次世代につなぐ 横浜「うみ博」2019

この記事は、教育ネットワーク参加団体「海洋都市横浜うみ協議会」のイベントを読売新聞教育ネットワークが取材したものです

 

 見て、触れて、感じる海の世界――。7月20日(土)と21日(日)の両日、横浜市西区の大さん橋ホールを主会場に、「うみ博」(主催・海洋都市横浜うみ協議会)が今年も開催され、計2万3千人の家族連れなどでにぎわった。

 

 4回目を迎え、ワークショップや体験乗船などを楽しむ市民向けの夏休み行事としてすっかり定着。時勢を反映し、海洋ごみ処理をする専用船が公開され、小学生向けに持続可能な開発目標(SDGs)を分かりやすく伝える大学生たちによるステージプログラムも登場した。写真と動画も交え、その一部を紹介する。(教育ネットワーク事務局・秋山哲也)

 

横浜・八景島シーパラダイスの「ふれあいラグーン」からやってきたケープペンギンのモミジちゃん。飼育員の新井かおりさんから紹介され、ステージに登場すると、小どもたちの人気の的に

 

 

巨大! 自動車専用船が入港

 20日午前10時、大さん橋埠頭に日本郵船の自動車専用船「ARIES LEADER(アリエス・リーダー)」(全長199.98m、69931総t)が横付けされた。

 

大さん橋(手前)に接岸された「アリエス・リーダー」。会場の「大さん橋ホール」は、緑の芝生で覆われた部分の下にある。高い場所から見ると、同船の巨大さが一目瞭然だ。

 

 「アリエス・リーダー」は船内の1階から12階に7000台もの自動車を搭載できる。貨物室では、熟練ドライバーによる荷役デモンストレーションも行われた。車が横間隔10cm、縦間隔30cmで手際よく停められていく様子を母親と見学した横浜市の小学5年生の男の子は、「車と車の間がとても狭いのでびっくりした」と感想を話した。

 

 また、操舵室では現役船長が見学者に説明したり、記念撮影したりするなごやかな光景も見られた。

 

「アリエス・リーダー」の内部は建設中のビルの骨組みのよう

 

 今年6月、海上交通の要衝・ホルムズ海峡付近のオマーン湾で、日本の海運会社が運航するタンカーが何者からの攻撃を受ける事件があった。日本が輸入する原油の約8割はここを通り、「アリエス・リーダー」も通過することがある。船橋で見学者対応にあたっていた日本郵船・海務グループ安全チームの船長・本元(ほんがん)謙司さん(44)によると、「事件以来、警戒態勢は続いています」という。

 

 

海を舞台に活躍する女性たち

 「海の女子会」は、海で働く女性が登場する毎年好評のステージプログラムだ。働き盛りを迎えた5人の女性が、それぞれの仕事ややりがいについて語った一部を紹介しよう。

 

(左から)村松渚沙さん、渡邊晶子さん、道姓真帆さん、田部井裕美さん、金子涼子さん

 

村松渚沙 さん

海技教育機構・二等機関士

 昨日「青雲丸」で横浜港に入港したばかりです。年間9か月は船に乗っていますが、3か月間は休みをもらえます。その間は自己啓発などにもあてられるところがうれしいですね。次世代を担う船員教育にも大きなやりがいを感じています。


渡邊晶子(あきこ) さん

白石海運株式会社・大島丸機関員

 安全に航海することが基本ですが、荷物を運び、その荷揚げが終了した時に大きなやりがいを感じます。


道姓(どうせい)真帆 さん

海上保安庁第三管区海上保安本部横須賀海上保安部管理課

 島国である日本の海を守る仕事は、普通では就くことのできない職業です。子育てが落ち着いて現場復帰し、夫婦で働く海上保安官も増えています。組織として女性に重要なポストを与えようとしていることも、仕事を続ける大きな励みとなっています。


田部井裕美(ゆみ) さん

東京湾水先区水先人会水先人

 大事な荷物を積んでいるお客様の船に乗せていただき、東京湾の入り組んだところでは船長のアドバイザーとして操舵手に直接、舵角やコースを指示しています。岸壁への接岸は特に危険ですが、外国の船長さんから「グッジョブ」と言われる時が、この仕事をしていて良かったと感じる瞬間ですね。留学経験はありませんが、仕事なので英語でのコミュニケーションも苦にならないです。以前は航海士になることも考えましたが、外航船舶に乗船してしまうと、半年は自宅に戻れないため、子育てしながら毎日帰宅できるこの仕事を選びました。2007年に改正水先法が施行され、若い世代が水先人として活躍できるようになったことも追い風になりました。


金子涼子 さん

国交省関東運輸局海上安全環境部・船舶検査官

 建造中から船の検査業務にあたっています。自分が検査に携わった船が出港していくときの喜びは、何ともいえないくらいうれしいです。

 

 

高性能のタグボートにびっくり!

