「全国ユース環境活動発表大会」(主催=環境省など、後援=読売新聞社)が2月8、9の両日、都内で開かれた。焼却処分されている発色の悪い大量のニシキゴイを魚醤(ぎょしょう)や肥料として有効活用する広島県立世羅高校が環境大臣賞、特定外来生物に指定されている北米産のウチダザリガニの駆除や利用に取り組む北海道美幌高校が読売新聞社賞を受賞した。
同大会は、国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs=エスディジーズ)」への貢献をめざす高校生を応援するために開かれ、今年5回目。全国8地域で地方大会を開き、計162校が応募。上位各2校、16校が全国大会に出場した。
初日は各学校の生徒が混成チームを作って、SDGsが目標達成の締め切りとしている2030年に生徒自身がどんなことをしていて、SDGsの課題解決にはどんな貢献をするのかを話し合った。2日目は、各校が活動内容を発表。審査と会場からの投票の結果、世羅高校など6校が入賞した。
■受賞校
環境大臣賞 | 広島県立世羅高校 |
読売新聞社賞 | 北海道美幌高校 |
環境再生保全機構理事長賞 | 京都府立木津高校 |
国連大学サステイナビリティ高等研究所長賞 | 青森県立名久井農業高校 |
高校生選考賞 | 愛媛県立上浮穴高校 |
先生選考賞 | 石川県立翠星高校 |
SDGsの課題達成の目標年に、生徒たちは何をしているのかを話しあうワークショップ |
各校の生徒たちは、練りに練ったプレゼン手法で活動発表に臨んだ |
環境活動の質 新ステージへ
小川祐二朗
(読売新聞教育ネットワーク事務局)
環境大臣賞を受賞した広島県立世羅高校の「鯉米」プロジェクトが始まったのは、2017年。農業経営科を今春卒業する荒木舞桜里(まおり)さん、友宗龍希(ともむねりゅうき)君らが1年生の時に聞いた宮本紀子教諭の「農業と環境」という授業が出発点だった。
クラスメートの実家が営むニシキゴイ養殖場で、「1年間で生まれる稚魚400万匹のうち、発色の悪い396万匹は焼却処分される」と聞いて、たじろいだ。「なんとかならないか」。最初に実行したのは「アイガモ農法」ならぬ「コイ農法」。水田に放流したコイに雑草や害虫を食べてもらうアイデアだったが、「河川に流出したら生態系が狂う」と県から中止勧告を言い渡されてしまう。
それではと、魚が材料のしょうゆ「魚醤」をつくるが、魚の腐った臭いがひどい。校内で文字通りの鼻つまみ者になった末、学校での製造・販売は衛生上、不可とわかる。その悪戦苦闘ぶりには同情してしまうが、2人はあくまで陽気に語る。聞けば「実験が楽しくてしようがなかったから」という。
こうした活動が認められ、2人は大学のAO入試に今春合格し、大学生になる。「卒業後は地元で就職する」と考えていた生徒たちが「もっと勉強したくなった」と言う。宮本教諭は「学校の授業だけでは生徒たちは成長しない。困った場面でいろいろ突っ込まれないと」と話し、「その点、プロジェクト学習は育てる有効な手段」と続けた。
できた魚醬の香りを確認する県立世羅高校の荒木舞桜里さん(左)と友宗龍希君(県立世羅高校で) |
塩分濃度や温度などをさまざまに変え、おいしい魚醬づくりを目指す(宮本教諭提供) |
伝統技法を現代の視点で
今年は、世羅高校のような高いレベルの発表が複数あった。審査委員長の小澤紀美子・東京学芸大名誉教授は「ステージが変わったのでは?」と評した。他の審査員も同感だったようだ。
環境再生保全機構理事長賞の京都府立木津高校は、レジ袋が海洋環境悪化の原因になっていることから、地元特産の渋柿の汁(柿渋)に耐久・耐水・消臭効果があることに着目。柿渋を紙袋に塗ってレジ袋の代わりに使おうと考えた。
新聞紙で作った袋に柿渋を塗ったものと、そのままのものとで耐水性や耐久性などを調べる実験を披露する京都府立木津高校 |
国連大学サステイナビリティ高等研究所長賞の青森県立名久井農業高校はアフリカの乾燥地での土壌流出防止と食糧増産のため、耕作地での集水・施肥手法を開発した。ヒントを得たのは日本家屋の玄関などに使われてきた伝統技法「三和土(たたき)」。両校とも古くからある技法を現代の視点からアレンジした。
大人を超えた発信方法
特定外来生物である北米産ウチダザリガニの駆除と利用の方法をさぐり、読売新聞社賞を射止めた北海道美幌高校など、地元の課題をコツコツと調査し、解決に導こうとする研究も複数あった。この大会の伝統だが、実証研究を積み重ねて「データ」で語る手法は大学生レベルといえる。行政や企業を巻き込んで活動の質を高め、幅を広げていく手法も大人顔負けだ。
インターネットやSNSを使った活動の発信方法にいたっては、もはや大人の上をゆく。研究したキノコを題材にロールプレイングゲームまで作ってしまう北海道標茶高校のような研究もある。国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向け、高校生たちはまさに「新しいステージ」に来た。
貧困から気候変動、生物多様性保全まで、SDGsが課題解決をめざす17の目標についての現状分析を網羅的に掲載しているのが新聞だ。課題発見の道具として、高校生たちも新聞に目を通してみてほしい。