高校生が海洋プラスチック汚染の対策発表「イオン未来の地球フォーラム」

壇上で発表を待つ生徒たち

 公益財団法人イオン環境財団主催による「第4回イオン未来の地球フォーラム いま次世代と語りたい未来のこと ─海の環境と資源を守る─」が2020年2月1日、東京大学安田講堂で開かれた。本テーマに基づき基調講演の後、高校生による研究発表を含むパネルディスカッションが行われ、約800人の観客が聞き入った。

 

 発表したのは、お茶の水女子大学付属高校、横浜サイエンスフロンティア高校の生徒たち。埼玉県環境科学国際センター総長・植松光夫氏による講義と3回のワークショップを通して、海の環境への知識を深め、問題解決に向けた海洋プラスチック汚染への対策を検討してきた。

 

自販機からペットボトルなくす活動

 お茶の水女子大学付属高校の生徒たちは、海洋プラスチック汚染にかかわる様々な情報を調べ、自分たちの視点で議論。根本的の原因について、近年成長が著しいアジア圏でのごみ処理技術の不足と意識の低さ、そしてプラスチックの大量消費にあると指摘した。

 

 さらに、世界の海岸で回収されたプラスチックごみの内訳を調べたところ、ビニール袋が7.2 %に対し、ペットボトルが13%だったことに着目。日本国内のペットボトルのリサイクル率は84.6%で、残る9万トンの行方が分からないことを挙げ、ペットボトルの消費量を減らすためのアクションプランを立案した。

 

 生徒たちは、自らの高校に設置された自動販売機2台からペットボトルをなくすことを立案。全校生徒の了承を得られ次第、要望書を提出する予定という。さらに大学敷地内にある22台すべての自動販売機にも適用を広げたいとして、署名活動をしたり、環境問題に関心の高い大学教員らに協力を仰いだりすることを考えている。ペットボトルをなくす場合に備え、気軽に給水できる設備も併せて要望したいとした。

 

 同校では、世界にこの活動を発信するために、ホームページ「まいぷら」を立ち上げた。対応言語は日本語と英語。「活動をより広げるため、さらに多くの言語で発信していければ」と生徒たちは語る。

 

昆虫や牛乳、酢の利用も

 横浜サイエンスフロンティア高校の生徒たちは、理工学分野の視点を交え、海洋プラスチックを「回収」、「分解」、「代替」の3つの段階に分けて研究した。

 

 「回収」では、海に漂うプラスチックごみの多くが川から流入していることに着目。V字の物体を水面近くに設置し、川岸でごみを集める仕組みを考案した。しかし、この仕組みでは、水中に沈んだごみを取り逃がすことに気づいた。水中に物体を設置すると、水中の生物を巻き込まない工夫が必要であること、あるいは船の走行を邪魔してしまう点が課題だという。

 

 「分解」では、プラスチックを分別し、発砲スチロール(ポリスチレン)を分解する昆虫「ミールワーム(チャイロコメノゴミムシダマシ)」を使うことを試みた。体調3センチのミールワーム1匹が約20日で1立方メートルの発泡スチロールを食べて成長したという。さらには、ビニール袋等の原料となるポリエチレンについても、分解する可能性があるとした。この施策には、たくさんのミールワームが必要で、飼育のスペース、共食いの可能性も課題だとした。今後の展望として、消化のメカニズムを解明すること考えている。

 

 最後に「代替」の技術として、牛乳と酢を使って「牛乳プラスチック」を作成した。これは牛乳に含まれるたんぱく質(カゼイン)を固めたもの。沸騰させた牛乳に酢を入れ、浮いた粒をこし取って成形し、焼く、または乾燥させた。いずれの方法でも、牛乳の匂いがすることと、耐水性に劣ることが課題だった。

 

 焼いた方は固いため、容器として活用。乾燥させた方は緩衝材や消しゴムに活用できるとの意見が出たという。しかし、いずれも耐水性の弱さは大きな問題となるため、ミールワームが分解できるというポリエチレンのフィルムで補強することで対応した。「加工しづらい点はあるが、環境にやさしいプラスチックができた」と結論づけた。

研究成果について話す横浜サイエンスフロンティア高校の生徒

学会レベルのやり取り

 同校の発表を受けて、パネルディスカッション参加者の九州大学応用力学研究所 教授・磯部篤彦氏磯辺教授は、「分解とは無機物と炭酸ガスになることを指す。ミールワームの研究は、大きなプラスチックをさらに細かく砕く『破砕』なのでは」と指摘。これに対し生徒たちは、「分解とは個体が成長するかを基準にしている。発泡スチロールを食べて成長しているので、分解していると判断した」と答えた。パネルディスカッションのモデレーターを務めた東京大学大気海洋研究所の牧野光琢教授は「このやり取りは学会レベルだ」と評し、会場を沸かせた。

 

海洋汚染、温暖化など議論

 フォーラムでは、海洋研究開発機構地球表層システム研究センター長・原田尚美氏、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻教授・金子豊二氏による基調講演。ココリコの田中直樹氏と埼玉県環境科学国際センター総長・植松光夫氏によるゲストトーク「海とわたし」の後、パネルディスカッションが行われた。

 

 パネルディスカッションは、牧野氏をモデレーターに、原田氏、磯部氏、京都大学学際融合教育研究推進センター特定研究員・法理樹里氏、東京大学大学院農学生命科学研究科 助教・黒木真理氏、イオン環境・社会貢献部部長・鈴木隆博氏が参加。プラスチックによる海洋汚染の現状、温暖化が招く海の酸性化や、ウナギを中心とした水産資源への影響、人々の環境意識の高め方について話し合った。イオンからは、小売店での取り組みとして、海の資源の持続可能な調達、レジ袋削減、9月に始まる予定のプラスック容器のリユースなどが紹介された。

(2020年2月27日 17:30)
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