阪大学
移植医療を通じて命を考える
■講師 上野豪久 移植医療部長(小児外科)/狩野孝 助教(呼吸器外科・肺移植、胸部悪性腫瘍治療)/平将生講師(心臓血管外科・先天性心疾患外科治療、小児心臓移植)
移植医療に関わる医師3人が大学病院での取り組みなどを紹介した。
「心臓移植は命のリレー。ドナー(提供者)からいただいた大事な命を引き継がないといけない。敬意や感謝の気持ちを忘れないで」
平講師は、移植手術を受けた患者や家族にそう伝えていると、手術の動画などを見せながら講演した。
平講師らのグループは、15歳未満からの臓器提供が法改正で可能となった2010年、心臓移植を待つ子どもを主人公にした絵本を作成。移植前は走っても追いつけなかったチョウに移植後、やっと出会える。それがドナーだったという話で、移植を受ける子どもに読んでもらっている。
心臓移植を待っている子どもが脳死状態となり、親が心臓以外の臓器提供を決意したエピソードなども紹介。「手術が無事終わっても生涯にわたる治療や管理は必要。心臓、病気の両方と『共に生きる』意味を考えてほしい」と訴えた。
狩野助教は、10代の女性に肺移植手術を行った経験を紹介。12時間かけて両肺の移植などを行い、「一時はベッドから動けなかった女性が、現在はアルバイトをしながら、医療の道を目指し、専門学校に行こうかと話している。人生に大きく関わることができる症例だった」と振り返った。
「課題はドナー不足。待機中の人の半数が2~3年の間に亡くなっている。診療を行いながら、啓蒙啓発活動に携わっている。情報を提供し、しっかり考えていただくことが重要」とも話した。
上野部長は、小児肝移植や小腸移植が専門で、米国で小児外科や産婦人科の研修を受けたり、英国に短期留学したりした経験を披露した。「最初は英語ができずに苦労したが、1年ほどで仕事がこなせるようになった。雑談ができるようになってから楽しくなった」と振り返った。
小腸が腐ってしまう病気から肝不全となった生後6か月の男児に、肝臓、胃、すい臓、小腸をすべて移植する治療が必要になった事例も紹介。男児は南米で手術を受けたが、現在は日本で暮らし、上野部長らが外来で診ているという。
「移植医療は、移植を行う医師や病院のスタッフだけでは成り立たない。特に子どもの場合、大人になるまで支えていくには、両親も含めた家族、社会的なサポートも必要。そのことを考えていただけたら」と締めくくった。
心臓移植を受ける子どもたちのために平講師らが作成した絵本(大阪大のオンライン講義から)
医師の道 目指した原点 かつての参加者 ゲスト出演
セミナーには、外科手術の見学を行っていた読売新聞の「早期医療体験プログラム」に高校時代に参加し、その後、医療の道に進んだ2人がゲスト出演した。
大阪大医学部5年の一色咲樹さんは2017年夏、大阪大のプログラムに参加し、先天性心疾患を持つ赤ちゃんの手術を見学。小さな心臓が目の前で動くのを初めて見た。手術が無事終了した後、「きょうの手術であの子の心臓は80年生きれるんや」との執刀医の言葉が、「私が心臓に関わる医師になりたいと決意した原点です」と振り返った。
順天堂大浦安病院の研修医、河端実さんは15年夏に順天堂大で行われたプログラムで手術を見学した。「女性の外科医の先生もいて、私にとってはロールモデルのような存在と感じました」と話し、「高校時代は自分で体験することが大事。体験をきっかけに将来像をつかめる」とアドバイスした。
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