「みなさんも犯人当てて」と挑発した沖縄代表が頂点に【特集】第9回全国中学ビブリオバトル

 中学生のオススメ本日本一を決める「第9回全国中学ビブリオバトル」が3月22日、東京都千代田区のよみうり大手町ホールで開かれた。沖縄県代表の沖縄市立宮里中3年、金城果那紗さんが紹介した小説「すべてがFになる」(森博嗣著、講談社)が観客400人から最も票を集め、グランドチャンプ本に輝いた。3年ぶりの東京開催となった今大会には、府県大会や広域大会などの代表42人が出場した。(学校・学年は大会当時)。

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グランドチャンプ本「すべてがFになる」
森博嗣著/講談社

 「理系」ゆえ感じる楽しさ

金城きんじょう 果那紗かなささん 沖縄市立宮里中3年


 本を読む人は「文系」で、本を書く人も「文系」だと思っていた。自身は、理科と数学が大好きな「理系」。本の世界とは少し無縁かも。そんな思い込みを吹っ飛ばしてくれたのが、この作品だ。「理系の人が書いた本で、こんなに楽しめることに驚きました。作者のセンスがすごいんです」と、元気いっぱいに観客に伝えた。

 孤島にあるハイテク研究所の密室で、連続殺人事件が発生する。ゼミ旅行でたまたま現場に居合わせた大学助教授と女子大生が事件の真相に迫っていく......。

 作品が発売されたのは、インターネットがようやく社会に広がり始めた1996年。にもかかわらず、作中ではオンラインミーティング、コンピューターウイルス、サイバー空間など、現代とまったく遜色ない世界が描かれる。大ファンである名探偵コナンのように、論理的に粘り強くトリックを解明していく主人公たちの姿が面白い。作品を薦めてくれた学校の司書さんからは「工学博士が書いた本だから難しい用語や文章も出てくる。でも、そこは読み飛ばしていいからね」と言われたけれど、500ページを読み切るのはあっという間だった。

 真っ白な背景にブロックでFの字がデザインされた装丁は、スタイリッシュで何かを想像させるようで格好いい。そんな表紙の本をいとおしそうに掲げ、「私はこの本のあらすじを読んで犯人が分かりました。私に挑戦したかったら、みなさんもあらすじを読んで犯人を当ててください」と観客を"挑発"して発表を締めくくった。

 4月から進学するのは、国立沖縄工業高等専門学校(沖縄県名護市)の生物資源工学コース。「理系に行っても、ビブリオバトルは続けていきたい」。理系だからこそ味わえる読書の楽しさもある。

準グランドチャンプ本「普通の底

月村了衛著/講談社

 「普通」とは 葛藤を披露

松村隼輝はゆきさん 東京都杉並区立向陽中2年


 気持ち悪い。

 みなさんも、この小説を読んだら、きっと同じように感じるはず。それは、私たちが主人公と同じ、「普通」の人だから。

 観客に問いかけたかったのは、作品の主題である「普通」の意味だ。主人公の川辺優人は、「普通」であることにこだわったあげく、強盗殺人を犯して死刑囚になる。川辺がその経緯をつづった3通の手紙と覚書で構成される作品から感じた「もやっとしたもの」も伝えたかった。

 作品は、本の話が大好きな国語の先生から薦められた。最初は、川辺のいろんな考えに共感できたし、がんばっている感じも見つけられた。でもページが進むうちに、「普通」と言っているにもかかわらず、「普通じゃないもの」を求めているのではと思うようになり、最後は気持ち悪くなってくる。

 でも、気持ち悪いだけじゃ表現できない何かがある。「普通」や「普通じゃない」とはどういうことなのか。作品を何度も何度も読み返してその正体を探ったが、今もその答えはもやっとしている。発表では、そんな自身の葛藤も披露した。

 決勝前のトークショーで、ゲストの中江有里さんが「10代の頃に本を読んだけど、意味が分からなかった。でも、何年か後に意味が分かったことがある」と話していた。今はまだ答えが出ていなくてもいいかも。少しホッとしている。

ゲスト特別賞「目でみる日本史」
岡部敬史著、山出高士(写真)/東京書籍

 歴史のワクワク感伝え

小村花さん 長崎県佐世保市立祇園中2年


 「普通なら岐阜城の写真を撮る。でもこの本は、城から見た景色、織田信長が見た景色を撮っているんです。もし、信長が、この景色を見て天下統一を意識したのなら、この景色が歴史を大きく変えたとも言えます」

 中大兄皇子、清少納言、平清盛、徳川家康、佐々木小次郎、吉田松陰、近藤勇、夏目漱石、吉田茂、三島由紀夫......教科書に出てくる歴史人物の目線にこだわった斬新なコンセプトの写真集を紹介したのは、「歴史のワクワク感を知ってほしい」からだ。

 歴史と言えば、年号や人物名など、覚えることばっかり。自分も少し苦手意識があったけれど、1年時の冬休み、宿題が面倒になり、気晴らしに見た歴史モノのユーチューブ動画で、自分の世界が広がる感動を味わってしまい、以降は大の歴史好きに。歴史があっての現代だし、知っておくべき教訓もたくさんある。何より、時代が動くロマンには大きく心が揺さぶられる。

 発表の締めは、現実的な御利益も盛り込んだ。「この本で社会の成績も上がります。自分の成績も上がったので」

 発表では誤算もあった。学校と同じでみんな歴史が苦手だと想定したが、歴史好きな人に挙手をしてもらったら、予想外に多くの手が挙がった。とまどってしまい、言えなかったことがある。「この本で歴史の沼にはまってください」。歴史にワクワクする仲間はたくさんいてほしい。

「ピンチ救ってくれた一冊」や最近のイチオシ本紹介

 トークショー 中江有里さん×金沢知樹さん


 大会では、女優で作家の中江有里さんと脚本家の金沢知樹さんのトークショーも行われ、それぞれの読書への思いが語られた。

 中江さんは、芸能活動のために大阪から上京した高校時代を振り返り、「大阪の言葉恋しさにすがるように宮本輝さんの本を読んだ」と明かした。

 ピンチを救ってくれた一冊として紹介したのは、「人は変われる」(高橋和巳著)。思い悩んでいた20代に感銘を受け、十数年後に文庫化される際に解説文を依頼された。「感慨深かった。自分自身、何年もかかって少しは変われたと思うし、その結果、解説を書かせてもらうことにつながった」と語った。

 金沢さんは少年時代に自宅で読んだ「十五少年漂流記」(ジュール・ヴェルヌ著)の感動を披露。「二段ベッドを毛布で覆ってライトをつけて本を読んでいたら雨音がきこえるし、嵐のなか船にいる感覚になった。映画よりテレビより物語の中に深く入っていった」と話した。

 最近読んだイチオシ本として中江さんは「夜明けのハントレス」(河﨑秋子著)、金沢さんは「箱の中」(木原音瀬著)を挙げた。

本の魅力について語り合う中江有里さん(左)と金沢知樹さん

【主催】活字文化推進会議

【主管】読売新聞社

【協賛】日本書籍出版協会

【協力】松竹芸能

【後援】全国学校図書館協議会、日本書店商業組合連合会、文字・活字文化推進機構、ビブリオバトル普及委員会、大日本印刷、文部科学省

 

 ※この事業は、一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)の共通目的基金の助成を受けて実施されました。

(2026年4月24日 19:10)
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