立正大・兎澤友紀さんに栄冠、自身の不登校体験まで「出し切りました」【特集】全国大学ビブリオバトルinながさきピース文化祭2025

 大学生らのオススメ本日本一を決める書評合戦「全国大学ビブリオバトル in ながさきピース文化祭2025」が11月23日、長崎県佐世保市のアルカスSASEBOで開かれた。全国の地方大会を勝ち抜いた30人が熱戦を繰り広げ、立正大学1年兎澤(とざわ)友紀(ゆうき)さん(18)が発表した小説「地球星人」(村田沙耶香著、新潮社)が聴衆500人から最多票を集め、グランドチャンプ本に選ばれた。地方大会には105校の3978人が出場した。

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グランドチャンプ本「地球星人」
村田沙耶香著/新潮社

 ラストの衝撃 地球外レベル

兎澤友紀さん(18)立正大学文学部1年


 果たして、この本に出会って良かったのか、悪かったのか。

 小学5年生の奈月(なつき)は、家族から虐待され、「感情を捨てるゴミ箱」のように扱われる。塾講師からは性的行為を強いられ、ショックのあまり味覚を失う過酷な日々を送る中、いとこの由宇(ゆう)と「なにがあってもいきのびること」を誓いあうが......。

 「ラストの衝撃は、地球外レベル」「この本を読んだら、あまりの刺激に他の本がかすんでみえる」。実際に、自分自身、中学3年の春にこの本に出会った時は、吐き気をもよおすほどの大きなショックを受けた。ちょうど学校生活で悩んでいたところに、追い打ちをかけられた。心身が不調になり、そのまま不登校になった。

 ビブリオバトルに出会ったのは、進学した通信制高校の授業だった。本の持つ魔力を伝えるイベント。回数を重ねるうちに訴えたくなったのは、「『普通に』生きづらさを覚える主人公が追い詰められ、最後に爆発する時の破壊力。そのすごさを鮮烈に、あますところなく表現する村田作品のやばさ」だ。

 ようやくたどり着いた全国大会では、村田作品の中でも、自身の人生を変えたとっておきの一冊で勝負した。5分間の発表の最後まで、熱気のこもった紹介は続き、観客の心をくぎ付けにした。「伝えたいことはすべて出し切りました」

 不登校になったのも自分の人生だ。悔いなんかない。もちろん、冒頭の問いにも自信を持って答えられる。

準グランドチャンプ本「異常」
アノマリーエルヴェ・ル・テリエ著、加藤かおり訳/早川書房

 答えは 読んでのお楽しみ

浜本菜美さん(22)県立広島大学地域創生学部4年


 旅先の新大阪駅構内。書店にふらっと立ち寄ると、真っ赤な表紙の上に書かれた題名が飛び込んできた。広島に向かう新幹線の中で、ページをめくる手が止まらなくなった。

 フランス人作家によるエンタメ系ミステリー。弁護士や少女、建築家、歌手......パリからニューヨークへ向かう旅客機に乗り合わせた様々な職業や年齢の乗客10人が、理由も明かされないまま、米連邦捜査局(FBI)に連行される。

 「えっ、なんで?と違和感を感じながら読み進めていくと、今度は機中でのトラブルから異常事態にぶち当たることになります」

 大好きな表紙の色に合わせるため、母親から借りた真っ赤なセーター姿で、はつらつと発表した。

 本当は全部話してしまいたいけれど、本を読んだときの新鮮な驚きは楽しんでほしい。「作品中の異常事態というのは、ふだんの生活で遭遇するものですか?」と観客に質問されても、「作品を読むと、あるのではないかと思うかも」と上手にかわした。

 「ラストシーンで、ある著名な人物が衝撃的な行動に出ます」。発表をそんなふうに結んでみたら、閉会式後、ゲストの脚本家・金沢知樹さんに舞台袖で呼び止められた。「その人物ってイエス・キリストじゃない?」「違います」「違う? 自信あったのになあ」。本を通して周囲と会話が弾む。ビブリオバトルっていいなっと、改めて思った。

ゲスト特別賞「ある行旅死亡人の物語」
武田惇志、伊藤亜衣著/毎日新聞出版

 どんでん返しの演出 実は...