 コンテナ船やタンカー、自動車専用船はとても大きいため、補助がないとスムーズな停泊や出港ができない。そこで、馬力があり小回りがきくタグボートが必要とされる。「女子会」に登場した水先人・田部井さんも、岸壁に近づくと大型船の支援をするタグボートに無線連絡をとるのが常だという。

 

 2日目の日曜日、そんなタグボート「魁(さきがけ)」(272総t)と「翼(つばさ)」(256総t)の2隻による乗船体験会が開催された。「魁」は日本初のLNG燃料タグボートだ。

 

タグボート「魁」(手前)と「翼」の先端で押し合いへし合い、勝負はどちらに

 

「魁」が巨大な自動車運搬船の側面にタッチ

 

 レインボーブリッジをくぐり、往来の少ない海域に入ると、2隻のタグボート同士が先端部を押しつけ合う「相撲」をしたり、シンクロするように同じ場所で回転したりするパフォーマンスを見せ、その様子に見学者は大喜びだった。港に戻ると、停泊中の「アリエス・リーダー」の船体にタイヤがへこむくらい接触させ、大型船の入出港時などに行う本来の仕事の一端を披露してくれた。

 

 将来は大型船の船長になりたいという小学2年生の上田陸然(りくぜん)君は、父親の聡志さんと一緒に「魁」に乗船、「湾内で停止しながら360度くるくると回る様子には本当にびっくりした」と感想を語った。

 

タグボート「魁」の操船を体験する上田陸然君

 

●動画はこちら(1分)

 

 

航路の安全を支える清掃船

 全国で最も行き交う船が多い東京湾で、湾内の安全確保に欠かせない清掃兼油回収船「べいくりん」(199総t)も公開された。国交省関東地方整備局が所有する双胴船で、二つの胴体部の真ん中に、ゴミや油の回収装置がある。

 

公開された清掃兼油回収船「べいくりん」

 

 同船は7月はじめ、羽田沖を漂流していたクジラの死骸の回収作業に動員された。備え付けの多関節クレーンを使ってロープをかけ、東京港までえい航作業にあたったという。

 

 現在、海洋プラスチックなど海の浮遊ごみが問題となっているが、土屋三郎船長(58)によると、「大雨の後などには多くなりますが、環境意識の高まりもあって、東京湾内では減少傾向です」という。

 

 美しい東京湾を次世代に残すため、湾内の海域850平方kmの環境整備に日々取り組む。

 

「べいくりん」の金属製のスキッパー(かご)

 

 

大学生が小学生に教えるSDGs

 21日午後のステージプログラムでは、横浜市立大学舞岡キャンパスと国際総合科学部の3年生を中心とするグループが、プレゼンテーション「麦わらストローで明日の海を考える」に臨んだ。学生たちは日頃、麦のゲノム研究などで世界的に知られる木原生物学研究所の坂(ばん)智広教授(専門・植物遺伝資源学)から、資源生物利用学の講義で循環型社会の実現について学んでいる。

 

 海洋プラスチック問題の象徴として、その必要性が議論されているプラスチックストロー。そもそもStraw(ストロー)は英語で「麦わら」を意味し、昔は麦の茎を利用し自然にかえるものだった。学生たちの研究対象である麦の穂から、茎の部分である「麦わら」に目を向け、SDGs(持続的開発目標)について、将来の担い手である小学生たちに伝えるのが狙いだ。

 

 クイズ形式を取り入れ、テンポ良く海洋プラスチック問題を伝えていく。美しい写真も交えながら、「人間は、多種多様な生物とともにこの地球で暮らしている。そのおかげで陸の豊かさ(陸の生態系)と、海の豊かさ(海の生態系)の両方の恩恵を享受することができるんだよ」と優しく語りかけた。

 

 まとめのワークショップでは、油性マジックで思い思いに着色したプラスチックカップを、オーブントースターでコイン型のキーホルダーに変身させた。小学生たちは、プラスチックカップが全く別の姿に変わっていく様子を目を輝かせながら見つめ、再生利用の観点を学んだ。

 

 「視点を変えてみることがとっても大切。1人1人の努力が、みんなの未来を作っていくんだよ」。メンバーの1人、吉原幸之介さんは小学生たちに呼びかけた。

 

子どもたちに自然にかえる麦わらストローを手にしてもらい、プラスチックストローとの違いを理解してもらう

 

プラスチックコップがキーホルダーに変身

 

 

「海を日常に」海中観光の夢実現へ

 2017年のうみ博に初出展したオーシャンスパイラル(株)は今年もブースを構え、誰もが安全・快適に海中の世界を訪れる夢の実現が、すぐ目の前まで来ていることをアピールした。

 

1/30スケールの模型を前に「夢を持った日本初のベンチャーとして、世界に誇る企業に成長できたらうれしい」と語る米澤社長

 

 アクリル製の球体(シーバルーン)に乗り込んで海の中を観光する世界初の事業は、2021年4月に開始予定。今年の6月には日本記者クラブでパートナー企業などの記者発表も行われた。最初は日本の沖縄と中南米のタヒチで行われる可能性が高いが、ゆくゆくは全世界のリゾート地で展開しようと準備中だ。

 

 米澤徹哉社長は「前例のないベンチャー事業をここまで進めることができた。このバルーンは、一緒に乗り込む人との感動体験の共有のみならず、SNS等で世界中の人とコミュニケーションできる装置となっている。体験を重要視している若い世代にも、豊かで心に刺さるサービスを提供していきたい」と語った。

 

母船から降ろされるバルーンは直径3mで5人乗り。水深100mよりも浅い海中の景色を、じっくり楽しむことができるという(オーシャンスパイラル提供のパンフレットより)

 

取材を終えて

 「うみ博」を訪れたのは昨年に続き2回目だが、何度見ても自動車専用船の大きさとスケールには圧倒される。また大学生のワークショップでは、こういった形でSDGs(持続的開発目標)貢献について伝えられるということを、私自身学ぶことができた。(秋山哲也)

 

(2019年8月 2日 15:57)
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