読売新聞東京本社の写真出前授業「見る・撮る・伝える」(協力・キヤノン)に参加した児童・生徒の作品展「こどもの目線」が7月下旬、東京本社で開かれた。
2018年度に授業を行った小中学校のうち18校の児童・生徒の作品で、126点をパネルで展示、これも含めて許諾を得た全作品808点をテレビ2台で上映した。会場にはタブレット端末10台を置き、自由に全作品を見ることができるようにした。
子どもたちが撮り、自らタイトルと説明文を書いた作品の一部を紹介する。
※学年は2018年度当時。写真説明は児童本人が授業の中で書いた文章。グレーの囲みは読売新聞教育ネットワーク事務局の担当者のコメント
「忘れないよ」
和田 沙季(横浜市立義務教育学校霧が丘学園小学部6年2組)
にんちしょうのおじいちゃんは、いつも私ではなくお母さんたちの名前を呼ぶ。ある日、おばあちゃんたちが話していて、その場におじいちゃんと二人きりだったため、私が世話をしていたら「さきー」と呼んでくれた。私は思わず「忘れないでね」と伝えたら「忘れるわけないだろ」と言ってくれて、うれしかった。
おじいちゃんが薄く目を閉じて、腕を組んでいる。後ろにはテレビ。テーブルに急須と大好きなおせんべい。壁には飲み薬のポケット付きのカレンダーがかかっている。
写真を撮られるのが好きではなかったけれども、孫の沙季さんが向けるレンズの前では安心しきった表情を見せている。
昨年11月15日、写真出前授業の3回目の授業で、沙季さんはこの写真についてクラスメートの前で発表した。祖父・雅司さんは、その翌日亡くなった。71歳だった。
写真出前授業の1回目、講師を務める読売新聞教育ネットワーク事務局の横山聡カメラマンは「写る」と「撮る」の違いを子どもたちに説明する。いまのカメラは露出も焦点も自動、シャッターを押せば写る。しかし、撮ることはできない。思いを込めて被写体と向き合い、一瞬を切り取ること。それが「撮る」だ。
写真出前授業で、一眼レフカメラを使っているのもそのためだ。ファインダーのないコンパクトカメラやスマートフォンは、撮影する人は被写体を見ずにモニターを見る。だが、一眼レフカメラのファインダーをのぞけば、被写体が人物なら直接目が合う。
「ワクワクトンネル」
西村 朱葉(あげは)(東京都府中市立府中第三小学校5年4組)
カメラを持ち動物に会いに行く私。人と人、人と動物をつなぐ乗り物にはたくさんの発見があった。最初に見つけたのは、ワクワクする気持ちに握られた三角形の永遠に続く不思議なトンネルだった。
東京都日野市の高幡不動から多摩動物公園まで一駅だけの京王動物園線。母親と二人で乗った電車の車両にはほかに乗客がいなかった。朱葉さんは靴を脱いでシートに上がり、カメラのファインダーをのぞく。
「動物園に行くんだと、わくわくしている人たちに握られているつり革のトンネルに見えました」
これから仕事だ、とうんざりしている人に握られているつり革より、どれだけ幸せだろう。動物園ではツルやオオカミの写真も撮った。でも、「この一枚」には迷わずつり革の写真を選んだ。
東京都府中市立府中第三小学校の図画工作科教諭・山内佑輔さん(37)は、以前から図工の授業に写真を取り入れていた。四角く切った木材に顔を描いてキャラクターを作り、校内に置いてタブレットのカメラ機能を使って撮影するのもそのひとつ。ただ、このときの主役はキャラクターだった。
写真出前授業に参加して、「写真を撮ることがこんなにも面白く、発見があることを初めて知った」と言う。「一眼レフカメラは、タブレットとは本物感が全然違う。ファインダーをのぞいてシャッターを切るまでの行為、シャッターを切る手ごたえ、切り取った世界の新鮮さ。そのどれもに子どもたちは感動を覚えていました。いろいろな友だちの視点を共有する喜びも味わえたと思います」
「話を聞こうか」
山口 由貴奈(埼玉県富士見市立つるせ台小学校6年2組)
お父さんが窓ぎわで座っていたときに、カメラをかまえ、ふいにとった一まいです。お父さんはいつも仕事で、家にあまりいなくて、はなす機会が少ないので、この日は仕事が休みの日で、ひまそうだったので、遊ぼうかなと思いました。
由貴奈さんの父親・健司さん(49)はテレビカメラマンだ。仕事の時間が不規則で、一緒に過ごす時間は限られている。写真出前授業で由貴奈さんがカメラを持ち帰ってきたとき、健司さんは自宅にいた。家の中を撮る由貴奈さんに「いいね、そのカメラ」と健司さんが声をかける。その顔にレンズを向けてシャッターを切った。
自宅の朝顔や学校の友だち。いろいろなものを撮ったけれど、健司さんの写真を選んだのは「一番ちゃんとした写真だったから」
お父さんが格好良かったからじゃないの?
「それはない」
でも、カメラ越しにちゃんと話ができた。
「パズル」
野口 睦生(むつき)(横浜市立八景小学校5年1組)
わたしは自分と同じようなものをさがしている。さがした結果、パズルのように合わさる自分と同じような仲間ができた。もう、はなれることはないだろう。
夕暮れ時の横浜・八景島シーパラダイス(横浜市金沢区)。青から群青に変わりつつある空、刷毛で描いたよう雲、ライトアップされた建物、反転した景色が写った水面。それらが織り成す光景は完成したジグソーパズルのようだ。ひとつでも欠ければ成立しない。
時間と場所と、撮り手の気持ち。それが溶け合って息をのむようなパズルができあがった。
「人生」
藤井 心之介(横浜市立八景小学校5年2組)
ライトが光っているところもあれば消えているところもある。それが人の「人生」を表しているようだ。
大人なら「商店街暮色」なんてタイトルをつけたかもしれない。
横浜市金沢区の金沢文庫すずらん通り商店街。心之介さんがつけたタイトルは「人生」だ。駅の方に黙々と歩く人たちの背中。曇り空。見ているうちに「人生」以外のタイトルはないように思えてくる。
なぜ、このタイトルに?
「題名考えてって授業で言われたけれども、だんだん時間がなくなって......それで、これに」
これも、また人生。
「いつもと同じ夜」
山本 陸斗(東京都府中市立府中第三小学校5年2組)
いつもと同じ夜がきた。母はキッチンへ、兄はソファへ、ぼくはカメラを持ってすわっていた。ふと横を見ると母がいた。よく見るとレンジだった。グツグツ音していて良いにおいがした。明日もまた同じ夜がくる。
お母さんが横にいる。トングを手に夕食の支度をしている。でも直接はカメラを向けない。撮ったのは電子レンジの扉に写った姿。
見なくても、料理の音とにおいで、リビングのテレビの音で、家族がそこにいることを感じる。それがいつもの夜。こんな夜が、ずっと続いてほしい。
写真出前授業「見る・撮る・伝える」
原則全3回。1回目は、講師の読売新聞カメラマンが写真の撮り方やカメラの扱い方などについてアドバイス。キヤノンから提供を受けた一眼レフカメラを児童・生徒に手渡す。カメラは1週間程度自由に使うことができ、それぞれ学校や家庭、外出先などで思い思いに写真を撮ってもらう。
2回目の授業で、撮った写真から「この1枚」を選び、タイトルをつけて説明文を書く。3回目の授業でひとりひとりが作品のねらい、撮った場所などについて説明し、クラスメートが感想を伝え合う。
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