和田拓磨さん(22)日本大学通信教育部文理学部1年


 「右手の指が全部ない人が、現金3400万円を残し、玄関で亡くなっていた」「市役所に該当人物のデータがない」。数々の謎はページをめくっていくと......。

 何らかの作為や答えがある小説より、むずがゆいけれども現実的な着地点があるノンフィクションが好きだ。この本でも、わずかな手がかりを残して死んだ女性のことを調べる記者の取材活動を、「自分も一緒に身元を追いかけているような気持ちで」追いかけた。

 発表は、あくまでミステリー小説風に紹介した。最後まで「実話」であることは伏せた。演出は大成功。どんでん返しを食らった観客席から、「へぇー」という声が漏れた。

 来年の高知大会にも意欲満々だ。「ライブ感を大切に、訴える力を磨きたい」。もっとたくさんの「へぇー」の声を聞くために。

ながさきピース文化祭2025特別賞「口外禁止」
下村敦史著/実業之日本社

 AIか人間か 客席に問う

平山愛実さん(20)福岡女子短期大学文化教養学科2年


 Wi-Fi(ワイファイ)とかけて恋人の機嫌と解く、その心は? どちらもキレると不安定になります。

 軽快な口調で切り出すと、「実はこれ、AI(人工知能)が考えた謎かけなんです」。いたずらっぽく笑った。

 AIと人間のどちらを信じるべきか。主人公の恵介は、予知能力まで発揮するAIからの、「あなたの人生、プロデュースします」との申し出に乗るが......。

 「恵介の人生は好転するか破滅するか、どちらだと思いますか」。問いを絡め、客席と心を一つにした。

 本の中で見つけた自分の「好き」を伝えるビブリオバトル。高校生で始めてから、どんどん人前で話ができるようになった。ゲストの俵万智さんから「良かったよ」と声をかけられ、自分の好きがちょっと認められた。夢みたいだった。

俵万智さん、金沢知樹さん 学生時代語る


 決勝前のトークセッションでは、歌人の俵万智さんと脚本家の金沢知樹さんが創作の道に進んだいきさつや読書について語った。

 俵さんが「学校の先生への憧れが行動するエネルギーとなった」と高校や大学時代を振り返ると、金沢さんも「中学の先生に『お前は文才があるから少女漫画と官能小説を読め』と言われてたくさん読んだ」と明かして、会場を沸かせた。

 2人のオススメ本も発表。俵さんは「本が人を結びつけ、その舞台を書店にしている。ビブリオバトルの必読書」として金沢さんの小説「ぼくの姉ちゃんとセックスしてください」(主婦の友社)を紹介。シジュウカラの研究者によるエッセー「僕には鳥の言葉がわかる」(鈴木俊貴著、小学館)も推奨した。

 金沢さんは俵さんの「サラダ記念日」(河出書房新社)を手に「45分のドラマを作るのに1万文字の脚本が必要なのに、31文字に物語がある。言葉のチョイスがえげつない」として、お気に入りの歌を読み上げるなどした。

軽妙なトークで会場を沸かせた歌人の俵万智さん(左)、脚本家の金沢知樹さん

【主催】文化庁、厚生労働省、長崎県、第40回国民文化祭第25回全国障害者芸術・文化祭長崎県実行委員会、活字文化推進会議

【共催】ビブリオバトル普及委員会、ビブリオバトル協会

【主管】読売新聞社

【協力】松竹芸能

【後援】日本書籍出版協会、日本書店商業組合連合会、文字・活字文化推進機構

 

高校ビブリオバトル 観覧はこちら

 「本の甲子園」第12回全国高等学校ビブリオバトルが2026年2月8日(日)、TAKANAWA GATEWAY CITY(東京都港区)で開かれる。ゲストに作家の宮部みゆきさん、女優の豊嶋花さん、JR東日本社長の喜勢陽一さんを迎える。

 >>観覧申し込みはこちらから
(2025年12月29日 11:00)
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