ニュース・リテラシー教育

ニュース・リテラシーとは

米ニュース・リテラシー・プロジェクト代表アラン・ミラーさんに聞く(上)

 2016年の大統領選で「フェイクニュース」が猛威をふるった米国。著しく偏った情報が飛び交い、中にはデマや虚報が「ニュース」として拡散する中、学校現場で一躍注目を集めたのが、ニュース・リテラシー教育です。そのモデルをつくった教育機関の一つ、NPO団体「ニュース・リテラシー・プロジェクト」を設立したアラン・ミラー氏に話を聞きました。

ジャンルトップの動画「米国のニュース・リテラシー教育をあなたは知っていますか」から抜粋

 アラン・ミラー(Alan Miller)氏 米NPO法人「ニュース・リテラシー・プロジェクト」代表。元新聞記者で、ロサンゼルス・タイムズ紙記者時代の2003年には、優秀な報道に贈られるピューリツァー賞を米国内報道部門で受賞している。

 

 ――ニュース・リテラシー・プロジェクトの設立に至る経緯から話してください。

 

 2006年のことです。当時は米東部メリーランド州・ベセスダに住んでいて、娘が通っていた学校で講演をしてほしいと言われました。6年生175人に対して何を話せばいいか。そこで、私はジャーナリストとして、ジャーナリズムの持つ意義、国に対して与える影響などを話しました。

 

 その2週間後、コネティカット州にある私の母校の大学で卒業30周年の同窓会があり、その場で「ジャーナリズムの未来」について講演しました。そのときに再会した同級生と意気投合し、娘の学校で講演したことを基本にしてニュース・リテラシー教育を一から始めようということになったんです。

 

 ――当時は新聞記者だったのですね。

 

 ロサンゼルス・タイムズ紙で調査報道の連載を担当していました。それもちょうど一区切りを迎えたところでもあり、ジャーナリストとしてのセカンド・キャリアだと思って退職に踏み切りました。ロサンゼルス・タイムズ紙では21年間、記者をしていて、そのうちの19年間は首都ワシントンの支局勤務でした。

 

 ロサンゼルス・タイムズ紙に加わる前まで入れると、新聞記者を29年間やってきたことになります。ワシントン・ポスト紙では東京支局のインターンもやっていたことがあるので、日本の読売新聞のこともよく知っていますよ(笑)。

 

 ――それが突然、記者をやめることに。

 

 その伏線として実は当時、気がかりなことが二つあったのです。一つは新聞を含むメディア全体に巨大な変革の波が広がりつつあり、ジャーナリズムに影響を与えていました。もう一つが、高度情報化社会という名の下、津波のように襲いかかる膨大な情報の影響です。次世代の子どもたちはどうやって、情報の真偽を一つ一つ確かめることができるのかと心配になりました。

 

 自分の娘を例に考えると、まだ彼女が幼い頃はスマートフォン(スマホ)のような電子機器類はそれほど普及してはいませんでした。せいぜいパソコンを使って情報を得る程度ですね。それが、今はどうでしょう。子どもたちはスマホを通じて届く情報の津波から、逃れることなんてできないでしょう。

 

 昔なら、各家庭では朝食の時間に親が朝刊を読みながら、子どもたちに対して正しい情報とは何か、その日の朝のニュースを通じて話し合うことができたと思います。でも、いまは違います。

ジャンルトップ動画「米国のニュース・リテラシー教育をあなたは知っていますか」から抜粋

 ――メディアの形も多様化しています。

 

 米国ではスマホでみることができるニュースサイトが増えています。でも、そうしたサイトがしっかりとジャーナリズムを実践しているか、残念ながらイエスとは言えません。実際にはそうしたサイトの多くが、自分たちでは取材をすることがないアグリゲーターです。要するに、単なる「まとめサイト」。そのようなものが米国では非常に増えているのです。

 

 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて拡散する情報も飛躍的に増えています。SNS上の情報は、そもそも注目を集めるために扇情的になりがちです。その背後には購買意識を高める意図が隠されていたり、誤った方向に導こうとする悪意が込められていたりと、残念ながら多くの問題を抱えています。

 

 ――自分の子どものことを念頭にニュース・リテラシー教育が始まったのですね。

 

 次世代の子どもたちは、どうやって正しい情報を自ら選別して得ることができるようになるのか。それを考えるととても心配になりました。大人になるためには、社会の一員になる必要がありますが、良き市民になるためには健全な考えを持っていなければなりません。正しいニュースを得られるようになるためには、ジャーナリズムのことを理解してもらわないといけない。ジャーナリズムに賛同する子どもたちを増やしていく必要があると考えていました。

 

 (聞き手 吉池亮・教育ネットワーク事務局長。2017年に行ったインタビューをもとに再構成しました)

 

米ニュース・リテラシー・プロジェクト代表アラン・ミラーさんに聞く(中)

 

(2021年2月 8日 12:42)
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