慶応義塾大学で読売新聞東京本社が実施するリレー講義「冷戦後30年の現代史」の第10~12回は「感染症との戦い」と題して行われた。講師を務めたのは同社調査研究本部の笹沢教一主任研究員。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な大流行)に関する世界の動向を説明し、「日本は欧州の動きにもっと注目するべきだ」と語った。
笹沢主任研究員は科学記者として活躍。ワシントン特派員やジュネーブ支局長も務め、地球規模の医療、環境問題などを取材してきた。昨年は編集局各部横断のコロナ取材班に加わり、今年6月に出版された「報道記録 新型コロナウイルス感染症」(読売新聞社)の編集責任者を務めた。
講義では、ジュネーブ時代に撮影した世界保健機関(WHO)や国連欧州本部の写真などを紹介しながら、新型コロナをめぐる国際機関や各国の対応を解説した。誤った情報が拡散していることにも触れ、事実確認の大切さを強調した。
また、今回のコロナ禍を教訓に、未知の感染症に備えた新体制を築こうとする動きが欧州主導で進んでいることを説明。ミシェル欧州理事会常任議長(EU大統領)が「国際パンデミック条約」の制定を提案するなど、活発化しており、その背景には欧州の人権や人道を重視する倫理観があるとする。「こうした事実が日本ではほとんど報道されず、関心が低い。日本も米国に追随しているだけでは、地球規模の課題に包括的に取り組もうとする動きに乗り遅れるかもしれない」と警鐘を鳴らした。
受講した学生からは「根本的に大事なのはパンデミックを起こさないこと、感染症を防ぐ方策を考えていくことだと感じた」「テレビや新聞で見聞きしてきた内容について理解を深めることができてとても良かった」などの感想が寄せられた。