医療体験プログラム

大学プログラム

未来の医療描く 高校生向けオンラインセミナー(2)

藤田医科大学のセミナーを受講する生徒(都立戸山高校提供)

 

10月17日 藤田医科大学

次代のがん治療へ 〜遠隔ロボット手術とゲノム医療〜

藤田医科大学 先端ロボット・内視鏡手術学講座・宇山一朗教授/泌尿器外科学・白木良一教授(同大学病院長)/がん医療研究センター長・佐谷秀行教授

ロボット手術はチーム医療

 藤田医科大学は、ロボットを使う手術件数がこれまでに3600件を超え、全国トップクラス。今後も増えると見込まれるロボット手術について、白木良一教授が、その歴史と特徴について講義した。

 手術で使われる米国製のロボット「ダビンチ」は2009年に国内で薬事承認され、これまでに20種類以上の手術で公的医療保険の対象となっている。ロボットと言っても、患者から離れた位置で、医師がモニターを見ながら鉗子(かんし)と内視鏡を取り付けた4本のアームを操作して手術を行う。アームの手元が画面に高解像度で映し出さ、ぶれることなく細かな作業を正確にできる上、体に小さな穴を開けるだけなので患者の術後の経過が良好と言う。

 白木教授は、操作には十分なトレーニングが必要とした上で、「操作する医師1人ではなく、臨床工学技士や看護師などと協力するチーム医療が、より大切になる」と指摘した。

 

「遠隔ロボ手術」時代 到来間近

 手術のさらなる進化を目指して高速・大容量通信を使い、国産初の手術支援ロボット「hinotori(ヒノトリ)」による遠隔手術に取り組んでいるのが宇山一朗教授だ。

 宇山教授は、2021年5月に行った実証実験について説明。通信遅延(時差)を0.05秒以内にすることが現在の目標で「遠隔手術の時代は、すぐそこまで来ている」と述べた。通信環境の整備や法律などのルール作りといった課題も残るが、「最先端の外科手術を、国内はもとより、海外にも浸透させることができる」と意義を説明した。

 佐谷秀行教授は、がんのゲノム医療について解説した。ゲノム医療とは、がんの原因となる遺伝子変異を正確に突き止め、がんの動きを抑える薬剤を作る医療のこと。既に同大学が、手術を受けた全ての患者を対象に、がん細胞の遺伝子検査を始めていることを明らかにし、「今後はデータを集積してAIで解析し、診断や治療に役立てようと考えている」と述べた。

 現在、薬が効きにくく再発転移の"種"となる「がん幹細胞」を標的とした治療研究を行っていることも説明。生徒へは「一度決めたら、誠実、勤勉、タフであれ」とアドバイスした。

 

 

10月23日 大阪大学

コロナ禍を振り返って ~改めて命の価値を考える〜

大阪大学心臓血管外科 宮川繁教授/平将生診療局長/澤芳樹・大阪大学未来医療寄附講座特任教授

恩恵を社会に還元

 大阪大学の澤芳樹特任教授は、同大医学部が幕末の医師・緒方洪庵からの流れを受け継ぐ歴史を持ち、「10年先を行く心臓血管外科」をモットーに、国内初の脳死心臓移植を行ってきたことなどを説明。自らの研究チームが、人のiPS細胞から作成した心筋の細胞シートを、重い心臓病患者へ移植する手術に世界で初めて成功した経緯についても話した。

 自身の経験を振り返り、医師は「生活費を心配する必要のないボランティア」「自分が受けた以上に社会へ恩恵を還元できるエリート」と言い切り、「(医師のように)人生を賭ける価値のある仕事を見つけることが最も大切だ」と述べた。

 

「移植すべきか」問い続ける

 小児心臓移植を手がける平将生(まさき)診療局長は、コロナ患者の急増で医療現場が逼迫(ひっぱく)した当時を振り返った。「集中治療室(ICU)が埋まり、移植に影響が出たらどうしよう」と困惑したことを明かして、「移植待機の患者や家族が、どんな思いでいるか考えてほしい」と訴えた。

 生徒からの「移植で患者家族の意見が割れたときはどうしますか」との質問には、「全員一致しない限り、移植を勧めない。移植を受けない選択も間違いではない」と答えた。

 移植すれば治療が終わるわけではない実情を説明し、「自分の子どもの場合はどうするか、私も考え続けています。みなさんも答えを出さなくても良いから、少しでも考えたり、他の人と話し合ったりしてほしい。それが移植医療にとって大きな進歩につながる」と語りかけた。

 宮川繁教授は高校生たちへのメッセージとして、自分が医師を志すに至った学生時代のエピソードを語った。

 実家が病院、兄弟も医師という環境で育ち、最初は工学部に入ったが、大阪大学が脳死移植を倫理委員会で検討という新聞の1面記事を読んで衝撃を受け、医学部に入学し直したという。その後、医師の経験を積んでいくうちに、最先端の再生医療をやろうという気持ちになったと説明した。「私は初心を忘れずにやりたいことをやってきた。みなさんが医師になっても、信念を曲げずにやり通して欲しい」とエールを送った。

大阪大学のセミナーを受講する生徒(都立国立高校提供)

前へ 次へ

 

(2022年2月15日 11:43)
TOP