医療体験プログラム

高校生向けオンラインセミナー(3)東京医科歯科大/藤田医科大

 医療現場で奮闘する医師や研究者らが、高校生に現在と未来を伝えるオンラインセミナー「未来の医療を創る君へ」(読売新聞社主催)が、2023年10、11月に計6回行われ、約1250人が参加した。セミナーは東北、東京慈恵会医科、順天堂、大阪、東京医科歯科、藤田医科の6大学がそれぞれ開催。医療、医師とは何かといった本質的なテーマに迫ったほか、放射線診断、ロボット支援手術などの最新の技術や研究、国際社会で活躍できる医師の育成などについて講義が行われ、生徒からの様々な質問にも答えた。


 

11月3日 画像3次元化 歯の治療 東京医科歯科大学

悩み、迷いは医療者が成長するカギ!

■講師 藤江聡 救命救急センター助教(救急医学、集中治療学、災害医学、日本DMAT隊員)/高橋礼奈 講師(口腔維持系診療領域むし歯科、う蝕制御学、保存治療系歯学)/花岡まりえ 講師(器官システム制御学講座 消化管外科学分野・大腸・肛門外科、消化器外科学)/金澤学 教授(口腔デジタルプロセス学分野、先端歯科センター副センター長、補綴系歯学)

 第一線で活躍する4人の医師・歯科医師が、今の仕事を選んだ理由や、自身の経験をどう生かしているかなどを語った。

 

 DMAT(災害派遣医療チーム)の隊員も務める藤江助教は、大学時代にキャンパスに近い東京・秋葉原で無差別殺傷事件が起き、死傷者が大学病院に搬送される様子を見て、救急医療の重要さを知った。救急サークルの部長を務め、心肺蘇生法を広める活動なども行うようになったと自己紹介した。

 熊本地震で医療支援を行ったほか、房総半島を襲った台風時には災害拠点病院の救急センター長を務めており、「支援の窓口に自分がなったのは、いい経験だった」と振り返った。学校などに出向いての救命講習を現在も続けており、「私がやっているのは社会に適合した医療行為。そんな医療を行う未来を皆さんに作ってもらえれば」と訴えた。

 

 高橋講師は、「目の前の患者さんを幸せにできる点が、他の理工系の仕事とは異なる」と医師の魅力を説明。大学院で、むし歯治療を学び、歯の詰め物とセメントの研究をし、ドイツのミュンヘンに留学もした。大学院修了後、「研究だけでなく、診療も学生の教育もできる」と東京医科歯科大に就職した。

 診療、学生教育の両方を日中にこなし、夕方から研究に専念する。「1日の時間は有限だし、受験までの時間も有限。人生の時間も有限。自分がやりたいこと、やらなきゃいけないことにしっかり優先順位をつけた方がいい」とアドバイスした。

 

 金澤教授は、デジタル機器を使った歯科治療について解説。歯の詰め物は、石こうで型をとって作るのが一般的だが、「患者さんが不快にならない入れ歯を作るのは難しい。入れ歯を上手に作れる歯科医師もいるが、その医療を均質化することが非常に重要」とデジタル技術からの応用を考えた。

 最新の技術では、歯の詰め物や被せ物の形状やサイズを3次元でデザインし、そのデータをもとに3Dプリンターや削り出しの機械で加工する。色も調整できる。

 口内の粘膜の撮影や、3Dプリンターの活用で入れ歯を作る技術や、熟練した歯科医師の手の動きを重ね合わせて作業できるシステムなども研究中で、こうした技術を海外にも広めるため、この1年間に10か国に出張し講演を行っていると話した。「口の中から世界中の人々の健康をよくしていきたい。まだ新しい取り組みで、一緒に担う仲間がほしい」と訴えた。

 

 花岡講師は、手術支援ロボットを使った大腸がんの手術を定期的に実施するほか、週1、2件は大腸などの緊急手術を行う。夜間には手技を高める勉強会に参加する。静岡県の病院に単身赴任し、家庭との両立が難しい時期もあったが、内視鏡外科の技術認定医の資格を得る、ロボット手術の経験を積むなど「技術は磨けた」という。

