第13回 全国高等学校英語スピーチコンテスト【大会リポート】

第1部1位の二宮華加さん(左)と第2部1位の年増ルデヤさん(右)

 「第13回全国高等学校英語スピーチコンテスト」(全国英語教育研究団体連合会主催、読売新聞社など後援)が2月9日、東京・代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターで開かれた。

 全国9ブロックの地区予選などに延べ2300人が参加し、勝ち抜いた代表18人が出場。12人が参加した第1部では東京・田園調布雙葉高2年の二宮華加さんが、6人が参加した第2部は宮崎県立宮崎西高2年の年増ルデヤさんがそれぞれ1位に輝いた。

 初めての試みとして、第2部に「Q&A」が導入された。スピーチ後、ネイティブスピーカーからの質問に対して、的確かつ速やかに答えられるかが問われ、やり取り(interaction)は審査の対象にもなった。質問者を務めたケイト・エルウッド早稲田大学商学部教授はスピーチのテーマや内容について幅広く英語で質問、生徒たちも生き生きと答えていた。

 

※英語圏に満5歳の誕生日以降、通算1年以上住んだ経験がない生徒らが第1部、英語圏で通算1年、または継続して6か月以上以上暮らしたことがある生徒らが第2部にそれぞれ出場した。

 

●動画を見る(約1分)

 

第1部1位 文部科学大臣賞・文部科学大臣杯

「The World of Diversity」

二宮華加 さん(田園調布雙葉高2年)

 8.9%! What do you imagine this number is? This is the number of people between the ages of 20 and 59 in Japan who are called "LGBT". Now, have you ever heard of LGBT? It stands for "Lesbian," "Gay," "Bisexual," and "Transgender." They are labeled as a "Sexual Minority." Recently, among the so-called "SNS generation" who can easily access updated global information, LGBT has now gained much publicity.

 

 「出場者のレベルが高く自信を失いかけましたが、スピーチに頷いてくれる審査員や観客に勇気をいただきました。優勝はうれしさより驚きが大きいです」。落ち着いた口調で大会を振り返った。


 3歳まで過ごした米国ワシントンでは、保育所に人種や宗教、文化が異なる保育士や友達、姉の小学校にはゲイの先生がいるなど、"多様性"を感じながら育った。

 中学生の時、好きな米国の歌手が性的少数者(LGBT)の親族らを支える活動に取り組むのを知り、多様性への関心が高まった。その後、母や姉と差別や偏見について議論するようにもなった。

 スピーチでは、渋谷区などで同性のカップルを公的に認める制度ができたのは画期的だが、学校や職場でいじめがなくならないのは、「少数者に対する偏見の障壁があることが原因ではないか」と主張。

 今年の米大統領選で民主党の候補者の一人でゲイのピート・ブティジェッジ氏が幅広い支持を集めていることにも触れながら、新しい令和の時代を迎えた日本では、LGBTの人権を保護する法整備はもちろんのこと、重要なのは「LGBTへの認識を学ぶための、早い時期からの教育。一人ひとり違いや個性があることを理解する心を育む必要がある」と訴えた。

 最後に安倍首相の令和元年の談話も引用しながら、"多様性"の世界でみんな大きな花を咲かせましょうと力強く呼びかけて締めくくった。

 学校の宗教の時間など社会的弱者のことを考える習慣が日頃からあり、困っている人の助けになりたいという思いが強い。「AIが発展しても、心を通じ合いながら人を支えることは人間にしかできない」と、興味のある心理学と社会福祉を大学に進んでも研究していきたいと考えている。

 

第2部1位 外務大臣賞・外務大臣杯

「Truth Sets Us Free」

年増ルデヤ さん(宮崎県立宮崎西高2年)

 When I was in Junior High, I saw an incredible video that was shared by a friend on Facebook. In the video, a man named Robert Mahar succeeded in creating a new hybrid fruit called Baniwi. He did this by putting together a cut section of banana and half of a kiwi and planting it in a pot. The outer part of it looked just like a banana, but inside it looked like a kiwi. Mr. Mahar claimed that "The taste is a delicate balance of the two."

 

 「極度に緊張して言葉に詰まってしまったので、まさか優勝できるなんて......。3歳からずっと英語を教えてくれている宣教師の先生に、まず報告したい」。フェイク(偽)ニュースを見抜く力の大切さを訴えたスピーチが高く評価されると、はにかみながら喜びを語った。


 バナナとキウイを半分に切って一緒に植えるとハイブリッドの果物「バニウイ=Baniwi」が生えてくるなんて、すごい! さっそくシェアしよう──。友人がSNSで送ってきた動画が改ざんされていたとは知らずに、別の友人とシェアしてしまった自らの体験を語り、会場の関心を引き寄せた。

 動画のどこが改ざんされていたのか。

 「投稿者がエイプリルフールだと明かした部分が削除されていた。うっかり信じてしまったけれど、これは罪のないウソ」と振り返りつつ、ここからは本題のフェイクニュースに切り込んだ。深刻な事例として触れたのは、ナイジェリアのイスラム過激派が2014年に起こした200人を超す女子生徒拉致事件。「政府高官が拉致の事実を否定したために現場が混乱、救出が遅れた」と批判するジャーナリストを紹介し、「インターネットには、こうした危険なフェイクニュースが潜んでいる」「あなたが、暴力と憎しみを拡散する担い手にもなるかもしれない」と指摘した。

