米ニュース・リテラシー・プロジェクト代表アラン・ミラーさんに聞く(中)
2006年に娘の小学校でジャーナリズムについて講演をしたミラーさんは、ニュース・リテラシー教育を広める必要があると考えるようになります。そして、思い切って新聞記者をやめ、新しい分野を開拓するために活動を始めました。
ジャンルトップの動画「米国のニュース・リテラシー教育をあなたは知っていますか」から抜粋 |
アラン・ミラー(Alan Miller)氏 米NPO法人「ニュース・リテラシー・プロジェクト」代表。元新聞記者で、ロサンゼルス・タイムズ紙記者時代の2003年には、優秀な報道に贈られるピューリツァー賞を米国内報道部門で受賞している。
――ニュース・リテラシー教育は、ジャーナリズムを真正面から取り上げていますね。
そうです。ジャーナリズムをジャーナリストの側、すなわち情報を発信する側から考えてばかりではダメで、情報の受け手側をどうするかについて考えるようになりました。ニュースや情報を「消費」する側に立つべきだということに気付いたのです。
簡単にいうと、受け手にとって大事なことは、デジタル社会でのサバイバル術ですね。情報をうのみにするのではなく、批判的に検証するという能力を高める必要があるということです。何を信じ、何をシェア(拡散)し、その情報に基づいてどういう行動を起こすのか。そうしたスキルが求められているからです。
――これまで情報の受け手に対する教育というものはありませんでした。
教育界もデジタル社会の負の側面にはなかなか気づきませんでした。しかし、ジャーナリズム、報道機関の方はもっと深刻だったかもしれませんね。
もし一般市民がジャーナリズムの価値を認めなくなってしまえば、そんなものは必要ないと思ってしまえば、お金を払ってまで得る情報ではないという指向が強まれば強まるほど、民主主義社会は危うくなっていきます。私にとってはそれが、ニュース・リテラシー教育を推し進める強い動機となっていたのです。
ジャンルトップの動画「米国のニュース・リテラシー教育をあなたは知っていますか」から抜粋 |
――ジャーナリズムの価値を高めることですね。
私自身もジャーナリストとして、ジャーナリズムの力を信じています。ジャーナリズムの世界には優秀な仲間が大勢います。そうした人たちが結束して、この高度情報化社会の中で、自分たちが持つ優秀な取材力、編集力、ジャーナリストとしての高い技量を社会の多くの人たちにも分け与えることができたら、社会はよりよくなると信じています。
まず考えたことは、こうしたジャーナリストたちが持つ優秀な能力を次世代の子どもたちにいかに伝えていくかということでした。ジャーナリストとしてのスキルを身につければ、それが子どもたち自身に力を与え、彼らの発言力も高まることでしょう。そんな呼びかけに米国全体で何百人ものジャーナリストたちが応え、立ち上がってくれたのです。私たちの教育プログラムはそうやって完成させました。
しかし、原点にあるのは、いまも同じです。2006年に、自分の娘の学校に出かけていって講演をした際に感じたこと、体験したことを、そのまま同志であるジャーナリストたちにも「追体験」させることを目指しています。この考えをもとにニュース・リテラシー・プロジェクトは2007年からスタートし、2009年にはメリーランド州ベセスダとニューヨーク市内の一部の学校で試験的に授業が始まりました。
――様々なメディアの人たちも参加していますね。
ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナルなどの大手紙からテレビ局のNBCニュース、ネットメディアのBuzzfeed(バズフィード)など様々なメディアの著名記者たちも名を連ねています。記者だけでなく、「言論の自由」に詳しい学識経験者も協力しています。
(聞き手 吉池亮・教育ネットワーク事務局長。2017年に行ったインタビューをもとに再構成しました)
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