 「患者には再発してほしくないし、機能も温存して帰ってほしい。そのためには今日より明日、明日より明後日の手術を向上させたい」と話し、目標や習慣づけたいことがあるなら、「やりたいことリスト」を作り、チェックするのがおすすめという。「やりたいことは、医者になってから見つければいいが、迷ったら心がワクワクする方向へ動いてもらえれば」とアドバイスした。

 

セミナー終了後、視聴した高校生たちに手を振る(左から)藤江助教、高橋講師、金澤教授、花岡講師(東京医科歯科大提供)

セミナー終了後、視聴した高校生たちに手を振る(左から)藤江助教、高橋講師、金澤教授、花岡講師(東京医科歯科大提供)

 

 

11月12日 遠隔手術 支援ロボ活用 藤田医科大学

未来を切り拓く次世代医療 ~先端医療とロボット医療~

■講師 榛村重人 羽田クリニック院長/大高洋平 教授(リハビリテーション医学Ⅰ)/宇山一朗 教授(先端ロボット・内視鏡手術学)

 先端医療とロボット医療をテーマに3人の医師が講義を行った。

 

 榛村院長は、失明する恐れがある「水疱性すいほうせい角膜症」の治療の臨床研究で、人のiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作製した角膜の細胞を目に移植する手術を2022年に行った。

 従来、角膜の移植以外に有効な治療法はなかったが、ドナー不足が課題となっていた。この病気の患者にiPS細胞由来の細胞を移植するのは世界初だったといい、角膜移植以外の有効な治療法につながる可能性があるという。

 「移植手術で治せるのに、あえてiPS細胞をやる意味はあるのかと聞かれるが、イノベーション(技術革新)の流れは必要。ただしお金がなければ研究もできない。医者になって、国のために何ができるかも考えていただきたい。研究費の獲得や、知財財産権の確保を行い、ベンチャー(新興企業)を設立して大成功を収めていただければ」と呼びかけた。

 

 大高教授は「高齢化社会では、体が不自由な人の割合が増え、それを少ない若者で支える必要がある。その中でリハビリテーション医学はどんどん発展している」と説明した。

 藤田医科大はトヨタ自動車とリハビリロボットを開発しており、その事例が動画で示された。足が麻痺した患者に、必要な時に足を支え、前に振り出す動きを助ける。ひざを自然な形で曲げる。自力でできるようになったら、その分の助けを減らす。この患者は5週間後、つえをついて自身の力で家に帰れるようになった。

 画面を見ながらテニスやスキーの動作を行いゲーム感覚でリハビリできるロボットなども紹介し、「より良い治療に役立つほか、個々の患者の助け方をデータに基づいてできるようになった」と大高教授。「病院だけでなく、自宅などあらゆる場所で導入される枠組みをつくりたい」と強調した。

 

 宇山教授は、ロボット支援手術の歴史や現状、課題を手術の映像などを流しながら解説した。ロボット支援手術が国内で本格的に普及したのは2012年以降で、今では700台以上の手術支援ロボットが導入され、年間10万件の手術が行われるなど、米国に次ぐ「ロボット大国」となった。

 人の手より繊細な手術ができ、術後の生存率も高いという。

 2023年10月、宇山教授は、シンガポール国立大学から5000km離れた藤田医科大への遠隔操作で、国産初の手術支援ロボット「hinotori(ヒノトリ)」を使い、胃などの臓器模型を切開する模擬手術を行ったことを紹介した。

 経験の浅い医師しかいない遠方の地域に、経験豊富な医師がロボット支援手術を遠隔で指導する需要が多く、実証実験を続けている。遠隔での操作の遅れ、責任の所在の法的整備などの課題はあるが、「すべてが解決された暁には、医療過疎地域に最先端の技量を提供でき、医療の転換が実現できる」と語った。

 

シンガポールからの遠隔操作で模擬手術を行った様子を説明する宇山教授(藤田医科大のオンライン講義より)

シンガポールからの遠隔操作で模擬手術を行った様子を説明する宇山教授(藤田医科大のオンライン講義より)

 


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(2024年3月29日 14:01)
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