慶大リレー講義 冷戦後の論壇

 

 慶応義塾大学で読売新聞東京本社が実施するリレー講義「冷戦後30年の現代史」の第8、9回は「冷戦後の論壇」と題して行われた。講師は同社調査研究本部の時田英之主任研究員。自身の体験談を交えながら、国内論壇の変容について語った。


論壇とは言論界のこと。「中央公論」や「文芸春秋」といった総合雑誌などに掲載された社会問題に関する様々な論考を分析し、解説するのが論壇記者の役割だ。
 時田主任研究員は長年、文化部に勤務し、論壇記者として活躍。毎月、総合雑誌を十数冊読み、批評を書いた。講義では「一流の研究者の主張を批判するので、書くときはとても緊張した」と振り返った。


 1989年の米ソ冷戦の終結によりイデオロギー論争は終わり、論壇では民族・宗教紛争や専制政治、格差問題などに注目が集まるようになったことを説明。
議論の担い手も、大学教授や作家といった文化人にとどまらず、幅広い分野の人が加わるようになった。背景として大学の大衆化や研究分野の細分化のほか、インターネットの登場を指摘した。


 「個人がネットを通じて世界に発信できるようになったのは悪いことではない。ただ、書かれていることが真実かどうか、怪しいものもある。その点、新聞はしっかり裏を取っている」と説明。文化部時代、有名な芸能人や作家が亡くなったという情報が入っても、遺族に確認が取れるまで記事にはできないというジレンマに神経をすり減らしたエピソードを披露した。


 「ますます広がるネット論壇と、新聞など既存メディアが互いに補い合いながら、社会の様々な難問を解決していく知恵を生み出せるか。それが我々に問われている」と締めくくった。


 受講した学生からは「論壇が社会問題について侃々諤々(かんかんがくがく)の議論がなされる場ということが実感でき、文化人への取材も非常に楽しいだろうなと思った」「こんな時代だからこそ、新聞という信頼性の高い媒体が大きな価値を持ち始めるのではないか」などの感想が寄せられた。

(2021年6月23日 16:31)
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