医療体験プログラム

大学プログラム

未来の医療描く 高校生向けオンラインセミナー(3)

東京慈恵会医科大学のセミナーを受講する生徒(都立戸山高校提供)

 

10月24日 東京慈恵会医科大学

臓器再生から創生へ ~人生100年時代の医療と医師像とは~

東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科主任教授、横尾隆(よこお・たかし)医師/同大葛飾医療センター腎臓・高血圧内科 診療部長、丹野有道(たんの・ゆうどう)医師/腎臓・高血圧内科講師、副病棟長、松尾七重(まつお・ななえ)医師

技術革新で「人の心」重要に

 「未来の医療現場で医師は必要か」。iPS細胞から腎臓を再生し、患者へ移植する研究を進める東京慈恵会医科大学の横尾隆教授は、AIやロボット技術が進化・普及する未来を展望し、生徒にこう問いかけた。

 AIの実用化が先行する車の自動運転を例に挙げ、医療でも人間の知識・経験だけでなく、技術的に難しい手術ですら、AIやロボットにいずれ置き換わると予測する。「これからの時代の医師には、ぬくもりを持った優しさや、マニュアルにない患者に寄り添った配慮ができる『人の心』が必要になる」と強調した。

 新たな治療が次々に登場しても、医療現場で求められるのは患者をいかに長生きさせるかではなく、患者やその家族が、いかに安心・満足して最期の日を迎えることができるかだ、と説明。大学の建学精神で、病気の治療だけにとらわれず、患者を一人の人間として診ることを説いた「病気を診ずして病人を診よ」という言葉を紹介した。

 

女性医師の働き方

 丹野有道診療部長は、腎不全の治療の歴史について説明した。

 末期腎不全は、かつては効果的な治療法がなく「死の病」と恐れられていたが、1960年代に、血液透析、腹膜透析、腎移植という3つの腎代替療法がそろった。その後も技術開発で透析機器の小型化が進むとともに、透析機能も向上し続けていると動画を交えて紹介した。

 どの治療でも腎臓の機能が完全に回復するわけではなく、透析では20%程度、腎移植でも60~70%にとどまるという。腎移植については、移植手術を受けるまで約15年かかる上に移植後も免疫抑制剤など投薬が必要と話した。

 松尾七重講師は、女性医師の働き方について様々なデータを示しながら解説した。

 女性医師の割合は、東欧では5割以上の国が多いが、日本は2割で、国際的に見ても決して高くはないという。女性医師では、妊娠、出産、育児によるとみられる離職が35歳前後で高く、キャリア形成の時期とも重なることから、「男性にない苦労があるので、ある程度将来について計画を立てていかないといけない」と指摘した。

 子育てをしながら医師を続ける同僚のケースを数例紹介し、「好きな道を進むことが生活の励みになる」と述べた。

セミナーの最後に、生徒たちへ拍手を送る東京慈恵会医科大学の横尾教授(中央)ら

 

10月30日 東京医科歯科大学

コロナ禍で東京医科歯科大学の医学・医療はどう進化したか?

東京医科歯科大学 集中治療部 若林健二病院長補佐/救命救急センター 植木穣病院長補佐/小児科 鹿島田彩子特任助教/総合診療科 鈴木里彩助教

「患者と仲間をコロナから守る」

 新型コロナウイルスへの対応について、最前線で活躍する4人が講義した。

 植木穣病院長補佐は、対コロナ院内スローガンとして「(感染してしまった患者を)責めるより応援する」「患者と仲間をコロナから守る」を掲げて取り組んだ約2年間の活動を報告。集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」への医療スタッフ派遣や、院内に専門の対策室を設置して対応に当たってきたこと、東京都などと連携して東京ドームで行ったワクチン集団接種では総合監修として協力してきたことなどを挙げて、「医療職は誇りを持つことが出来る仕事なので、ぜひ目指して欲しい」と語った。

 鈴木里彩特任助教は、初期に行われていたテントでの診療や、現在の半屋外の駐車場にあるコロナ外来診療センターでの様子を紹介した。

 最初は、慣れない対応に医療スタッフは心がすり減ることもあったが、メンタルヘルスケアを行い、安心して医療を行うための情報を収集し、様々なマニュアル作りを進めるなど、現場の環境づくりに取り組んだと話した。一般診療では、コロナ以外の患者さんも外出禁止によるストレスや、体力の低下など様々な影響があったと言う。

 医師としての限界も感じた一方で「医師という仕事が、人の役に立つ、社会にとって価値があると思えた」と語った。

 鹿島田彩子特任助教は、研修医の仕事を解説した。救命救急センターの研修の様子として、救急車で病院へ搬送されたコロナ患者の受け入れや、様々な実習や病棟回診の様子を紹介。「コロナ禍でも感染対策を十分行いながら、(研修医に)安全に研修を積んでもらっています」と話した。

 若林健二病院長補佐は、集中治療医の仕事などについて話した。

 集中治療は救急医療と同じように思われているが、最も重症な患者への治療のことで、最新技術と多職種の連携によって支えられている「危機管理対応の場」であると説明。実際には、麻酔科チーム、外科チームのほか、新型コロナ治療でも使われる体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)を担当する支援チームなど複数のチームが協力し合ってコロナ患者の集中治療を行っているという。

 

プロとして治療に全力

 生徒からの「予防ルールを守らずに感染した患者についてどう思うか」との質問に、若林病院長補佐は「複雑な気持ち。患者さんには自分の生き方や正義がある。私の正義を押しつけてよいか悩むところだ」と打ち明けた。その上で「我々はプロ。『責めるより応援する』の気持ちで、治療に全力を尽くしている」と述べた。

 鹿島田特任助教は「マスク姿を見て怖くなったり、着用が難しかったりする患者もいる」と小児科特有のケースを挙げ、小児患者に対しても感染予防の必要性を丁寧に説明するなどの対応について話した。

講義する鹿島田特任助教、若林病院長補佐(上段左から)、質問に答える植木病院長補佐、鈴木助教(下段左から)、セミナーを受講する生徒(川越女子高校提供)

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(2022年2月15日 11:47)
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