大学を歩く:下がり続ける薬学部の卒業率

大学を専門に取材する記者のコラムです

 

 読売新聞が7月9日付朝刊別刷り特集で掲載した「大学の実力」調査。8回目となる今年、目を引いたのは、薬剤師の養成を目指す6年制薬学部の標準修業年限卒業率(規定の年数で卒業する学生の比率)の低さだ。71.2%と、6年制薬学部として初の卒業生を出した3年前より6ポイントも下がっていたのだ。

 一方、退学率は9.3%と、歯学部(7.7%)や医学部(1.6%)より高く、とりわけ私立(11%)は国公立(4.3%)の倍以上だった。卒業率と退学率の状況から、全体の23%の約2200人もが留年か休学で6年を超えて在籍しているとみられる。

 

 背景にあるのは薬学部の急増だ。少子化で学生確保競争が激化する中で規制緩和が行われ、受験生の人気を集めそうな薬学部開設に文系の大学も新規参入。2003年以降、薬学部を有する大学数は従来の46から74に急増した。その結果、「学力を問わずに入学させているところもある」と文部科学省医学教育課が指摘するような、合格乱発の事態が起きた。

 全74大学が加盟する薬学教育評価機構の井上圭三理事長によると、カリキュラムや設備さえ整えないままに開設するなど、入学者が幻滅感を抱く大学もあるといい、「経営偏重の大学トップ層の姿勢が災いしている」と話す。加えて、大学ごとに公表される国家試験合格率を下げないよう進級のハードルを上げていることが留年者増の傾向に拍車をかけているとも見る。

 事実、ある大学幹部は「学生確保を優先し、基礎学力には目をつぶって入学させた」と明かす。いきおい国家試験の合格率は低迷したため、薬学部の学習に必須の「理科」を入試科目からはずしてきた近年の入試のあり方を見直し、来年からは受験生全員に課すことにしたという。同様の事情を抱える大学は少なからずあり、「定員確保のために入れた、学力に問題のある学生の卒業年にあたった」ため、卒業率が前年の半分以下の30%台というところもあった。

 文科省もこうした実態はつかんでおり、今年3月、74大学に対し、留年・進級率など学生の実態がわかる詳細データを大学のホームページで公開するなどして事態の改善を図るよう通知した。「情報公開によって入試や教育の変革を促したい」としている。

 

 調査からは、学生確保が難しい時代に入試を全面的に大学に任せると経営偏重に陥り、様々な弊害が生じる実態が浮かんだ。文科省が進める情報公開の流れは、現状改革の意味から一つの前進ではあるが、必ずしも特効薬になるとは限らない。大切なのは、入試はゴールではないという現実を大学に進もうとする人がきちんと認識することだろう。資格につながる学部に入ればもう安泰、という安直な考えで6年間を頑張ることは難しい。 (読売新聞専門委員 松本美奈)

(2015年7月15日 13:20)
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