慶大リレー講義 メディアとポピュリズム

 

 慶応義塾大学で読売新聞東京本社が実施するリレー講義「冷戦後30年の現代史」の第13回は「メディアとポピュリズム」と題して行われた。同社調査研究本部の林田晃雄主任研究員が講師を務め、前期(春学期)の授業を総括した。


 前期は平成不況や改憲論議、論壇の変容、コロナ禍が取り上げられた。林田主任研究員は「平成不況はなぜ長引いたのか。幾度も大災害に見舞われたのに、なぜ緊急事態対応を強化するための憲法改正が全然進まないのか。論壇の世界では、極論や事実に基づかない情報が飛び交うのか。こうした行動の根幹には、大衆や支持者に取り入って、自らが利益を得ようというポピュリズム(大衆迎合主義)の精神が潜んでいたのではないか」と問題提起した。


 自民党の小泉純一郎首相(当時)が巧みな話術で国民の支持を集め、持論の郵政民営化を達成する一方で、不人気な消費税は増税しなかったこと、民主党が実現不可能なマニフェストを掲げて政権を取ったことなどを例に、ポピュリズムがはらむ「人気取り優先」「共通の敵を作り出す」「常識や既存の秩序、権威の否定」「根拠なき楽観主義」といった問題点を指摘した。


 2004年、内閣府が「経済財政白書」の副題に小泉首相が多用していたフレーズ「改革なくして成長なし」を4年連続で使った際は、自ら「改革と成長の因果関係を検証もしないで副題に使うことはやめたほうがいい」という趣旨の解説記事を書いたエピソードを披露。「根拠を示さず、バラ色の未来に誘導するのは、ポピュリズムだと思ったからだ」と説明した。


 マスメディアもポピュリズムに陥らないよう自戒する必要性を強調した上で、「新聞は権力の監視や健全な世論形成などの役割を担っている。記者が客観的な立場で報道した内容が記録として残り、権力側に都合の良い歴史が作られるのを阻むことにつながっている」と締めくくった。


 受講生からは、「ポピュリズムはいつでもどこでも生じうる。言葉の表面的な意味に惑わされずに本質を見抜く力が、一般人としても記者を志望する者としても問われる時代になってきている」「春学期の授業を通して、私も勇気ある言論を担えるジャーナリストになりたいと思った」などの感想が寄せられた。


 後期(秋学期)の授業は10月に開講。テーマとして政治や社会保障、国際情勢などを取り上げる予定だ。

(2021年8月16日 13:08)
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