佐藤康光九段の長考「3時間33分」と柚月裕子さんが描いた「覚悟の一手」...全国大学ビブリオバトルで明かされた将棋秘話

ビブリオバトルのトークセッションに登場した佐藤九段(右)と柚月さん=若杉和希撮影

 活字文化は「長考力」で守る――。将棋棋士・佐藤康光九段と作家の柚月裕子さんが12月22日、「全国大学ビブリオバトル2024」にゲストとして登壇し、「盤上の向日葵」トークを繰り広げた。読書好きな学生らは、勝負の世界に生きるトップ棋士の矜持や、将棋と文学の接点など、熱を帯びた会話に真剣に耳を傾けていた。

 

 全国大学ビブリオバトル2024は東京都世田谷区の昭和女子大学で行われ、「天衣無縫」の佐藤九段と、棋士の真剣勝負を盤側で見届け、観戦エッセーを書いた経験を持つ柚月さんがトークセッションで「長考」について考察した。佐藤九段は1手に3時間33分考えた竜王戦七番勝負を振り返り、「1時間を超える長考では、実は迷っていることが多い。その時も6手後に羽生善治九段に読んでいない手を指され、ショックが来てしまい負けました」と率直に明かした。

 報われなかった大長考。勝負の世界の切なさを含んだ話に聞き入っていた柚月さんは「棋士の一手の重みを感じた」と盤側での思いがよみがえった様子だった。将棋を題材にした小説・盤上の向日葵について「棋士の覚悟の一手、強い決意を書けたらいいと思った」と説明し、佐藤九段は「将棋を知らなくても真剣な情景が浮かぶ小説で、棋士としてありがたかった」と話した。

 

 大学生に勧めたい本について、佐藤九段は山口瞳さんの「礼儀作法入門」を挙げた。ちなみに、亡き山口瞳さんは文壇きっての将棋愛好家だった。柚月さんは「かもめに飛ぶことを教えた猫」(ルイス・セプルベダ)を「全年代におすすめ」として紹介した。

 決められた持ち時間での書評コンテストでもあるビブリオバトルで佐藤九段と柚月さんは入賞者へのプレゼンターも務めた。特別賞に選ばれた学生には2人のサイン入りの著書が贈呈された。ビブリオバトルの準決勝・決勝などを聴講した佐藤九段は大学生の純真な本の紹介に引き込まれていた。佐藤九段も柚月さんも、席から学生に質問をして、会場を大いに沸かせていた。(デジタル編集部・吉田祐也)


 ※読売新聞オンラインから転載した記事です

 ※全国大学ビブリオバトル2024の写真特集はこちらから

(2025年1月 9日 12:30)
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