海外で学ぶ・リレーエッセー[68]米ニューヨーク大 やりたいことを探して...

現在のルームメイトと一緒に参加したペアルックアイススケートイベントで(左)

湘南白百合学園高(神奈川県)卒、米ニューヨーク大学4年(20年9月時点)

北村 萌 さん

Kitamura Megu

 私の1年生時代の寮の真下には大学所有のスターバックス・コーヒーがあった。毎学期ミールプランの一部として支給される300ドルを握りしめ、「ニューヨーカーみたいに毎朝スタバを持って授業に行こう」などという妄想をしながら、1年間お世話になる角部屋に足を踏み入れた。その時元気よく出迎えてくれたのがカリフォルニア州出身のルームメイトである。1日目から打ち解け、夜中までお互いのこと、授業のこと、家族のこと、そして将来のことを語り合った。

 

 「私は美術史専攻だけど、将来の夢は外科医になること」

 

 こんなぶっ飛んだ人生設計を堂々と語る人は初めてだった。ニューヨークはこのように大きな夢を持った人々が住み着く街であるという事実は後々分かってくることになるのだが、海外の大学に進学することが人生の中で一番のゴールになってしまっていた私にとっては考えられない次元の話だった。

 

 私がニューヨーク大学に進学することにした理由がまさに将来やりたいことが全く分からなかったからである。ニューヨーク大学には最初の2年間自分の興味を探求できるリベラルアーツ・プログラムがあったので、大学では自分が没頭できる学問を探すことを目標として掲げていた。

 

 しかし、私のルームメイトみたいに野望・野心を語る学生は周りに山ほどいた。焦りを感じながら、私は2年かけて、哲学や心理学、美術学など様々な授業を取ることとなった。どの授業も面白かったが、どれも腑(ふ)に落ちなかったのは予想外のことだった。

 

1年生の時にニューヨーク大学が無料で配布していたチケットを勝ち取り友達と人気の音楽フェスに行った(右から2人目)

 

 その時、大学の先輩が「海外ドラマがそんなに好きならMedia Culture and Communication(メディア文化コミュニケーション論)の授業を取ってみればいいじゃん。映画やテレビドラマのことが学べるよ」と教えてくれた。確かに私は毎年70本以上の海外ドラマを見る大の海外ドラマ好きだったが、自分の趣味を実際に大学で学べるはずなどない、と思っていたので半信半疑だった。しかし、一つ授業を取っただけでこの学問の世界観の虜(とりこ)になってしまったのである。

 

 私がやっと巡り合うことが出来たこの専攻はメディアやテクノロジーを切り口に社会を読み解こうとする比較的新しい学問である。私は現在、学部卒業後もこの道での学びを続けていきたいと思っているが、だからと言って将来やりたいことが鮮明に決まっているわけではない。将来の夢に向かって一生懸命突き進んでいる友人達が輝かしく見える一方、自分のペースで将来の人生設計をすることは間違った選択肢ではないのではないか、とも思うのである。

 

現在プレジデントとして所属している大学のクラブJapanese Cultural Association(JCA)で(写真奥左から4人目)=いずれも本人提供

ニューヨーク大学

1831年創立のニューヨーク中心部に位置する全米有数の私立総合大学。2019年時点で、モハメド・エルバラダイ国際原子力機関元事務局長らノーベル賞受賞者が37人を数える一方、アラン・グリーンスパン米連邦準備制度理事会(FRB)議長や、映画監督のマーティン・スコセッシ、女優のアンジェリーナ・ジョリーら米アカデミー賞受賞者も30人に上っており、出身者は幅広い分野で活躍している。

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海外留学を目指す高校生に進学支援を行っているNPO法人「留学フェローシップ」のメンバーが、海外のキャンパスライフをリレー連載します。留学フェローシップの詳細は>>ウェブサイトへ。

(2020年9月25日 09:30)
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