 ニュース・リテラシー教育を授業に取り入れる米国の小学校の新聞記事も例示し、日本でもニュースそのものの真偽を見抜く力を養う取り組みが必要だと熱く語った。

 新聞を読むのが日課で、昔からスポーツ面が大好きだ。端から端まで丁寧に読む。「バニウイ」の一件以来、事実検証のオンラインサイトも使いはじめた。そんな17歳からのメッセージはシンプルだ。「友達とシェアする前に、ちょっと待って。その情報源は本当に信頼できる? 真実は大切、真理が私たちを自由にするのです」。

 

第1部2位 読売新聞社賞

「Sharing」

星野騎士(ないと) さん(伊勢崎市立四ツ葉学園中等教育学校5年)

 Sharing. What is it? When do you share? Please think about sharing and about the last time you shared something with someone. What was it? A shared meal, a snack or a possession? It might have been a shared smile at a joke, or simply a shared moment of your time. Or was it shared knowledge, understanding, respect or maybe love? An article I read recently stated that, "Sharing is fundamental to the development of all human relationships." I firmly agree. Without sharing our feelings, experiences, ideas and our unique personalities, it is almost impossible to build long lasting relationships. I believe that sharing could be the answer to many of my simple problems and furthermore the world's bigger problems.

 

 きっかけは、「いつでも、どこでも傘シェアリング」というサービスが都内を中心に始まったのを知ったことだった。

 急な雨でもコンビニで気軽に買えるビニール傘はとても便利。でも、雨上がりの街を見ると、あちこちに捨てられている。鉄道会社の遺失物センターにも大量に忘れ物の傘が届く。この膨大なムダをなくしたいと始まったサービスと、その精神に共鳴した。

 スピーチでは、「傘に限らず、世の中には星の数ほど問題がある。シェアリングという発想を世界に広げれば、多くを解決できるはず」と訴えた。

 国際協力活動を行う政府機関やNGOなどが一堂に会するイベントに参加したことも、シェアリングへの思いを後押しした。「領土や人権を奪い合っているのなら、奪い合いとは真逆のこと、つまり、アイデアや資源、テクノロジーをシェアすれば、どれだけ多くの命を救えるだろうか」と、会場に問いかけた。

 将来、英語を生かせる仕事をしたいと考えている。「どのような職業に就こうと、シェアすることはできるはず。このコンテストもアイデアをシェアする場だと思います」と、あくまでも前向きだ。

 

第2部2位 読売新聞社賞

「Political Thinking」

雨宮加苗 さん(東京都立小平高2年)

 48.8. Do you know what this number means? This indicates the percentage of eligible Japanese voters who voted in the most recent Upper House elections. It was a record breaking number because for the first time in 24 years at the national elections less than half of all people who could vote voted. In fact, Japan is said to have the worst voting rate amongst the developed countries. Now, why do you think Japanese people don't go vote? 48.8 is such a terrifying number. This says that more than half of our nation's electors don't feel the necessity to vote. I believe most Japanese people consider politics irrelevant to their lives. Here today, I would like to examine the problem in Japanese people that led to this loss of interest in politics and present you with ideas for how we can make this situation better.

 

 日本と米国を行き来しながら育った。ユタ州の幼稚園に通っていた2008年は、黒人初の大統領誕生が決まったメモリアル・イヤーで、「小っちゃい子どもでも、自分の国に大切なことが起きたのを知っていた」。8年後、2度目の大統領選をバージニア州で体験したときも、学校中が「オバマ・ケア」の話題で持ちきり。政治は常に身近にあった。

 だが、中学2年で帰国すると、日米の違いにぶつかる。安部首相のパールハーバー訪問のニュースをクラスメートに話すと、戻ってきたのは「それって、何?」。日本語名の「真珠湾」と言い換えても認識してもらえず、カルチャーショックを受けた。

 この違いは、どこから生まれるのか。

 スピーチでは、「日本の大人は政治と世界情勢に触れない」と分析、家庭と学校で子どもたちに市民の権利と義務をもっと教えるべきだと訴えた。

 来春、投票できる18歳になる。「私は、政治について家族と語り、内外の課題を友人たちと議論する。責任ある市民になる一歩だと信じているから」と力強く締めくくった。

 コンテスト後、将来の夢を尋ねると、しばらく考えてから、こう話してくれた。「今、恵まれた生活を過ごしているのは分かっています。受けた教育を生かして、途上国の子どもたちに尽くしたい。UNICEFで働きたいと思っているんです」。英語を学ぶ強い動機を持っていた。

■受賞者一覧(敬称略)

第1部

1位 文部科学大臣賞・文部科学大臣杯 「The World of Diversity」
 二宮華加(田園調布雙葉高2年)
2位 読売新聞社賞 「Sharing」
 星野騎士(伊勢崎市立四ツ葉中等教育学校5年)
3位 全英連会長賞 「Get Out of Your Comfortable Zone」
 張博瀚(沖縄尚学高2年)
4位 全英連会長賞 「An Atmosphere to Evolve」
 梶原哲司(神戸市立葺合高2年)

第2部

1位 外務大臣賞・外務大臣杯 「Truth Sets Us Free」
 年増ルデヤ(宮崎県立宮崎西高2年)
2位 読売新聞社賞 「Political Thinking」
 雨宮加苗(東京都立小平高2年)
(2020年2月26日 18:10)
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