ブラジル、パキスタン...9か国・地域の59人参加
次世代のリーダー育成を目指す学生団体「グローバル・ネクストリーダーズフォーラム(GNLF)」は2月、「社会と科学技術」をテーマとしたオンライン国際会議(特別後援:読売新聞社/The Japan News)を8日間にわたり開催しました。ハンガリーやブラジル、パキスタンなど9か国・地域の学生ら59人が参加し、英語で活発な議論を交わした会議を、GNLFメンバーの私たち2人がリポートします。
(東京大学教養学部3年・六川雅英、同大経済学部3年・田村裕加)
AIや原子力から幸福まで 幅広く議論
GNLFは東京大学の学生が中心となり2010年に設立した団体です。異なる文化と学問的背景を持つ学生が一堂に集い、議論を通じて多様な価値観に触れることで、グローバルに活躍できるリーダーに必要な素養を身につけることを目的としており、国際会議の開催は10回目です。
今回のオンライン会議では、学生ら59人が「社会と科学技術」というテーマのもとに集まり、8日間を通じてAI(人工知能)や原子力などの具体的な科学技術から、「リスク」や「便利さ」「幸福」といった抽象的な概念まで様々なトピックを扱いました。
参加者の多くは文系の学生だったのですが、彼らに求めたのは、日常生活であまり意識しない科学技術について、社会との関わりという観点から論理的かつ内省的に議論することです。
具体的トピックを扱う場面では新たな知見を得た学生も多く、ハンガリーの学生は「自分の国は電力消費量の半分近くを原子力に頼っているのに、その事実を今まで知らなかった」と発言。原発事故による影響を考えたこともなかった、と振り返りました。
幸福論を扱ったセッションでは熱い議論もありました。「足るを知る」という言葉を例に、ある日本人学生が「今あるリソースで満足することが幸せになる秘訣ではないか」と持論を披露。すると、ブラジルの学生は「(富裕層・先進国の存在を知っている)貧困層・途上国は楽な生活をしたいと願い、発展を望む。とても自然なことで、今に満足する必要はない」と指摘しました。
フォーラム全体を通して私たちが意識したのは、多様な意見に可能な限り多く触れること。そして、価値観の違いを互いに理解しないまま、不寛容がいたずらに醸成されることこそ避けなくてはならないということです。
こうした点を踏まえて議論を進めた結果、社会と科学技術のつながりについて多角的な視野を育む機会となりました。
また講師として、国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構の北川敦志技術安全部長を招待しました。日本の原子力利用と事故対応についての講演と質疑応答など「FUKUSHIMA」の経験をもつ研究者の考えを取り込むことで、参加者は自国の状況と照らし合わせながら学べました。
各プログラムはGNLFメンバーが1年間かけて自ら作り上げた。原子力のセッションでは、書き込み機能も活用して原発事故と各学問分野とのつながりをスライドに書き込めるよう工夫した |
初のオンライン開催 準備に1年、交流に工夫
新型コロナウイルス感染拡大を受けて、会議は初のオンライン開催としました。世界中で学びの形態が大きな変化を迫られ、学生の多くは大学に通えず、自室からオンラインで講義を受けています。渡航制限によって留学を断念する学生も少なくなく、数々の国際交流が中止や延期を余儀なくされています。
しかし、このような状況だからこそ活動継続を支援する声が企業や大学から集まり、会議を開催することができました。それでも、例年のように各国の学生が東京に集まることは叶わず、運営スタッフも含めて自室からの参加です。
時差や学事暦の違いも課題の一つでしたが、毎週土曜日と日曜日の日本時間深夜に分割開催することで、1か月にわたり計8日間のフォーラムを実現できました。
学生同士の交流を深める工夫も大きなポイントでした。例年、自国の食べ物や衣装を持ち込む文化交流会を企画しているのですが、今回はオンライン。どうしたらいいのか悩みましたが、それぞれが持ち寄った品々をカメラの前で紹介し、味や香りについて質問しあうことで交流を後押し。
また、プログラム後にオンラインのルームを開放したところ、日本のアニメや各国の文化などについて様々な話題で盛り上がり、ホッとしました。
参加者が自国紹介をクイズとして出題するなど、充実した文化交流を行えた。クイズ回答にはKahoot!というサービスを利用し、成績上位者には景品を用意した |
一日のプログラム終了後も雑談やゲームをして仲を深めた。時差もあったが、朝や昼の現地の様子を紹介するなど、オンライン開催ならではの面白さも感じられた |
オンライン会議は移動にかかるコストや感染症のリスクを低減してくれる一方、予定の外にある「余白」から生まれる偶然の交流が極めて起こりにくい。インターネットやSNSという科学技術は、人と人をつなげることを容易にしてくれますが、深い関係を築くことにおいて、未だ「対面」の代替となるものではありません。
コロナ下に行われた国際交流は、多くの発見と課題をもたらしてくれました。
閉会式で撮影した集合写真。活発な議論を通し相互理解を深めることができた |