未来の医療描く 高校生向けオンラインセミナー(1)
順天堂大学のセミナーを受講する生徒(開智高校提供)
コロナ禍の医療現場で奮闘する医師や研究者らが、高校生に現在と未来を伝えるオンラインセミナー「未来の医療を創る君へ」(読売新聞社主催)が、2021年10月に計6回行われ、1800人を超える生徒が参加した。セミナーは順天堂大学、東北大学、藤田医科大学、大阪大学、東京慈恵会医科大学、東京医科歯科大学の6大学がそれぞれ開催。コロナ対応のほか、iPS細胞を使った治療、ロボット手術、AI(人工知能)といった最新の研究内容などを講義し、これからの医師に求められる資質や働き方など、生徒からの様々な質問にも答えた。
10月3日 順天堂大学
心疾患、悪性リンパ腫、コロナ対策 命の現場から伝えたいこと
順天堂大学 心臓血管外科学講座・天野篤特任教授/同・中西啓介医局長/血液学講座・安藤美樹主任教授/COVID入院チームサブリーダー松下靖志医師
患者の回復 自らの誇りに
上皇さまの心臓手術など9000件に迫る手術を執刀してきた順天堂大学の天野篤特任教授は、「これからの医学・医療を目指す人たちに伝えたいこと」と題して講義。確かな医療・期待に応える医療について、「結果が伴わなくても反省する心、分析と考察、向上心があれば、必ず次につながる」と述べた。
医師という職業については、患者が回復していくのを見ることが魅力であり、自らの誇りにつながると言い、「人間性を高めてくれる、あるいは磨いてくれる」と強調した。
「最高の手術とは患者がそれ(手術を受けたこと)を忘れてしまうほどの手術だ」とした上で、「手術も試験も、準備万全で、いつも通りのことをいつも通りにできることが大事」と話した。
中西啓介医局長は「オンラインのセミナーだが、医師の仕事の一端を垣間見てもらえれば」と、事前にウェアラブルカメラで撮影した院内の動画を上映。術前カンファレンスでパソコンをのぞき込む医師の姿のほか、手術でメスを握る手元のクローズアップなど、生徒たちは医師の目に映る医療現場を疑似体験した。
「(病気の子どもを持つ)親の気持ちで子どもの治療にあたる」と話す中西医局長は、生徒へのメッセージとして「医師として何をするのか、立ち止まって考えた上で受験してほしい」と呼びかけた。
コロナ治療 患者と家族の姿に涙
安藤美樹主任教授は、iPS細胞を作成する技術を使い、血液のがんの一種「悪性リンパ腫」の克服を目指す最先端の研究を紹介した。
がんを攻撃する免疫細胞「キラーT細胞」を患者から採取し、培養してiPS細胞に変身させ、若返らせる。このパワーアップした「キラーT細胞」を大量に増やして患者に戻す「がん免疫療法」の実用化を目指して、米国の企業と国際共同研究を進めているという。
生徒から国際共同研究の難しさを尋ねられると、「大変なのは時差。これから寝ようと思うときにメールが来ることもあった」と答えた。
松下靖志医師は、新型コロナウイルスの治療最前線の様子を語った。同大は各科の医療スタッフによる混成チームを作って新型コロナ治療にあたっており、松下医師も参加した。
松下医師は「貴重な経験になる」と楽観的な気持ちでチームに参加したが、最初の1週間は治療法も分からない中、重症患者が次々に運ばれてきて、自宅に帰ることも出来ず、いきなり大変な状況に直面したとという。
感染拡大の第3波の時は、治療を尽くしても症状が改善しない男性患者の家族から「自分の肺を移植してでも、助けて下さい」と懇願され、医師になって初めて泣いたというエピソードも語った。「(自然と)涙があふれて止まらず、少しパニックになった。精神的、肉体的にも疲れきってていたのだと思う」と当時を振り返った。
順天堂大学のセミナーに参加した天野特任教授(上段中央)らと生徒たち |
10月10日 東北大学
未来に求められる、医療をデザインする力
東北大学大学院医学系研究科画像診断学分野 植田琢也教授/東北大学病院臨床研究推進センターバイオデザイン部門長 中川敦寛特任教授
医療AI「デザイン思考」カギ
東北大学病院で医療AIの開発支援を行う「AI Lab(エーアイラボ)」のディレクター・植田琢也教授は、「ドラえもん、ガンダム、鉄腕アトムの中で強いAIでないのはどれか」と問いかけた。
「強いAI」とは、人間のように柔軟に考え、未知の問題を解決できるAIのことで、「感情を持つドラえもんやアトムはその代表格。一方、ガンダムは操縦士がいないと機能せず、考える能力がない」と説明した。
医療AIには、高い技術に加えて、使い手の共感を重視する「デザイン思考」が求められると指摘。壁や装置にカラフルな絵を描き、狭くて怖いイメージを和らげた磁気共鳴画像(MRI)検査装置を紹介し、「この装置はAIではないが、こうした考え方を取り入れてAIを開発していくことが必要」と話した。
チームワークで課題解決を
中川敦寛特任教授は、20年後の日本では、少子高齢化が一層進み、社会の課題も多様化すると予測。そのような時代における課題解決能力として「まず課題を、いかに見つけられるかが大切」と述べた。
質の高い医療を維持するために欠かせないものの一つがイノベーション(技術革新)だ。事前に行った参加高校生へのアンケートでは、「何がイノベーションを起こすか」を尋ねたところ、「チームワーク」が79%、「運」13%、「1人の天才」8%という結果になったという。
中川特任教授は「課題解決をみんなでやる時代になる」と指摘。課題解決の行程をエベレスト登山に例えて、目標を見失わず的確なルートを選び、優れたパートナー(ガイド)とともに、テクノロジー(最新技術)を使いこなす技量が必要になると説明した。
自らの経験を踏まえ、「(情報をとらえる)アンテナを張り、一歩踏み出す(チャレンジする)こと、五感で感じることが重要だ」とアドバイスした。
東北大学のセミナーを受講する生徒(仙台二華高校提供) |
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